第14話
私は朝食をとり終え、自室に向かうと......二人はいまだ石像と化していた。
そのためヴァルクを伴い城内を散策することにした。
一度エリオスから案内はしてもらったがどうしても行きたいところがあったのだ。
――それはあの美しい薔薇園である。私はまるで蝶にでもなったかのように薔薇園へと足を運ぶ。
そこは城の中庭に設えられた美しい庭園で、着くと......そこには小さな先客がいた。
「小さなレディ。ご一緒しても?」
「!! あなたが......まおう? ちちさまにきいたの。まおうがおしろにきてるって。......ここにはなにしにきたの?」
「......驚かせて済まない。私はただ薔薇園を見に来ただけなのだ」
「......らんぼう、しない?」
こんな小さな子供でも魔物の恐ろしさは知っているようだ。
私は極力優しく、怖がらせないように少女に声をかけた。
「私は魔王。レヴィ・ノクス。どうか気兼ねなく"レヴィ"と呼んでください。......それで? レディのお名前を伺っても?」
「......るなりあ。ルナリア・セレスティアともうします」
「ルナリア......良い名だな。ルナリア王女はよくここに?」
私が問うと、ルナリアはコクリと小さく頷いた。
そして、今度はルナリアの方から話しかけてきた。
「レヴィはばら、すき?」
「あぁ。美しく、高貴で......それでいて、茨で人を遠ざける孤高さが私は好きだ」
「......レヴィのことばは、むずかしい」
おや。少し拗ねてしまったか。
......それでは、とっておきの魔法を披露しようか。
「ルナリア王女。私の手を見ていてください」
「?」
私は手のひらに魔力を集める。
透き通る光が渦を巻き、やがて水晶のように透き通るガラスの薔薇が静かに咲いた。
ルナリアはそれをキラキラした瞳で見ている。
「どうぞ? ルナリア王女。この薔薇は私が生きている限り輝き続けます。決して枯れることはありません」
「......レヴィがしんじゃったら、ばら、なくなっちゃうの?」
「......そうです。私が命を落とせば、この薔薇も静かに消えてしまいます。いいですか? 魔力で生み出されたものは、創造主の命が尽きれば跡形もなく綺麗さっぱり消えてしまうのです。魔王である私が言うのもおかしい話ですが、それだけ命は尊い物です。なので大切にしなければいけません」
「分かりましたか?」と問うと、ルナリアは何故か涙をポロポロと流しながら私に抱き着いてきた。
「だめ! レヴィはしんじゃだめなの!!」
「......ルナリア王女は心が美しく優しいのですね。ですが、心配いりません。私は魔王ですよ? そう簡単には死にはしません」
「ほんと?」
私はその問いかけに静かに頷いた。
「じゃあ、ルナがおおきくなったら、およめさんにしてくれる?」
「ハハッ。"およめさん"とは分かりませんが......私は魔王。それに見合う美しく、優しい立派なレディになってくださいね?」
私はそう言うとルナリアの元で跪き、彼女の手の甲に口づけを落とした。
ルナリアは顔を真っ赤にしてコクコクと頷いた。
――この幼き王女は、きっと誰よりも気高く、優しく、美しい花を咲かせるであろう。
そんな確信にも似た予感が、薔薇の香と共に私の胸に静かに刻まれた。




