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16話 協力関係

技術開発局を出た後、見物がてら帰ろうと思ったが、セキュリティ上強制的に車に乗せられた。


「ここから歩こか」


シェイラがそう言った。


「そうだね」


「このまま集合住宅まで送ってもらったら、また変な噂になりそうですしね」


カティアも頷く。


見慣れた中央区まで来たところで降ろしてもらうことにした。


確かに、技術開発局の車で帰ってきたなんて知られたら、朝のギルド以上に目立つだろう。


三人で大通りを歩き始めながら技術開発局で話したことを思い返す。


まず、あたしが作った術符について。


技術開発局は、あたしの研究に協力してくれることになった。


術符の開発に必要な知識や資料を提供してくれる。


必要なら設備も使わせてもらえる。


そして、昨日まで頭を悩ませていた材料についても、当面は心配しなくてよくなった。


「瘴核の研磨屑を、あんなに簡単に用意してもらえるとは思わなかったな」


「昨日まで工房を何軒も回ってたのにな」


「ほんとですよ。あれだけ探しても、なかなか集まらなかったのに」


「これで研究が止まる心配はなくなったかな」


思わず頬が緩む。


研究に必要なものが手に入る。


それだけで、かなりありがたい。


ただし、何もかもが無条件というわけではなかった。


開発状況について、定期的に報告する。


新しい術符を作ったら、その内容も知らせる。


研究がどこまで進んでいるのか、技術開発局が把握できるようになった。


まあ、当然と言えば当然だ。


向こうも何の見返りもなく材料や設備を提供してくれるわけじゃない。


新技術の研究に協力する代わりに、その技術を管理する。


そういうことだ。


「でもよかったんか? キャナリィ」


シェイラが横から聞いてきた。


「何が?」


「あんな狭い部屋で作業せんでもよくなる話やったんちゃうん?」


「……ああ」


思い出す。


技術開発局から、もう一つ提示された話。


技術開発局に所属し、ここでその発想力を活かしてみないか。


要するに、就職の誘いだった。


「あんな堅苦しいところで仕事できないでしょ」


「そうですか?」


「そうだよ。こんなどこの馬の骨かも分からないような平民が、高貴な身分の方々に囲まれて仕事するとか。そんなことしたら胃に穴が空いちゃう」


本心だった。


研究は好きだ。


魔導具を弄るのも、術式を考えるのも好きだ。


でも、組織の中で働きたいわけじゃない。


特に、ああいう立派な場所で身分の高い人たちに囲まれて働くなんて、考えただけで疲れる。


「私たち二人に気を使われたんでしたら、申し訳ないなと」


カティアがぽつりと言った。


「え?」


「私たちがいるから、技術開発局に行くことを断られたのではないかと」


「あー、無理無理」


あたしは手を振った。


「ほんとに無理。あたしにはああいうところ向いてないって!」


「まあ、せやろな」


シェイラが妙に納得した顔で頷く。


「あんなところで他人に気を使いながら仕事できるタイプやないやろ」


「なんか馬鹿にされてない?」


「そんなことないって! なぁカティア」


「確かに、あまり想像できませんね」


「ほら! やっぱり!」


二人とも笑っている。


まったく。


「でも、材料の提供があったし、これで心配せずに色々試せるようになるね」


研究を続ける場所は、今の部屋で十分だ。


狭いのは確かだけど、三人で暮らしながら研究するには、それなりに気に入っている。


それに、技術開発局に所属しなくても協力関係は作れた。


向こうはあたしの研究を管理できる。


あたしは材料や知識を利用できる。


利用されるなら、こっちも利用させてもらえばいい。


今のところ、何も困ることはない。


「シェイラさんの剣も帰ってきましたし」


カティアがシェイラの腰を見る。


シェイラが腰の剣へ手をやった。


「せやな」


昨日、騎士団に回収されたショートソード。


今日には、またシェイラの腰に戻っている。


ただし、昨日までとは少し違う。


騎士団の紋章は処理され、騎士団側の登録情報からも削除された。


官給品としての扱いを終えたうえで、払い下げ品として正式に譲渡されたのだ。


「同じ剣なのに、えらい遠回りしたなぁ」


シェイラが笑う。


「でも、ちゃんと自分の物になったんですよね」


「そういうことやな」


シェイラは剣の柄を軽く撫でた。


「これで武器探さんでもええわ」


「よかったですね」


「うん」


シェイラは満足そうだった。


三人で大通りを歩く。


昨日までは、材料を集めるのにも苦労していた。


シェイラは武器を失った。


キャナリィは工房の事件に巻き込まれた。


それが一日で全部片付いた。


しかも、研究を続けるための材料まで手に入った。


「なんか、思ったより上手く転がったよねぇ」


あたしが言うと、シェイラが笑った。


「昨日はどうなることか思たけどな」


「私もです」


カティアも頷く。


三人で歩きながら、これから作る術符の話を始める。


次は何を試そうか。


どんな術式なら使いやすいか。


材料が十分にあるなら、今まで試せなかったこともできる。


やりたいことは、まだいくらでもあった。

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