2話 共同生活始めました
朝日がまぶしい。
重たいまぶたを開くと、窓から差し込んだ光がそのまま顔に当たっていた。
「……まぶし」
カーテンがないことを思い出して、小さくため息をつく。
そうだった。昨日からここが、あたし達三人の家なんだ。
荷物を運び込んで、最低限の片付けを終えた頃にはすっかり日も暮れていた。ベッドなんてもちろんない。毛布を敷いて床で寝たせいで、背中がじんわり痛む。
「おはようございます」
聞き慣れない声に顔を向けると、カティアがもう起きていた。
「おはよう。カティア早いね。……って言っても何時か分かんないけど」
時計なんてまだない。
時間の感覚は窓から入る日差し頼りだ。
隣を見ると、シェイラは毛布を蹴飛ばして大の字になっていた。
……目のやり場に困る。
慌てて視線を逸らすと、カティアがくすっと苦笑した。
「キャナリィさん、お茶を飲まれますか?」
「ありがとう。あと、さん付けはやめてよ。なんかむず痒いから」
「すみません……癖で」
仕事で身についたものなんだろう。
他人行儀というより、自然と口をついて出てしまうようだった。
カティアがポットへ手をかざす。
淡い光が手元に灯ったかと思うと、ポットが小さく音を鳴らし、ほどなく白い湯気が立ち上った。
昨日もそうだった。
ほこりだらけだった部屋は、あっという間に掃除が終わり、荷物もきれいに片付いていた。
床で眠れたのも、全部カティアのおかげだ。
「どうぞ。そんなにいいお茶ではありませんが」
「ありがと」
背中を気にしながら椅子へ腰掛け、温かいカップを受け取る。
一口飲むと、じんわりと体が目を覚ましていくようだった。
「カティアって、メイドさん歴長かったの?」
自然とそんな言葉が出た。
昨日から見ていて思っていたけど、何をするにも手際がいい。
「そうですね。十五歳で奉公に出てからですので、五年でしょうか」
「すごいね。ベテランさんだ。昨日の掃除も洗い物もすごく助かったし。今のお湯も魔法なの?」
「はい。お湯を沸かすための生活魔法です。私が使えるのは生活に使うものばかりですが、お二人のお役に立てているなら嬉しいです」
「十分すごいと思うけどなぁ」
そう言うと、カティアは少し照れくさそうに笑った。
「落ち着いたら、またメイドのお仕事に戻るつもりなの?」
その笑顔が少しだけ曇る。
「どうでしょうか……。今回仕事を辞めることになったきっかけが、あまりにもショックでしたので……。しばらくは、同じようなお仕事には就きたくないかもしれません」
「あー……雇い主の旦那さんの浮気のせいで、とばっちりを受けたんだっけ」
カティアは苦笑いを浮かべる。
「そうそう。都合が悪くなったら蹴られるんだよね」
いつの間にかシェイラが起き上がり、あぐらをかいていた。
「起きてらしたんですか」
「シェイラは気に入らない酔っ払いを蹴っ飛ばしたからでしょ?」
「いやぁ、まぁ?」
頭をかきながら笑うシェイラへ、カティアがお茶を差し出す。
自然に受け取ったシェイラは、一口飲んでから大きく頷いた。
「やっぱ信用できるんは、同じ苦労した仲間だけや」
その言葉に、二人とも思わず笑ってしまう。
しばらく穏やかな時間が流れたあと、カティアがカップを置いた。
「ですが、お仕事は見つけなければなりませんね。いつまでもこのままではいられませんし」
「そうなんだよねぇ」
住まいの補助を受けている以上、何もせずに暮らしていくわけにはいかない。
活動報告も必要だし、とりあえず動き始めなければ、この部屋もいずれ出ていくことになる。
「とりあえず今日は冒険者登録しに行こか」
シェイラが立ち上がり、大きく伸びをした。
「補助も増えるって言ってたしね」
「ですが、私たちに冒険者のお仕事なんて務まるのでしょうか?」
「大丈夫だよ。危険な依頼ばっかりじゃないみたいだし」
「ウチはそこそこ戦えるで」
「そうなの?」
「酒場の前はキャラバンに付いて地方回っとったからな。王都に来たんは去年やし。まぁ、気に入らん客にナイフ投げて怒られたこともあるけど」
「頼もしいんだか怖いんだか……」
「それくらいの度胸が必要ということでしょうか」
「いやいや。本気にしないでよ」
三人で笑い合う。
失業仲間。
昨日までは他人だった三人だけど、不思議と居心地は悪くなかった。
「よし」
立ち上がって軽く伸びをする。
「冒険者ギルド、行こうか」
共同生活一日目。
あたし達の新しい毎日が、ようやく動き始めた。




