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3話 就活で収穫

ギルドで依頼を受けた私たちは、王都中を巡回する魔導列車へ飛び乗った。


窓の外には朝から賑わう王都の街並みが流れていく。


「王都って広いんですねぇ」


窓に顔を寄せたカティアが、感心したように外を眺める。


「こうやって見ると改めて思うよね」


王都は区画ごとに表情が違う。


南には商人や買い物客で賑わう商業区。


東には煙突が立ち並ぶ工業区。


そして列車は西へ向かう。


やがて見慣れた街並みが見え始めた。


石造りの建物の軒先には工具や歯車が並び、朝から職人たちが忙しく働いている。


思わず窓の外へ目が向いた。


「キャナリィさん、この辺りだったんですか?」


「……うん」


自然と頷く。


「あたしも十六で王都へ出てきてさ。最初は大家さんの家に住み込みで、四年間ずっと工房で働いてたんだ」


あの頃は毎日忙しかった。


朝から晩まで魔導具を分解して、組み立てて、術式を書き直して。


それでも楽しかった。


「やりたかった仕事だったんだけどね。こんな終わり方するなんて思わなかったなぁ」


「まだ戻りたいと思ってるんですね」


カティアの言葉に少し笑う。


「そりゃね。好きな仕事だったし」


すると向かいに座っていたシェイラが、あっさりと言った。


「またやりゃいいじゃん」


「え?」


「これからガッツリ稼いで、自分の店でも持ちゃいいんだよ」


思わず目を瞬かせる。


そんなこと、一度も考えたことがなかった。


「応援します」


カティアが微笑む。


「キャナリィさんがお店を持たれたら、私がお支えします」


「じゃあ、あたし店番しよっか」


「シェイラ、それ絶対サボるでしょ」


「失礼な」


三人で笑う。


工房を失ったからって、選択肢まで失ったわけじゃない。


やりたいことがあるなら、それに向かって働けばいい。


そんな当たり前のことを、二人に教えられた気がした。


◇ ◇ ◇


今回の依頼は、王都郊外にある農園での収穫作業だった。


数日前、畑を荒らした害獣のせいで従業員が怪我をし、人手が足りなくなったらしい。


収穫した野菜を洗い、仕分けして箱へ詰める。


運び終えた箱を荷車へ積み込む。


冒険者らしい仕事ではなかったけれど、三人とも前職で体を動かすことには慣れている。


午前中は驚くほど順調だった。


「あれ?」


畑の端から農園の主人の声が聞こえた。


散水用の水汲み機が止まっている。


主人は困ったように魔導具を叩いていた。


「ちょっと見てもいいですか?」


許可をもらって外装を開ける。


中を覗き込むと、瘴核へ刻まれた術式の一部が欠けていた。


「これくらいなら」


指先から魔力線を紡ぎ、欠損した術式を補っていく。


しばらくすると水車が音を立てて回り始め、水が勢いよく流れ始めた。


「直った!」


農園の主人が目を丸くする。


「助かったよ。本当なら職人を呼ばなきゃいけなかったんだ」


「応急処置ですけどね。術式自体は古くなってるので、時間がある時に刻み直した方がいいと思います」


「そこまで分かるのかい?」


「それが前の仕事でしたから」


久しぶりに口にしたその言葉が、少しだけ嬉しかった。



昼食には収穫したばかりの野菜を使ったスープをごちそうになった。


持ってきたのはパンだけだったから、本当にありがたい。


温かいスープはよく煮込まれていて、野菜の甘みが身体に染み渡る。


「おいしい……」


「やっぱ畑で食う飯はうまいな」


シェイラは二杯目をもらっている。


カティアも嬉しそうに笑っていた。



昼休憩が終わり、午後の作業を始めてしばらくした頃だった。


「出たぞ!」


農園の主人の叫び声が響く。


畑の向こうから、ツノの生えた豚のような害獣が走ってきた。


「近づくな!」


主人が叫ぶより早く、シェイラが近くにあったスコップを掴んだ。


「あっ」


駆け出す。


すれ違いざまに鈍い音が一つ響いた。


害獣はその場に崩れ落ち、小刻みに痙攣していた。


「終わった」


スコップを肩に担いだシェイラが戻ってくる。


「……早」


思わず漏れた声に、本人は首を傾げるだけだった。


「酒場でもたまに暴れる客おったし」


比べる相手がおかしい。


作業を終えた後は、カティアが生活魔法で皆の作業着についた泥を落としてくれた。


さらに家具を運ぶ魔法で倒れた害獣を畑の外まで移動させる。


農園の人たちは何度も礼を言ってくれた。



夕方、ギルドへ戻り報告を済ませる。


「こちらが今回の報酬になります」


受付の職員が袋を三つ並べた。


「依頼主様から、魔導具修理のお礼として追加報酬を預かっています」


「え?」


「それから、ホーンボア討伐報酬です。瘴核も回収しておりますが、こちらは換金されますか? それともお持ち帰りになりますか?」


「どゆこと?」


シェイラが首を傾げる。


「ホーンボアは瘴気によって魔物化した害獣です。魔物討伐にはギルドからも報酬が支払われます」


「魔物だったんですね」


カティアが少し驚いたように言う。


「まあ、魔物って言ってもピンキリやからな」


シェイラはあまり気にした様子もない。


「キャナリィも修理したから追加報酬もらえたんやろ? あっちの方がすごいやん」


「いや、シェイラの方が十分すごいと思うけど」


「お二人ともすごいです」


職員は苦笑しながら支払明細を差し出した。


「金額をご確認のうえ、受領のサインをお願いします」


明細を見たカティアが目を丸くする。


「これ……間違ってませんか?」


三人で覗き込む。


そこには、前職なら半月近く働いてようやく手にできる金額が記されていた。


三人で分けても、一週間働いたくらいの日当になる。


「今回は追加報酬が重なりましたので、普段より多めですね」


職員が説明する。


「それでも……」


思わず顔を見合わせる。


冒険者としての最初の仕事は、予想以上の成果で終わった。


「今日はパンだけじゃなくて肉も買えるな」


「シェイラさん、もう晩ご飯のことですか」


「腹減ったし」


「でも、せっかくだし今日は少し贅沢してもいいかも」


明細をもう一度見つめる。


まだ一日だけ。


それでも、失業して先が見えなかった昨日より、今日の方が少しだけ未来が明るく見えた。

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