第18話
ヴァルクの不在に疑問を持った私に、セラフィは静かに微笑むととんでもない事を言ってのけた。
「レヴィ様が倒れた瞬間姿を現し......」
セラフィはもったいぶったかのように溜めこみ、......そして。
「わたくしに剣を向け、『魔王様に何をした』と」
「あの男らしいな......」
私は思わず苦笑する。
しかし、セラフィは笑顔を崩さずに言葉を続けた。
「安心してください、レヴィ様。わたくしは何もしていません。......ただ」
「ただ?」
セラフィンは創世神の像へと視線を向けた。
「貴方様の"本来の記憶"が戻り始めただけです」
「......"本来の記憶"、とは?」
「えぇ。貴方様の中に秘められた記憶」
セラフィンはそう言うと私の元に跪いた。
先程まで興奮していた人物とはまるで別人であった。
今のセラフィンは長年この時を待ち続けた信徒の様だった。
「わたくしの使命の一つは、この世界を創り、そして姿を消した神を見つけ出す事」
「......」
「人々は貴方様を魔王と恐れるでしょう。ですが私は知っています。貴方が捨てたのはこの世界ではなく、この世界を守るために"神である自分"を捨てたのだと。そして、自ら闇に落ちて行ったのだと」
......やめろ。そんな目で私を見るな。
私はもうそんな資格は無いのだから。
「......あのルナリア様といた中庭の奥にあった白銀に光る薔薇の神木。あれは創世神様が植えたといわれています。......本来、邪気に当てられては枯れてしまうのに、枯れるどころか神々しく咲き誇っていました。......それだけ貴方には神聖な力が備わっているということです」
「......私は魔王ではない、と?」
私の問いかけにセラフィは静かに首を振った。
「いいえ。貴方様は紛れもない魔王です。......どう言えばいいのか難しいのですが、......簡単に言うと、貴方様の中には魔属性と聖属性が織り交ざっているようなのです」
「......それも私の魂を見て?」
「はい」
......と言う事は私は魔王にも神にも人間にもなれない中途半端な存在と言う事になる。
私を慕ってくれていた四天王や他の魔族たちに顔向けできない。
かといって、私には彼らを見捨てる事など......出来るわけがない。
「......セラフィ。私はこれからどうすればいい?このまま魔王でいていいのか?」
「落ち着いてください、レヴィ様。貴方様は唯一、中立の立場にいることが出来る存在です。だから、これからは"中立の審判"として存在するべきです」
「......"中立の審判"?」
「魔族にも、人間にも寄り添える。そんな"中立の審判"に貴方様ならなれます」
......セラフィは私を買いかぶりすぎだ。
......しかし、そんな存在になれるのなら、きっと一番いい結果になるであろう。
人間と魔族。光と闇。その境界を生きる者として――。
「私は、私の道へ行く」
私の決意が聖祈堂に静かに響き渡った。
そして、私の決意を祝福するかのように、ステンドグラスから差し込んだ光が私を優しく包み込んだ。
――この温かな光。私はどこか懐かしさを感じた。




