表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/7

4話 報酬の表す事実

ギルドを出ると、夕日が王都の石畳を赤く染め始めていた。


昼間ほどの賑わいはないものの、大通りには仕事帰りの人々が行き交っている。


「あー、うまくいってよかったなぁ」


シェイラが両手を頭の後ろで組み、大きく伸びをする。


「そうですね。初めてのお仕事でしたけど、無事に終わってよかったです」


カティアもほっとしたように笑った。


二人はまだまだ元気そうだ。


その背中を見ながら、あたしは少し遅れて歩く。


「ちょ、ちょっと待ってよぉ……」


「ん?」


シェイラが振り返る。


「二人とも元気だね……。あたし、足パンパンなんだけど……」


思わず太ももをさする。


朝から畑を歩き回って、荷物を運んで、しゃがんだり立ったりを何度も繰り返した。


工房でも立ち仕事ではあったけれど、こんな肉体労働とは全然違う。


「なんや、だらしないなぁ」


シェイラは笑いながら肩をすくめる。


「いやいや、あたし設計担当だったから! 工房で重い物運ぶことなんてほとんどなかったし!」


「キャナリィさん、お疲れ様です」


カティアがあたしの歩幅に合わせて隣へ来る。


「ここ数日、引っ越しやら何やらでゆっくりできませんでしたし……」


少し考えてから、柔らかく微笑んだ。


「お風呂でも入りませんか?」


「あっ、それ!」


思わず声が弾む。


「賛成!」


「決まりやな」


シェイラも異論はないらしい。


「王都は風呂屋さんたくさんあるし、値段も安いしいいよね」


「ウチも初めて王都来た時はびっくりしたわ。毎日風呂入る奴なんかおるんやって」


「私の地元も、毎日というほどではありませんでした」


カティアが頷く。


「仕事の後は体を拭くだけの日も多かったです」


「そう考えると、王都って贅沢だよね」


三人でそんな話をしながら歩いていると、大通りの角に湯気を上げる建物が見えてきた。


「ここでええかな」


シェイラが迷いなく中へ入っていく。


◇ ◇ ◇


「はぁぁぁぁ……」


思わず声が漏れた。


肩まで湯に浸かると、張っていた足がじんわりと緩んでいく。


「あゔー……」


「キャナリィさん、溶けてますよ」


カティアがくすっと笑う。お湯につからないように髪をまとめている姿がまだ見慣れない。


「もう無理……絶対明日筋肉痛……」


「今日よう頑張った証拠や」


向かいでシェイラが湯船に座ると引き締まった体が目に入った。湯船のなかでバレないように二の腕とおなかに手を伸ばすとあんまり認めたくない感触があった。


「カティアの洗濯魔法があれば、お風呂いらないんじゃない?」


ふと思いついて聞いてみる。


「残念ながら、そういう魔法ではありません」


カティアは少し苦笑した。


「服や布の汚れを落とす用ですから、体の汚れはやっぱり入浴しないと」


「なるほどねぇ」


「あっ、でも髪乾かすのは得意ですよ」


「え、ほんま?」


「はい」


シェイラが身を乗り出す。


「それめっちゃええやん」


「お風呂上がりに試してみますね」


三人で笑い合う。


こうして何気ない話をしているだけなのに、不思議と疲れが抜けていく気がした。


◇ ◇ ◇


風呂を出る頃には、すっかり日も暮れていた。


「腹減ったぁ」


真っ先に言ったのはシェイラだった。


「お風呂にはいるとお腹がすく気がしますよね」


「腹は別や」


「まあ、あたしもお腹空いたかな」


今日は朝からパンと、農園でご馳走になったスープだけだ。


体を動かしたせいか、いつもよりずっと空腹だった。


「今日は少し贅沢してもいいですよね」


カティアが控えめに言う。


「報酬も入りましたし」


「ええやん!」


シェイラが即答する。


「今日は祝いの日や!」


「祝いって……初仕事だけどね」


「初仕事はめでたいもんや」


その言葉に思わず笑ってしまう。


「じゃあ、今日は外で食べようか」


三人は浴場の近くにある食堂へ向かって歩き始めた。




食堂は仕事帰りの客で賑わっていた。


店員に案内され、三人掛けの席へ腰を下ろす。


「今日はちょっとええもん食べたいなぁ。どうせなら肉や肉」


メニューを開く前から言い切るシェイラに、思わず笑ってしまう。


「まだ何も見てないじゃん」


「肉くらいあるやろ」


「ありますね」


カティアまで頷いた。


結局、三人とも日替わり定食を注文した。


焼いた肉に温野菜、スープ、それに炊きたてのご飯。


いつもより少しだけ豪華な夕食だった。


「いただきます」


一口食べるなり、シェイラが目を丸くする。


「うまっ!」


「働いた後だから余計に美味しいですね」


カティアも嬉しそうに微笑む。


しばらく三人とも黙々と食べていたが、ふとカティアが箸を止めた。


「そういえばシェイラさん。本当にホーンボアの報酬まで三人で分けてしまって良かったんですか? 倒したのはシェイラさんでしたし……」


シェイラは気にした様子もなく肩をすくめる。


「ええって。三人で受けた仕事やし、一人やったら農園にも行っとらんしホーンボアにも会っとらん。せやから三人で分けた方が気持ちええやろ」


その言葉に、カティアはほっとしたように頭を下げた。


「ありがとうございます」


「気にせん気にせん」


食事が一段落したところで、あたしはギルドでもらった明細を机へ広げた。


農園作業 三〇〇〇G


魔導具修理 一〇〇〇G


ホーンボア討伐 八〇〇〇G


瘴核売却 三〇〇〇G


合計 一五〇〇〇G


三人で分けて、一人五〇〇〇G。


工房で働いていた頃なら、一週間近く働いてようやく手にできる金額だった。


「改めて見るとすごいね。冒険者って思ってたより夢があるかも」


そう呟くと、シェイラは苦笑いしながら首を振った。


「今日は特別や。農園仕事だけやったら前の仕事とそんな変わらへんし、ホーンボアがおったからここまで増えたんや。毎回こんな依頼に当たるわけちゃうで」


浮かれかけていた気持ちが少し落ち着く。


確かに今日は運が良かっただけなのかもしれない。


「それに今回はホーンボアやったから何とかなっただけや。弱点知っとったしな。魔物なんて魔法飛ばしてくる奴もおるし、毒持っとる奴もおる。群れで襲ってくる奴もおるから、一歩間違えたら普通に死ぬ」


酒場で働いていたシェイラは、冒険者からそんな話を何度も聞いてきたんだろう。


軽い口調なのに、不思議と重みがあった。


「せやけど、知識付けて準備したら勝てる相手もちゃんとおる。無茶さえせんかったらええんや」


あたしは明細から顔を上げる。


「戦えるようになれば、依頼の幅は広がるよね」


「それはそうやな」


シェイラは素直に頷いた。


一方で、カティアは少し困ったように笑う。


「でも私には戦う魔法なんてありません。生活魔法しか使えませんし……」


その言葉を聞いたシェイラが、何かを思い出したようにあたしたちを見比べた。


「せやけど今日見とって思ったんや。キャナリィは魔導具直したし、カティアは家具動かしたり掃除したりしとったやろ。あれ、そのまま戦いに使えへんの?」


思わず考え込む。


生活魔法も術式で構成された魔法だ。


生活用に用途を限定しているだけで、理論そのものは他の魔法と変わらない。


「……できるかもしれない」


自然と声が漏れた。


「術式を書き換えれば応用はできると思う。ただ、今のままじゃ無理だから調整と練習は必要だけど」


「ほんまか」


シェイラが身を乗り出す。


「じゃあ今度試してみようや。いきなり魔物倒しに行くんやなくて、まずは使えるかどうか試すところからや」


「私も、やってみたいです」


カティアも真剣な表情で頷く。


生活魔法を、戦うための魔法へ。


まだ成功するかは分からない。


それでも、三人で目指す次の目標は決まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ