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25話 もう一度

昨日の事故の翌朝。


部屋の片付けに思ったより時間がかかったうえ、ほとんど眠れなかった。


割れた窓は応急処置をしてもらったけれど、部屋の中はまだ元通りとは言えない。床に散らばった道具や素材を片付けているうちに、空が明るくなっていた。


シェイラは戻ってこなかった。


あたしは一人で病院へ向かった。



病院の待合室に入ると、見覚えのある姿が目に入った。


「カティア」


「あ……キャナリィさん」


カティアは椅子に座っていた。


頭にはまだ包帯が巻かれている。


「ご心配をおかけしました」


「もう……大丈夫なの?」


「ええ。検査の結果は問題なかったですし、ただの脳震盪です」


「……そう」


それだけ言って、カティアの隣に立った。


何か話さないといけない。


そう思うのに、言葉が出てこない。


カティアも何も言わなかった。


待合室には、二人の間の沈黙だけが残った。


「ごめん」


ようやく口から出てきた。


「あたしのせいで」


本心だった。


昨日、シェイラに言われた言葉が頭から離れない。


仲間よりも自分の道具を心配するのか。


そんなつもりじゃない。


そんなつもりじゃなかった。


でも、あのとき最初に心配したのは研究資材だった。


カティアが血を流しているのを見ても、どうすればいいのか分からなくて、シェイラに言われるまで何もできなかった。


カティアは何も答えなかった。


「……何も聞かないんだね」


「何をですか?」


「昨日のこと」


少しの沈黙を挟んでカティアが手を組み直す。


「シェイラさんも同じ事を言っていました」


「!? シェイラ来たの?」


「ええ、夜に」


カティアが少しだけ首を傾げる。


「病室は二階だったんですけど、窓から入ってきてびっくりしました」


「……窓?」


「はい」


「やりすぎでしょ」


身体強化を使ったんだろう。夜にカティアの様子を見に来ていたとは思わなかった。


「……となり、いい?」


「? もちろん」


カティアの隣に腰を下ろす。


目を合わせるのが怖かった。


シェイラがあたしのことをなんて言っているのか分からない。


「他に何か……言ってた?」


「他……ですか?」


「いや、だって……あたしが作った術符で、こんな事になっちゃった訳じゃない」


聞くのが怖かった。


昨日の出来事の責任はあたしにある。


カティアが怪我をした原因を作ったのは、あたしの不注意だ。


それなのに、あたしは――。


「シェイラさんも自分のせいだっておっしゃってました」


「え?」


「勝手に触ったせいで、って」


「そうじゃないの……」


声が小さくなる。


「カティアが怪我した時も、病院に行った時も……あたし、シェイラに酷いこと言っちゃって」


うまく言葉がまとまらない。


「シェイラさんが一人だったので、何かあったんだろうなとは、なんとなく分かりました」


「……あたし、自分勝手で」


言葉が止まらない。


「昨日の事故の時も自分のことばっかりで……だから……」


「キャナリィさん」


カティアが静かに名前を呼ぶ。


「あたし、どうカティアに顔向けしたらいいか分かんなくて」


喉が詰まる。


「自分が最低な人間だって分かっちゃって! でも、シェイラに言われてわけ分かんなくなっちゃって! でも、でも……」


「キャナリィさん」


今度は少しだけ強い声だった。


あたしは顔を上げた。


カティアは、いつもの落ち着いた表情でこちらを見ていた。


「こうして、私の事を迎えに来てくれて、心配してくれて、話してくれた事実は変わりませんよ」


何も言えなかった。


「キャナリィさんが心の中でどれだけ辛い思いをしたのかは、私には分かりません。シェイラさんと何があったのかも分かりません」


カティアは一度言葉を切った。


「でも、いま後悔しているのは分かります」


胸の奥が詰まった。


「だったら、やり直したらいいじゃないですか」


「……やり直す?」


「失敗したら、それを反省して次に活かせばいいじゃないですか」


カティアは穏やかに続ける。


「研究も、人間関係も、失敗しながら良い方へ進んでいくんじゃないですか?」


頬を何かが伝った。


気づいたときには、涙が落ちていた。


なんで、こんな簡単なことに気づけなかったんだろう。


なんでもっと素直になれなかったんだろう。


あたしはようやく、カティアの目をしっかりと見ることができた。


「酷い顔ですね」


カティアが、ふふっと笑う。


そして、あたしの手を握った。


「……ごめん」


口にしてから、少しだけ考える。


違う。


今は、それじゃない。


「いや、違う」


握られた手に、少しだけ力を返す。


「ありがとう、カティア」

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