第19話
「――お主はその道を選ぶか、レヴィ。」
魔界のさらに奥の方、深淵に存在する漆黒の城。
そこに住まう男の名は"ゼノン・アビス"。
彼はレヴィが魔王として君臨する前、四天王すら知らない魔界の古参の存在、いわば、"深淵王"。
「魔王とは、魔族を"守る者"ではない。魔族を"従える者"である。......お前は優しくなりすぎたようだな」
ゼノンは人間界を覗いていた鏡に、先程まで嗜んでいた血の様な酒をかけた。
――ゼノンの心を占めるのは、レヴィに対する"愛憎"。
「......魔王として"悪"になりきれないお前が憎いはずなのに、何故だかそれすらも愛おしく感じてしまう......。あぁ、お前をこの手の中に閉じ込めてしまいたい。......ヴァルク。」
「......ハッ!こちらに」
漆黒の鎧。巨大な身体。
......それはレヴィの傍らに常に付き従う"ドラゴンナイト"。
「お前はよくやってくれている。これからもレヴィを頼んだぞ?決して人間にレヴィを渡すな。......ヤツは私の物だ」
「......しかし、深淵王様」
ヴァルクが発言をしようとした時、ヒュッと彼の頬をナイフがかすり、一筋の血が流れ落ちる。
「ヴァルク。お前の"真の主"は私であるぞ。駒であるお前が私に口答えすることは許さない」
「......御意」
「ハァ。もうよい。引き続きレヴィの監視を頼んだぞ」
ヴァルクは静かに闇へと消えて行った。
そしてゼノンは一人になった部屋で、再びレヴィを監視し始めた。
その目は恍惚としていて暗い部屋で不気味に光っていた――
「......レヴィ、いつか必ず、お前を私の物にしてみせる」
――誰もいない部屋に甘く低い呟きだけが暗闇の中に不気味に残った。
「ヴァルク?どこだ、ヴァルク?」
私は急に姿を消したヴァルクを心配して聖祈堂の周りを探し回った。
しかし、いくら探しても、呼んでもヴァルクが姿を現すことはなかった。
私は、肩を落とし聖祈堂の中へと戻って行った。
すると、甘くフルーティーな香りが鼻孔をくすぐる。
「レヴィ様。丁度お茶が入ったのでお呼びしようと思っていた所です。少々お疲れになったでしょう?」
セラフィはそう言うと、とある部屋へと私を誘った。
「......ここは?」
「こちらは"聖茶室"と言う場所です。祈りを終えた者が心を落ち着かせるための部屋なんですよ」
「......私は祈りなどしてはいないが?」
「レヴィ様は創世神様そのものなので、お気になさらず」
......いまだに"創世神"と呼ばれるのには違和感がぬぐえない。
私はセラフィに気になった事を聞いた。
「......セラフィ。私はこれからどのようにして生きていけばいい?"中立の審判"とは何をすればよいのだ?」
「そうですね。一番心がけなければならないのは、人間と魔族の双方の行いを"平等"に裁く事、ですね」
......なるほど。そう言うものなのか。
「レヴィ様ならば争いが起きた事を察することが出来るでしょう?」
「まぁ、そうだな。魔力感知は簡単にすることが出来る」
「......?ならばヴァルク様も魔力感知で探せばよいのでは?」
「してみたのだが......まったく引っかからなかったのだ。......?この気配は!」
私は思わず走り出して外へと出た。
すると、ヴァルクがこちらに向かって歩いてきたのだった。
「ヴァルク!!一体どこに行っていたのだ?!心配したのだぞ?!......お前は私の騎士であろう。私のそばを離れてどうする!!」
「......申し訳ございません」
「いや、無事ならばそれでいいのだ」
「!!」
何故か私の言葉にヴァルクは驚いた顔をした。
なにか、おかしなことを言っただろうか?
「......お咎めは無いのですか?」
「お前もしなければならない事があるであろう?いちいち咎めていてはこちらが疲れる。それに......」
「?」
「私はお前を信じているからな。おまえは安心してお前の職務を果たせ」
するとヴァルクは深々と頭を下げた。
「――お前にはそばにいてもらわなければ困るからな。これからも頼りにしているぞ?"私のドラゴンナイト"」
「......!!」
ヴァルクの瞳がわずかに揺らぐ。
その言葉が彼の心に深く突き刺さったことを――私はまだ知らない。




