1話 唐突な失業
職員さんが提案してくれたのは、三人で連帯保証人となり、一つの部屋を借りるというものだった。
失業者や新しく仕事を探す人を対象にした、王都の住居支援制度らしい。
どうしてこんな話になったのかというと――
失業した。
別にあたしが何か悪いことをしたわけじゃない。
朝、いつも通り工房へ出勤したら、店には騎士団が詰めかけていた。
話を聞くと、オーナーが違法な魔導具を横流ししていたらしい。
営業許可は取り消され、工房はその場で閉鎖。
月末だというのに、今月分の給料も支払われる見込みはない。
とりあえず職人ギルドへ駆け込んで他の工房の求人を探してもらったけれど、紹介できる募集はもう残っていなかった。
みんな、女の子ひとりほったらかして酷くない? 少しくらい声を掛けてくれてもよかったのに。
仕方なく今度は職業紹介所へ駆け込んだところで、居合わせた失業仲間二人と出会い、今に至る。
あたしを含めた三人全員が、昨日今日で仕事を失い、それぞれ住む場所まで危うくなっていた。
「では、私は少し席を外しますので、皆さんで一度考えてみてください」
そう言って職員さんは部屋を出ていった。
残されたのは、あたしを含めて三人。
右隣には、どこかの屋敷で働いていたという元メイドのカティアさん。
左隣には、元酒場店員のシェイラさん。
たぶん同じくらいの年齢だろう。
席を立った職員さんを見送り、あたし達三人は顔を見合わせた。
「……どうする?」
「どうするって言ってもなぁ」
「お二人は、どうお考えでしょう?」
三人の間に沈黙が流れる。
「単身用の部屋を借りるとなると家賃も高いし、ウチはぜひお願いしたい!」
シェイラが勢いよく頭を下げた。
「そうですね。宿を取り続けるよりは、かなり安く済みますし。悪くない条件だと思います」
カティアも静かに頷く。
二人の視線があたしへ向く。
「あたしも……選択肢もなさそうだし。女の子同士なら、何とかなるかなって」
工房から今月分の給料が支払われる見込みは薄い。
来月分の家賃を払ってしまえば、生活費なんてほとんど残らない。
「じゃあ、決まりですね」
カティアがほっとしたように笑う。
「よかったぁ。これで今日は野宿せんで済みそうや」
シェイラも胸を撫で下ろした。
◇
手続きを終えたあたし達は、職員さんに案内されて共同住宅へ向かった。
職業紹介所から歩いて十数分。
住宅街の一角に建つ三階建ての石造りの建物だった。
外壁には少し年季を感じるものの、ひび割れはなく、共用廊下や玄関まわりもきちんと掃除されている。派手さはないけれど、不安になるような古さでもない。
「思ったよりちゃんとした建物やな」
シェイラが安心したように呟く。
「新人向けの住居とは聞いていましたが、綺麗ですね」
カティアも周囲を見回しながら小さく微笑んだ。
中へ入ると、一階と二階には細い廊下がまっすぐ伸び、その両側に小さな部屋が並んでいた。
「一階と二階は単身者向けのお部屋です」
職員さんが歩きながら説明する。
「皆さんのお部屋は三階になります」
階段を上りきると、廊下は少しだけ広くなっていた。
部屋の数も少ない。案内されたのは廊下の一番奥。
角部屋だった。
「お部屋はこちらになります」
鍵が回り、扉がゆっくりと開く。
「どうぞ」
三人で部屋の中を覗き込む。
思っていたより広い。
とはいえ贅沢な部屋ではない。
白い壁と木の床。
窓は二方向にあり、夕方の柔らかな光が差し込んでいる。
部屋の中央には、小さな木製のテーブルが一台と椅子が三脚置かれていた。
それ以外には何もない。
布団を三組敷けば、残る空間はそれほど広くなさそうだった。
「家具、本当に最低限ですね」
カティアが部屋を見回しながら呟く。
「まあ、屋根があるだけ十分や」
シェイラはテーブルを軽く叩きながら笑う。
「あとは自分らで何とかするしかないか」
自然とそんな言葉が漏れた。
ここは完成した家じゃない。
今日から、自分たちで暮らしを作っていく場所なんだ。
「キッチン、トイレ、シャワールームは共同になります。浴場はありませんので、共同浴場をご利用ください」
職員さんが淡々と説明する。
「最後に、共同居住申請書へのご署名をお願いします」
職員さんから書類と羽根ペンを受け取る。
あたしは自分の名前を書く。
『キャナリィ・フォールズ』
続いて、元酒場店員のお姉さん。
『シェイラ・ローウェル』
最後に、元メイドさん。
『カティア・ベルノア』
三人の名前が並んだ。
「ありがとうございます。これで手続きは完了です。本日よりこちらのお部屋をご利用いただけます」
職員さんは一礼すると部屋を後にした。
静かになった部屋を見渡す。
家具はテーブルと椅子だけ。
食器も寝具も、生活用品は何一つない。
あるのは今日から暮らす部屋だけ。
「……よろしく」
思わず口を開くと、
「こちらこそ」
「よろしくお願いします」
二人の返事が返ってきた。
こうしてあたし達三人の共同生活が始まった。




