13話 評価ってなんですか?
午前中にスケイルリザードを討伐したあと、農場主のラウドさんにギルドへ連絡してもらった。
現場の後処理をお願いして、あたしたちは昼食を挟んでからギルドに向かうことにした。
テーブルに陣取ってさっきの反省会だ。
「やっぱりまだ術符の使い方は色々考えないとダメだなぁ」
テーブルに頬杖をつきながらコップの水でテーブルに術式を書いた。
「二人にあんなにハデにやられたらウチの腕の見せどころがないわ」
「お二人が足を止めてくれたから当てられたんですよ」
各々注文したランチメニューを頬張りながら思い思いに感想を言い合う。連携と言うにはお粗末なものだったが、これからの練習次第だと思う。
「でも正直あそこまで威力が出るとは思わなかったなぁ」
カティアの一撃を思い出す。ちょっと魔物がかわいそうに思えるくらいの一撃だった。
「あれは頭を狙ったの?」
「狙ったというか、土煙の中から最初に見えた部分を狙っただけなんですが……」
「じゃあやっぱり狙った通りやったてことやな。練習の成果がでたやん」
うんうん。と頷きながらシェイラが腕組みした。
「豆のおかげですね」
カティアも嬉しそうに微笑む。
「査定額が楽しみやなぁ!」
討伐した魔物の報告と素材の査定。
それが終わってようやく今日の仕事が一区切りになる。あたしたちはお昼を済ませ足取り軽くギルドに向かった。
◇
ギルドへ入ると、受付には見慣れない女の子が立っていた。
あたしたちを見ると、少し緊張した様子で背筋を伸ばす。
「はじめまして。本日から受付を担当します、ミア・ブラウンです。ミアと呼んでいただいて構いません」
今日、何度も繰り返したであろう自己紹介をしたミアは元気よく頭を下げた。
「よろしく、ミア」
「よろしくお願いします、ミアさん」
カティアも丁寧に頭を下げる。
その横でシェイラが笑った。
「よろしくなおねーさん」
「えっ?」
ミアはきょとんと目を丸くした。
「えっと……私はミアで大丈夫なんですが……」
「女性はみんなおねーさんや」
「そういうものなんですか……?」
困ったように笑うミアを見て、思わず笑ってしまう。
「ところで、午前中にラウド農園でスケイルリザードを討伐したんですけど、報告しても大丈夫でしょうか」
「はい、お預かりします」
ミアは書類を取り出し、登録証を確認する。
「あれ……?」
小さく首を傾げる。
「どうかしました?」
「登録日が……一か月ほど前なんですね」
「まだペーペーなんよ、よろしく頼むで」
「前職が……魔導具工房、酒場店員、メイド……」
ミアは何度か書類を見比べたあと、小さく驚いたように顔を上げた。
「皆さん、戦闘職ではなかったんですね」
「生活のためや」
シェイラがあっさり答える。
「なるほど……」
ミアは何か納得したように頷き、受付を進めていく。
「今回ですが、正式な討伐依頼ではありませんので討伐報酬は発生しません」
「やっぱりそうなんだ」
処理に来ていたギルドの職員にあらかじめ聞いていた事だった。
「農園主様から直接お支払いすることもできなくはありませんが、ギルドを通していない依頼になりますので、経費処理などの関係で推奨されていないんです」
「まあ、力試しみたいなもんやったしな」
シェイラも納得したように頷く。
「ですが、お知らせがあります」
ミアは別の書類を取り出した。
「皆さんは一定以上の活動実績が確認できましたので、今月分の家賃は免除になります」
「助かるぅ……」
思わず声が漏れた。
ようやく肩の荷が一つ下りた気がする。
「ただし、来月からは二か月目に入ります」
ミアは続ける。
「活動実績に応じて家賃が決まりますので、ご注意ください」
「働いた分だけ安なるん?」
シェイラが聞く。
「はい。評価が高いほど家賃負担は軽くなります」
「評価?」
あたしは思わず聞き返した。
ミアは書類を見ながら説明する。
「皆さんの評価は魔物の討伐数だけではありません。全ての依頼達成実績、依頼主様からの評価、皆さんが提出する報告書、それからギルド職員の確認内容を合わせて活動実績として管理しています」
「そんなんあったんか」
シェイラが目を丸くする。
「確かにそういった査定基準がないと、不正が横行しそうですね」
カティアは納得したように頷いた。
「全然気にしてなかった……」
「皆さん、登録から日が浅いのに評価が非常に高いですね。この調子でしたら、心配されるほど家賃を請求されることはないと思います」
少し安心した。
まだまだ働かないといけないけど、とりあえず来月すぐに困ることはなさそうだ。
「査定部から報告書が届いておりますので、こちらへどうぞ」
案内されて隣の窓口へ向かう。
「今回はどれくらいになるかなぁ」
シェイラが楽しそうに呟く。
「二、三日練習ばかりでしたので、少し気になりますね」
カティアも査定表へ視線を向けた。
査定員は書類を一枚確認すると、少し困ったような顔をした。
「まず瘴核ですが……残っていませんでした」
「残っていない?」
「これに関しては運が悪かったとしか言いようがないのですが、頭部が何らかの力で破壊されていました。丁度その部分に瘴核があったようです」
「あっ……すいません……」
カティアが申し訳なさそうに頭を下げる。
「頭を狙ってしまって……」
「しゃーないやん。そんなん分からへんし」
シェイラが笑って肩を叩く。
「あたしも力試しのつもりだったし、気にしなくていいよ。次は壊さない方法を考えればいいんだから」
査定員は頷いた。
「スケイルリザードは頭部付近に瘴核があることが多いんです」
「魔物によって違うんですか?」
「ええ。種類ごとにある程度傾向があります」
初めて知った。
「その代わりと言っては何ですが」
査定員は鱗を指差す。
「全身の鱗は非常に状態がいいですね。ほとんど傷がありません。よくあるパターンでは武器による傷、魔法による変形などで価値がつかなくなる場合が多いのです」
「ほとんど一撃やったもんな」
「こちらは素材として売却する方向でよろしいでしょうか」
「持ってても使い道ないし、売却でいいよね?」
「ええで」
「構いません」
査定員は査定書へ目を落とした。
「なお、今回はギルドで解体と死骸処理を行いましたので、それぞれ手数料が発生します」
「手数料?」
シェイラが首を傾げる。
「前回はそんなんなかったで?」
「ホーンボアの件ですね。あちらは農園主様が処理してくださいましたので、発生しておりません」
査定員は説明を続ける。
「今回は大型魔物でしたので、ギルド処理班が回収しております」
ミアも横から補足した。
「魔物の死骸を放置すると感染症や腐敗、それに他の魔物や野生動物を呼び寄せる危険があります。そのため、適切な処理が必要なんです」
「討伐依頼として受注した場合は、これらの手数料は依頼内容に含まれますので別途いただくことはありません」
なるほど。
ギルドを通す意味は、こういうところにもあるらしい。
査定員が明細を差し出した。
「今回の査定額はこちらになります」
瘴核 0G
全身鱗(美品) 15,000G
素材査定・解体手数料 -750G
魔物死骸処理手数料 -750G
受取額 13,500G
「瘴核が残っていればおそらく一万G程だったかと」
「一万G……」
カティアが肩を落とす。
「まだ言うてる」
シェイラが苦笑した。
「あたしは収穫あったと思うよ」
明細を鞄へしまう。
「次は瘴核を残す倒し方も考えよう」
「また研究やな」
「うん」
倒すだけじゃない。
稼ぐ方法も、これから覚えていかないといけないらしい。
そう思いながら、あたしたちはギルドをあとにした。




