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ブラックなショートショート集  作者: 上津英


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59/59

59 賞金稼ぎ

「……っ」


 頬を汗が伝うのが分かった。

 アリゾナ州にあるこの小さな町は確かに暑い。夏で地面は乾いていて、風が吹く度に砂が舞う。

 けれど男が今汗を流しているのは気候のせいだけではない。銃を持った青年――マキシと言ったか――と向き合っているからだ。

 決闘、と言えば格好良いが、これはただの私闘だ。

 客の多い賑やかな酒場で酒を煽っていたら、マキシが自分の強さを仲間達へ自慢し始めたのだ。


「俺様は最強だ」

「誰にも負けない」

「高額な懸賞金がかかっている」

「この町に居る誰よりも強い自信がある」


 このような事をペラペラと鼻を高くして喋るから、癇に障ったのだ。


──だったらオレがその首を狩ってやろう。仲間の女の退屈そうな顔にも気付かぬ青二才め。


 と。

 男は賞金稼ぎだ。

 早撃ちにはちょっと自信があり、故に男の首にもまあまあな懸賞金がかけられている。なのにどうして緊張するのだろう。

 今日は暑いから?

 昨日は少し寝苦しかったから?

 飲んでいるから?

 観客が多めだから?

 対峙しているマキシが余裕そうだから?


──きっと全部だ。この瞬間は何時も理由を探して緊張する。


「じゃあこのコインが地面に落ちたら開始、という事で」


 ニヤニヤしたマキシの言葉に頷いた、その一拍後。

 カラカラ、と。コインが地面に落ちる。

 男は腰のホルスターに手を伸ばし、気温のせいで温い銃に触れ引き抜く。そしてカチャリと引き金を──引き金を──。


「っ!?」


 おかしい。有り得ない。

 引き金を引いたのに、弾が出て来ない。

 どうして。

 いや、それよりも。今これは不味い。

 こんな、決闘中に。

 こんな隙だらけに、なってしまって。

 マキシを見ると、やはりニヤニヤしながらこちらに銃口を向けていて──。

 次の瞬間、荒野に銃声が鳴り響き、1人の男の人生に幕が引かれた。


***


「は〜い、お疲れ様〜」


 倒れた男の回りに血の池がどんどん広がっていく中、ニヤケ顔のマキシは声を上げた。

 それが合図だったように観客達が一斉に動き出す。

 疲れた、とばかりに深い溜息をつく人。死体の横に屈み込み財布を抜き取る人。憐憫の眼差しを死体に向ける人。

 彼らの動きはそれぞれ違う。


「おいっ、いつも通りお前の奢りだからな」


 その内の1人、赤ら顔の中年がこちらに近寄り言って来る。呼気が酒臭い。


「分かってるよ、今回も有り難うね〜」


 マキシはニヤケたまま男の背中をポンポンと叩き、酒場に戻っていくのを見送る。


「ふう、俺も戻ろうっと……」


 周囲に殆ど人が居ない事に気付きマキシも酒場に歩を進めた。協力者達に礼をしなければ──この決闘は茶番なのだから。

 町に賞金首が現れたら幕が上がる合図だ。主演俳優はマキシ、名バイプレイヤーは町民達の。

 賞金首が町に来た事はすぐに噂になる。獲物は大体酒場に入るので、それまでに名バイプレイヤー達は酒場に集結する。

 そしてマキシが女を侍らせ気持ち良く調子に乗っている間に、手癖の悪い名脇役が賞金首の拳銃に悪戯をする。酒場には賑やかなエキストラが多いし、賞金首も質の悪い酒を飲まされている。多少の事には気付かない。

 賞金首という生き物は生意気な若造が嫌いだ。十中八九雰囲気が悪くなり、決闘の流れになる。


「さーみんな! 今日も奢っちゃうよー!」


 酒場の扉を開けたマキシが放った言葉に俳優陣から歓声が上がる。主演俳優からギャラが支払われるから、みんなマキシの《《名誉ある賞金稼ぎ》》に協力してくれるのだ。

 全くとんだ茶番劇だと思う。

 でも。

 一番の茶番は俳優陣に保安官も居る事だろう。


「……狂ってるよねえ」


 マキシは赤ら顔の男を一瞥した後、人知れず目を伏せた。

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