14話 事情聴取
ギルドの依頼掲示板を眺めながら、あたしたちは今日の仕事を選んでいた。
「今日はこれにしよか」
シェイラが一枚の依頼書を引き抜く。
『地下水路のネズミ駆除』
「またネズミですか?」
「ええやん。術符の試し撃ちもできるし」
カティアが少し首を傾げる。
「でも、もっと強い魔物と戦った方が経験になるんじゃありませんか?」
「強い魔物と戦ういうても、王都の外まで行かんとおれへんからなぁ」
シェイラが肩をすくめる。
王都の近郊であればまだ危険は少ないが離れれば離れるほど危険は増す。移動手段、安全管理、全て自己責任だ。苦労して倒したとして、ギルドの依頼でなければ報酬も入らない。この前の様に素材が手に入ればいいがはいらなければマイナスにしかならない。
「確かに王都の外周には警備や、飛ぶ魔物に対する防御結界がありますからね。街中に魔物が現れたら大問題ですしね」
「シェイラとカティアの特訓で分かったでしょ。別に魔法をそのまま使わなくても訓練はできるし、あたしの術符も効果を確認するだけなら地下道のネズミ相手で十分だから」
「ウチはガッツリ体動かしたいけどなぁ」
「街中で戦闘用の魔導具なんか使ってたら騎士団に捕まっちゃいますよ」
そんな他愛もない話をしながら依頼を受け、昼過ぎには報告まで終えた。
受付を出たところで、あたしは小さくため息をつく。
「それよりも、術符に使う材料がそろそろ無いから、どこかで調達しないと……」
「その辺の魔導具屋にもろたらええんちゃう?」
「瘴核の加工を請け負ってる工房って意外と少ないのよ。それに、あたしが使ってる研磨屑なんて向こうからしたらゴミだし、タイミングが悪いと捨てられちゃってるし、そもそもそんなに大量に出るものでもないから」
一応、知っている工房には保管をお願いしている。
それでも集まりは悪かった。
「せっかく上手くできているのに、材料がないのは問題ですね」
「瘴核そのものを買って粉にする方法もあるんだけどね。高いし、粉にする作業がまた大変なのよ」
「粉をさらに粉にするだけでも結構キツかったで」
三人で苦笑しながら集合住宅へ戻る。
そして、部屋の前で足が止まった。
「あの……」
扉の前に男女二人の騎士団員が立っていた。
こちらへ気付くと、男性騎士が一礼する。
「キャナリィ・フォールズさんでお間違いありませんか」
「……はい」
「王都騎士団です。少しお時間をいただけますでしょうか」
胸元の徽章を見せられ、空気が一気に張り詰める。
「先月摘発された魔導具工房の件について、お話を伺いたく参りました。可能であれば、お部屋も確認させていただきたいのですが」
あたしたちは顔を見合わせ、小さく頷いた。
「どうぞ」
部屋へ案内すると、二人はまず簡単に室内を見回し、それから椅子へ腰を下ろした。
男性騎士が書類を開く。
「本題ですが、工房のオーナーと、違法刻印を行っていた刻印技師が、あなたのお名前を共犯者として供述しています」
「なんですか、それ。濡れ衣にも程があります」
思わず声が強くなる。
「そうです。キャナリィさんがそんな事をなさるはずがありません!」
「せやで。この子はただの術式オタクや」
「シェイラ、それフォローになってない」
少しだけ場の空気が和らぐ。
男性騎士は苦笑しながら首を横に振った。
「ご安心ください。帳簿、術式記録、他従業員の証言などから、あなたが違法刻印に関与していないことはほぼ確認できています」
「なら、どうして……」
「確認です。証拠が揃っていても、本人から事情を聞かずに終えることはできません」
なるほど。
仕事というわけだ。
それからあたしは工房で担当していた仕事や、オーナーの様子、違法刻印を担当していた刻印技師について知っていることを順番に話した。
二人は必要なことだけを質問し、淡々と記録していく。
「ありがとうございます。これで十分です」
ようやく終わった。
そう思った時だった。
室内を確認していた女性騎士の手が止まる。
「……これは?」
机の上に積まれた術符だった。
男性騎士も近寄り、一枚を手に取る。
「紙……ですか」
「はい」
「術式が描かれていますね」
「あたしが研究しているものです」
二人の表情が少しだけ変わる。
「説明していただけますか」
あたしは術符の仕組みを簡単に説明した。
紙へ術式を書くこと。
瘴核へ刻印しないこと。
最後に付け加える。
「さっきも説明した通り、あたしには刻印技師としての資格はありません。この技術は独自に発案して研究しているものです。瘴核への刻印は行っていません。刻印技師の資格は、瘴核への刻印を規制するための資格ですよね」
二人は顔を見合わせた。
「問題は無さそうですが……」
男性騎士が静かに息を吐く。
「私たちでは判断できません」
女性騎士も頷く。
「前例がありません」
沈黙が流れる。
「この件は技術局へ報告します。後日、改めて連絡があるかと思います」
「……分かりました」
こればかりは従うしかない。
その帰り際だった。
男性騎士の視線がシェイラの腰へ向く。
「最後に一つだけ。その剣、少し拝見してもよろしいですか」
「ええよ」
シェイラは何のためらいもなくショートソードを手渡した。
鞘から少しだけ抜き、鍔を確認した男性騎士の表情が変わる。
「……やはり」
「どないしたん?」
「こちらは騎士団の官給品です」
部屋が静まり返る。
「どちらで入手されましたか」
「酒場で酔っ払いのおっちゃんと賭けして勝ってもろた」
「……そうですか」
男性騎士はそれ以上追及しなかった。
「真偽は後ほど確認いたします。ただ、官給品である以上、回収しなければなりません。払い下げ品であればよかったのですが、意匠が残っていますので」
「しゃあないな」
シェイラは意外にあっさり頷いた。
ここでゴネても良いことは何もないのは分かっているが、一言二言あるかとおもった。
「元々ウチのもんちゃうし」
「ご協力ありがとうございます」
騎士団員二人は深く一礼し、部屋を後にした。
扉が閉まる。
しばらく誰も口を開かなかった。
「……なんか、大変なことになってきたね」
あたしがそう呟くと、
シェイラは腰から剣の消えたベルトを見下ろして笑う。
「さて、明日から武器どないしよか」
その言葉に、あたしたちは顔を見合わせるしかなかった。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
ある程度書き溜めしていたんですが、連載体力が無く、一旦更新ストップとなります。
登場人物が増えると管理コストが増えてやる気がなくなるのも悪い癖です。
もっと読まれないのかと思っていたのですが、意外と読まれる日もあって嬉しかったです。
ありがとうございました。




