58 面白い人生
『面白い人生を送りたい』
水野銀二は高校生の頃からそう思っていた。
彼女も親友も居たし家族仲も良好、成績も良く全てが上手くいっていた。
だけに。
このまま良い大学に進学し上場企業に勤め結婚し──そんな絵に描いたような退屈な人生しか、自分は送れない気がした。
「そんなの嫌だ……」
もっと面白い人生を送りたい。人生は1回しか無いのだから。
水野が闇バイトに手を出したのはそんな理由から。
自分が闇バイトをしている事に誰も気付いていない。なんて刺激的なのだろう。これぞ自分の求めていた面白い人生だ。
「さあ、これからが俺の面白い人生の幕開けだ!」
大学を卒業し、水野はそのままトクリュウの一員になった。
ルールが細かそうだったが、そんなのどうでも良かった。表向きは組織が用意した架空の企業に務めている。親戚に名刺を渡した時はこれ以上無い程ゾクゾクした。
裏組織の一員になり驚いた事がある。
組織が思っていた以上に会社化していた事だ。
県に1つは大きい事務所がある。お昼休憩があってシフト制。タイムカードまである。
詐欺電話部署、強盗部署、マネーロンダリング部署、闇バイト管理部署……と細分化しており、給料は高額ではあるが固定給。
「もしもし俺だけど」
水野は詐欺電話部署に配属され、毎日500件は電話をかけ、その殆どが30秒以内に受話器を置かれた。
トクリュウの一員になり半年。
「これのどこが面白い人生だ……っ!」
水野は強い不満を抱いていた。
組織にルールが多いからだ。
まず、結婚が出来ない。
マッチングアプリすらやってはいけない。組織の事を妻や恋人に漏らしてしまう可能性があるからだ。勿論GPSで監視されている。
次に、休日出勤の多さ。
劇場型詐欺の場合駆り出されるし、カモが数日後に心変わりして食いついてくる事も多い。
「酒も満足に飲めねぇし……」
これが一番だ。面白い人生に酒は欠かせない。
だが、飲酒も当然禁止されている。
唯一会社の飲酒室でのみ許されているが、いつも同じ顔触れ、話題だ。
彼等はみな、口を揃えてこう言う。
「こんなつまらない人生送りたくなかった……」
と。
水野も同じ気持ちだ。結局、あの退屈な人生が一番面白かった。




