第13話
私は初めて"二日酔い"と言うものを経験した。
......なかなかに辛いものである。
「魔王様、解毒魔法を使えばよろしいのでは?」
ヴァルクの言った事はごもっともだ。しかし......
「......いや、これは人間界で得た貴重な経験だ」
「......二日酔いを"経験"と呼ぶのは魔王様。貴方くらいです」
ヴァルクはやれやれ、と呆れたように首を横に振った。
その時、部屋の扉がコンコンと叩かれた。
そして入って来たのはエリオスとセラフィンの二人であった。
朝から二人一緒とは仲が良いのだな。
そう思っていると、ヴァルクがコホンと咳払いを一つした。
「......魔王様。なんだか的外れな事を考えてはいませんか?」
「?あぁ。二人は朝から仲が良いのだな、と。」
「「ハァ?!」」
「......やめてくれ、頭に響く」
私が頭を抑えながら二人に懇願すると、謝罪の言葉をかけて来た。
しかし、ここまで息ぴったりなのに"仲がいい"と言われるのが嫌なようだ。
実に不思議である。
「......レヴィ。昨日は......その、大丈夫だったか?」
「......この状態の私を見て大丈夫だと思うのなら、おめでたい頭だ」
「ぐっ......ごめん」
「レヴィ様。解毒魔法をかけましょうか?」
......せっかくの経験だが、さすがにもう辛くなってきた。
セラフィンの言う通り、解毒魔法を使うか......。
む、二日酔いのせいか魔力のコントロールが出来ない。
「すまないがセラフィン。二日酔いのせいか上手くできない。代わりにしてくれるか?」
「......わかりました。"プルガティオ・ポティオール"」
セラフィンが呪文を唱えると、月光のような淡い金白色が私を包み込んだ。
柔らかな光は身体の奥底まで染み渡り、体内のアルコールのみを浄化するように静かに消し去っていった。
「ありがとうセラフィン。......しかし、アレだな。魔界の酒はいくら飲んでもこうはならないのに、人間界の酒は飲みすぎると二日酔いになる。......人間は物好きだな」
「レヴィの飲みっぷりが良すぎたんだよ。人間も自分の限界は飲みながら学んでいくんだ。レヴィも今回で学んだだろう?ましてや、父上の飲むワインは度数が高いものばかりだからね」
......なるほど。やはり人間は賢い生き物だというのは間違いなかったな。
そうだ。酔っていたせいで記憶がほとんどないが、ヴァルクに"餌"を与えただろうか?
「ヴァルク、こちらに来い」
「?はい」
ヴァルクがそばに来て跪いたのを確認すると、私はヴァルクに口づけをした。
それを見たエリオスとセラフィンは声にはならない悲鳴を上げていた。
......何故、二人ともそんな世界の終わりでも見たかのような顔をしているのだろうか?
「ヴァルク。腹は満ちたか?」
「......お忘れかもしれませんが、昨夜いただいたので過剰摂取になってしまいます。......それに、このお二人を見てください。あまり人前でしませんようお願いいたします」
「?あぁ」
"餌"を与える行為のどこが悪かったのか、それを見たエリオスとセラフィンは言葉を失ったまま石像のようにカチコチに固まってしまった。
エリオスは口元を手で覆い、セラフィンは額に手を当て、天を仰いでいる。
「お、おい。エリオス?セラフィン?どうした?」
「......魔王様、お二人はそっとしておきましょう。衝撃が強かったのです。そのうち正気を取り戻すでしょう」
ヴァルクがそう言うのなら......そうなのだろう。
私はそれ以上気にすることな、くヴァルクを伴い朝食をとりに大広間へと足を向けた。




