20話 もうすぐ収穫祭
「いや、はや。君たちの発想には驚かされるね」
技術開発局の局長は、机の上に置かれた試作案を眺めながら笑っていた。
「カードの材料に関しては、こちらで選定を行おう。薄く加工できて、丈夫で、軽い。術式を書き込めるとなると、条件に合う素材を探す必要がある。すぐに用意できるものでもないしね」
「お願いします」
あたしは頭を下げた。
自分で探すこともできるけれど、技術局なら扱っている素材の種類も多い。魔物素材まで含めて探してもらえるなら、その方が早い。
「それと、コインの加工についてですが」
横に立っていたリディアが話を引き取った。
「商業区の工房に委託しておきます。ご希望のサイズや重量があれば、伝えておきます」
「ありがとうございます」
「魔導具としての性能を持ったコインを弾丸として使う……なかなか面白そうだね」
局長が楽しそうに笑う。
「スケイルリザードの頭を石で吹き飛ばせるんだろう? どんな威力になるのか、私も楽しみだよ」
ちらりと局長がカティアに視線を送った。
「い、いえ、あれはたまたまといいますか……」
「たまたまで頭を吹き飛ばしたのかい?」
言い淀むカティアにさらに詰める。だが、悪意や疑念の感情ないのはよくわかる。この人はただその事実を楽しんでいるだけだ。
「……」
言い返せないでいるとリディアさんが、はぁ、と呆れたようにため息を一つついた。
「まあ、実験結果は報告してくれればいい。こちらとしても興味深いからね」
研究者というのは、どうしてこういうところで楽しそうなんだろう。
そんなことを考えていると、局長がふと思い出したように言った。
「そういえば、そろそろ収穫祭だったね」
「収穫祭?」
「三日後だよ。王都の収穫祭は各地から商人も農家も集まるからね。普段は市場に出てこないような品も並ぶ」
「珍しい素材とかも?」
思わず身を乗り出した。
「もちろん。魔物の素材を扱う商人も来るだろうね」
それは聞き逃せない。
カード型術符の材料になるものが市場に出る可能性がある。
「ちょっと見て回ってみようかな」
「それがいいかもしれないね」
話を終え、技術開発局を出る。
そのまま三人で冒険者ギルドへ向かった。
「収穫祭、三日後なんやな」
「そうみたいね」
「私は楽しみです」
カティアが嬉しそうに言った。
「収穫祭って、そんなに楽しみ?」
「あ、はい。私、今まで参加したことがないので」
「そうなの?」
「屋敷勤めでしたから。祭りの日も屋敷から街を見るくらいでした」
そういえば、カティアはずっと屋敷で働いていたんだった。
「キャナリィは?」
「知ってはいるけど、ちゃんと参加したことはないかな。工房にいたし」
「ほな、三人とも似たようなもんやな」
シェイラが笑う。
「ウチは去年行ったで」
「えっ」
「酒場で働いとったからな。祭りの時期は客が増えて大変やったけど」
「それじゃあ、楽しんだというより仕事ですよね」
「まあな。夜の催しもあったけど、店から眺めてるくらいやった」
そんな話をしているうちに、ギルドへ到着した。
中へ入ると、いつもより人が多い。
掲示板にも依頼書が大量に貼り出されていた。
「うわ……」
キャナリィが掲示板を見上げる。
「何これ」
「収穫祭関連やろか?」
シェイラが一枚ずつ眺めていく。
会場設営。
荷物運び。
農産物の搬入。
倉庫整理。
屋台の準備。
会場周辺の清掃。
やはり収穫祭に伴う依頼がかなり多い。
「祭りって、こんなに準備することあるんですね」
カティアが感心したように呟く。
「人も物も集まるからな。冒険者にも仕事が回ってくるんやろ」
「ほな、これでええんやない?」
シェイラが荷物運びの依頼書を剥がした。
「また荷物?」
「身体鍛えるんにちょうどええやろ」
「……」
最近、仕事を選ぶ基準にまで訓練が入っている。
「まあ、いいけど」
あたしは諦めて依頼書を受け取った。
「それと、こっちの清掃も一緒に受けられそうですね」
カティアが別の依頼書を取る。
「二件まとめてやる?」
「時間的には大丈夫そうです」
「ほな決まりやな」
三人で受付へ向かった。
それから三日間、収穫祭の準備に追われることになった。
荷車から農産物を下ろし、倉庫へ運ぶ。
空になった荷車を戻し、また次の荷物を運ぶ。
その合間に会場の片付けをしたり、屋台の設置を手伝ったりする。
単純な仕事ではあるけれど、とにかく歩く。
持つ。
運ぶ。
戻る。
また持つ。
「……これ、結構きつい」
荷物を下ろして、あたしは腰を伸ばした。
「昨日よりは動けるようになっとるで」
シェイラが何でもない顔で言う。
「そう?」
「最初は荷物持って歩くだけで息切れしとったやろ」
言われてみれば、確かにそうだった。
朝のランニングを始めてから、まだ何日も経っていない。
それでも、ほんの少しだけ身体が動くようになった気がする。
「キャナリィさん、休憩しますか?」
カティアが心配そうに声をかけてくる。
「大丈夫。もうちょっとやる」
「無理したらあかんで」
「分かってるって」
そう答えて、また荷物を持ち上げる。
そんな感じであたしたちは仕事とトレーニングをこなしながらあっという間に二日が過ぎた。
収穫祭まであと一日。
王都の大通りには飾り付けが増え、市場には普段見ない商人の姿も増えてきた。
農産物の露店だけじゃない。
地方から持ち込まれた加工品や、見たことのない素材を並べた店まである。
「あれ……」
思わず足を止める。
露店の端に、古びた魔導具らしきものが並んでいた。
「どうしたん?」
「いや、あれちょっと気になる」
「また始まった」
シェイラが笑う。
「だって、珍しいものが出るって聞いたばっかりだし」
「祭りの準備は?」
「それはちゃんとやるってば」
そう言いながら、もう一度露店を見る。
カード型術符に使える素材が見つかるかもしれない。
技術局にも探してもらっているけれど、自分の目で探してみるのも悪くない。
「収穫祭、ちょっと楽しみになってきたかも」
「私は最初から楽しみですよ」
カティアが笑う。
「ウチは去年仕事やったから、今年は客側で楽しみたいなぁ」
シェイラも大通りを見渡した。
もうすぐ王都の収穫祭が始まる。




