表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スノーボードクラブ  作者: 木田駿一朗
13/15

セッション12 -楽しい?ゲレンデライフ-

スノータウンイエティがシーズンイン!いよいよリアルでもボードの季節がやってきますね。

 ハンの木高速ペアリフトに乗って、再びスタート地点に戻る俺達。俺と雅が乗り、後ろの搬器は歩夢と智香が乗っている。

白樺の木々の間をすり抜けて行くように伸びているこのリフト、ゲレンデからもほんの少しだけ離れ、どこか落ち着いた雰囲気だ。だけど妙に緊張してしまう。

思えばこうしてペアリフトに女子と乗るのは初めてだ。普段は歩夢としかのらなかったし、雅と初めて会って乗った鹿島槍のリフトは4人乗りで、間を空けて乗っていた。だけど今は肩や膝が触れるくらい接近している。


「あいむしんかーとぅーとぅーとぅーとぅとぅー〜♪」

雅は鼻歌まじりにルンルンと嬉しそうな仕草だ。

「随分と楽しそうだね雅。」

「そりゃ楽しいよ〜。こうしてさ、部活動として皆で滑りに来れたんだもん。」

雅は嬉しそうに語った。ゴーグル越しでも見事に分かる楽しそうな仕草。

「初めて会った時もさ〜、こうやって2人で乗ったよね?」

「もっと間空けてたろ?」

「そうだけどさ〜。いや、そういう話じゃなくて。2人で部活創ろうて約束したじゃん?」

「そうだな、この日を待ってた。俺も嬉しいよ、ありがとな?」

「いやいや、お礼を言うのはこっちだよ?色々協力してもらって。」

 

 リフトも終点に差し掛かった頃、左側に見えるハンの木コースでは由香が先生に滑り方を教わっていた。由香は何とか横滑りが出来るか出来ないかという、まるで生まれたての仔鹿か仔馬のように、立とうとしている状態だ。足がひくひくしている。先生もそれを見守りながら、何か話しかけている。


 リフトを降りて再びバインディングの装着をする。雅は立ったまま素早く装着を完了させた。

「ちょっとゆかちの様子見て来るね〜。」

雅は足早に由香の所に行った。


 後ろの搬器に乗っていた歩夢と智香もリフトから、降りてすぐにバインディングを装着した。

「それじゃ、僕も由香の所行って来る。」

歩夢もすっと由香の所へ。

「私達も行ってみましょ。友基、由香のいる所までちょっと滑って見てくれる?すぐ後ろを追いかけるから。」

由香のいる場所は約200M先。すぐさま滑り出して、スライドターンを繰り返す。

1本目よりかは慣れたせいか、比較的楽に滑れるようになってきた。智香の滑ったカービングターンも思い出してみる。体はボードと真っ直ぐ、体重は進行方向に向けてかける。エッジを立てながら…。


 だがエッジは思うように立たない。カービングターンのカービングと言うのは削るという意味で、智香が滑った後は、その跡が細く綺麗な線が出来上がっていた。しかし、俺が滑る時はほとんどそうならない。振り返ればソールの半分以上の面積が雪を擦った跡が出来上がっていた。とてもカービングと呼べる代物ではなかった。


 ひとまず由香達がいる所まで滑った。

由香は進行方向に向けたサイドスリップという横滑りで、エッジを寝かしては起こして進む動作を繰り返していた。結構怖がりながらも頑張っている様子だ。

「お、ユーキ。少しは慣れた〜?」

「去年のような滑り方には戻って来たんじゃない?」

由香の様子を見つつも、俺の滑りも見ていた雅と歩夢。

「1本目よりかはね。智香みたいにカービングターンしてみようかとも思ったんだけど、上手く行かないわ。」

「でも友基君も普通にうまいよね?わたし、怖くて…。全然上手く行かなくて…。」

由香が不安そうになっていた。

「大丈夫〜。誰だって初めては怖いし〜、上手くは行かないよ〜。それに由香ちゃんは〜、まだ1本目でしょ〜?これからこれから〜。」

先生は明るい口調で由香を励ます。

「僕も一緒に付いてあげるから、頑張ろう。」


 歩夢は由香に微笑みかけた。ゴーグル越しでも分かる、可愛い系男子のさわやかな笑顔だ。ここで、歩夢は由香と行動を共にするのか。

「え、でも歩夢君?わたしとじゃ、歩夢君沢山滑れなくなるよ…。」

由香は歩夢に対して申し訳無さそうな振る舞いだ。

「大丈夫だよ。僕は早く由香とも一緒に滑れるようになりたいから、今日はガンガン滑るより、由香が少しでも出来るように手伝いたいんだ。」

 

 おうおう、なんか歩夢がイケメン男子風な事を言いやがっているぞ!いや男子だし、てか男の娘も見ようによってはイケメンだよな。中性的な感じの。

「あの…じゃ、一緒にいてもらっても良いかな?」

由香はどこか、照れくさそうに頬を染めている。


 何か複雑な気持ちに狩られた。その複雑な気持ちは何かは分からなかったが。


「それじゃ…歩夢は由香と一緒に滑るんだな?俺は智香にちょっと色々と教わるわ。」

「うん、そうするね。友基も頑張ってね。」

歩夢はいつものように女の子みたいな明るい口調で言葉を返した。


 妙に落ち着かなかった。心のどこかで歩夢と一緒に初滑りを堪能したかったのか、それとも智香のレッスンを一緒に受けたかったのか、自分でもよく分からない。が、どこか歩夢が遠い存在になって行く気がした。いや、ただの気のせいかもしれないが。


 先生の合図で由香がサイドスリップを始める。怖がる由香に対し、歩夢も由香から少し離れた正面に位置して後ろ向きでサイトスリップしている。「僕をちゃんと見て。」まるでそう合図を送っているように。

俺は歩夢達から少し離れ、智香と雅と共に滑り出した。


「ん〜ふふ、あゆむんとゆかち、なんかいい感じじゃない〜?」

雅がニヤニヤとしながら向こうの様子を伺っている。俺も気にはなっていたが、ひとまず今は智香コーチのレッスンだ。

「友基、滑りをざっと見てると、体重移動のバランスが取れてないね。」

智香は一通り俺の滑りを見てダメだしする。

「動きが硬いと言うか、ターンの時に無理に下半身だけで動こうとして上半身が置いてかれているのよ。」

確かに、意識が足ばかりに言って、腰から上の事は考えていなかった。

「切り返しの時にバランス取り辛いんじゃない?足だけでやろうとするから、上半身が振り回されているというか。」

感じた違和感はそれだった。確かに、体を板と真っ直ぐ意識しているが、それで無理に固定させようとしてしまったのかもしれない。


「今度は私が先に行くから、それを見ててね。少しだけ上半身の動き、特に上下の動きを意識しながらやってみるから。」

そう言うと、智香はゆっくりと滑れ出した。


 上半身の動きを意識してみる。よく見ると上半身の浮き沈みが意外と激しい。ターンの切り替えの時に体を一旦起こし、また沈める、そんな動きだ。この動きを意識するのか?

「ユーキ。ああやって、体重をかけたり、抜いたりしてるんだよ。上半身動かすって言っても、あくまで上下だよ。左右は動かし過ぎると、それはそれでバランス取れなくなっちゃうし。」

智香の手本を一緒に見ていた雅がアドバイスを贈る。2人のレクチャーを参考にしながらトライしてみる。


 智香が停止して、俺に来いと右手を大きくあげて合図を送った。

いざ滑り出してみる。上半身を軽く意識、ボードと体を真っ直ぐにしつつも、曲がりたい方向に微調整。後半は体重後ろへ。

切り返し、一旦体勢を立て直すため、体重を真ん中に移動させ立つ、そして目指したい方向に体重移動。カービングターンとまでは行かないが、さっきよりはスムーズな曲がり方が出来たような気がした。


 それを何度か繰り返し、智香の側でブレーキをかけ停止した。

「まだまだ硬さあるけど、少し良くなったんじゃない?」

やはり手応えはあった。自分としても滑りやすかったし、智香も少し褒めてくれた。この調子で徐々に覚えて行こう。

「久しぶりのテールプレスは足痛〜い。」

だけど後ろから追いかけた雅は、普通にグラトリしながら遊んで滑って来ている。それが気にならない訳でもないが。


 ゲレンデとリフトを何本か消化し、板の扱いも大分慣れて来た。それまで滅茶苦茶だった体重移動もスムーズに行くようになって来た。こうしてくるとキャンバーのメリットも大分実感出来るようになって来る。高速でのターンがスムーズに行き、板の硬さも相まってSTANDARDに比べてバタつく事が無く、スピードコントロールがしやすい。滅茶苦茶な姿勢でも何とかなったフラットロッカーに比べて、姿勢こそ気を使わなければならないが、それが出来れば安心してスピードが出せるのがキャンバーだ。


 しかし、慣れて来たは良いが、今置かれている状況はどうも気恥ずかしい。

周りのボーダーを見ていると、彼氏らしき男性が、彼女らしき初心者の女性を優しくリードしている姿が結構目立つ。

「きゃー、こわいー!」

「大丈夫だ、怖くなって!ほらちゃんと手を掴んで。」

「も〜嫌だ〜♡」

なんて事を言いながら、不安定なサイドスリップをしつつ、彼氏に手を繋がれてまんざらでも無い様子だったり、また別のグループでは

「お前ちゃんと見ているか?せっかく教えてるんだからな!」

「見てるよ、格好良い所。」

とまぁ教えている彼氏の様子に、ときめいて、色々突っ込みたくなるような女もいた。

 

 てか、そのうちの一組は歩夢と由香だしな?!


 ただまぁ、歩夢はあくまで、先生のレッスンの手伝いをしているといった感じで、由香もそんじょそこらのスイーツ(笑)のDQNボーダーに比べれば、恐がりこそすれど、頑張って覚えようとしている姿は伝わる。

ただ、歩夢が「格好良い彼氏」に若干見えてしまうのは、俺の被害妄想や嫉妬なのだろうか。どこか煮え切らない。

 

 それはそうと、俺が気恥ずかしいのは、そんな周りのなか、俺は女性2人から、教えてもらっている。いや、それは別に良いのだ。2人とも俺より上手いのは最初から知っているし、先輩だ。男女関係なく、部活で先輩に色々教えてもらっている後輩というのはごく自然な事だ。ただ…。


「だから、何度言ったら分かるの!?エッジを噛ませ過ぎなのよ!踏み込みが強過ぎて、切り返しが遅れてる!加重も抜重も出来てない!」

「ユーキ!ショートターンが変な踊りだ〜!」

「体が持って行かれ過ぎ!膝を曲げる!」

「なにその体勢〜?バックサイドターンしながら、うんこしてるの〜?」

「今やってるターンは、カービングなの?スライドなの?そんな中途半端なターンじゃ、コントロールしてる何て言えないよ!」

「前足と後ろ足の動きがバラバラ〜、きも〜い!」

「フロントサイドで目線が下行ってる!ちゃんと進行方向見る!」

「ほらほ〜ら、鬼さんこちら〜!」


 智香に怒鳴られ、雅に煽られる。

お姉様2人からの鬼畜プレイだ。ドM男子なら間違いなく「ありがとうございます」だが、生憎俺にそんな趣味は無い。但の地獄の猛特訓といじめだ。

最初はそれなりに優しく教えてくれた智香と雅だったが、だんだん指導に熱が入り、気が付けばスパルタ特訓だ。どうしてこうなった。もう勘弁して。


 リア充に嫉妬する訳じゃないが、下手くそだったり、志が低そうな人達でも、それなりに楽しんでいる様子は伝わる。上手くなりたい俺は、彼らのようになりたいとは思わない。けどこの状況はなんか楽しく無い。いっそ1人で滑って気を紛らわそうかな…。


 いや、ちょっと待てよ?これうちの部としてはどうなんだ?


「それじゃ、バックサイドの角付けの所だけど…」

「ちょっと待って、少し話をしたい。良いかな?」

智香がレッスンを続けようとしているが、俺は止めに入った。

「どうしたの?」

「あのさ、智香て人にボード教える時て、いつもこんな感じか?」


 ぶしつけな質問をしてしまったが、確かめたかった。

うちの部は、こういう厳しい練習スタイルでやるのかどうか?正直俺は悪い意味での体育会系を望んでいない。だけど、智香はどう思っているのか、それが知りたい。


「……。そうね、クラブチームで後輩を教える時は、だいたいそんな調子で教えるけど何か?」

淡々とした口調の智香。

「後輩とか怖がったりしない?」

「たまに怖がらせてしまっている。だけど、そうやって自分の何がいけないかを自覚させて、改善させて行く。大事な事よ。」

その意見は間違いではないと思う。強い口調で言われたらそれだけ印象が残る。同じ事を言われたく無いから、嫌でも直そうとする。だけどそのやり方は大きなリスクを伴う気がする。


「大事な事だって言うのは分かる。だけどもし、言われた本人が自分には才能が無い、怒られるのは嫌だって思い込んで辞めてしまうとか考えた事は無いの?」


 俺の質問に智香はしばらく考え込む。雅は黙って俺達のやり取りを眺めている。

「無い事も無い。だけど、そうなったらなったで、その人がこの程度だったってだけよ。」

厳しい答えだ。着いて来れないなら辞めても構わない。


 そうなると俺はこの考え方には賛同しかねる。

「なら、俺はこう考えるわ。智香のいう、その程度の人間と、どうすれば一緒に楽しく滑れるのか。この部活は可能性を広げるための部なんだよ。その程度だと切り捨てる事はしたくない。分かるか?」

「だから、私のやり方は間違いだと?」

「そうだよ、少なくともこの部の方針としてはね。」

智香はやや腹を立てた口調だ。まぁそりゃそうなるわな。智香のやり方を否定してるんだから、言われる本人は穏やかじゃないだろう。


 雪はなおもしんしんと積もり続けている。俺と智香の間には雪のように冷たい空気が流れている。だけど、雪は積もっても、俺達のわだかまりは積もらせてはいけない。


「智香のやり方そのものを全部が間違いと言う気はないよ、一般論としてはね?だけど、この部でそれをやるなら話は別だ。今俺にレッスンしたように、あんな声荒げにやられたら、他の人はどう思うかなっていうのも考えて欲しいんだ。」

おこがましい意見だというのは自分でも分かっている。少なくとも普通の体育会系の部活で先輩にこんな事意見したら、殴り飛ばされるどころの話じゃない。


「まぁ、確かに良い気分はしないだろうね。少なくとも雅や友基の言う、『楽しい部活』じゃないかもね。」

口調は割と落ち着いている。嫌みで言っているようには思えない。ただ、自分の意見は譲らなかった。

「でもね、私は自分が間違っているとは思っていない。ただ楽しいだけなんて、中身が無さ過ぎる。それに友基のいう可能性を広げるていうのも曖昧で、私にはよく分からない。私は、あなたがもっとボードを学びたいていうから、この部に入部した。そして今、あなたに教えている。」

中身が無いとか曖昧とか散々な言われようだ。一応俺なりに色々考えているんだけどな。でもそう言いながらもこの部活に付き合ってくれているのだから、智香は真面目のいい人だと言うのは伝わる。


「教えてもらっておいて、変な事を言ってごめんな。だけど、俺以外の人にも教える立場になったら考えておいて欲しいんだ。やっぱり、本人達に楽しいって思ってくれる部活にしたいし。」

俺は一通り、自分の考えを伝えた。

「楽しいのは良いけど、不真面目な部活だと思ったら、即退部するから。そのつもりでいてね、分かった?」

「分かった、よろしく頼む。」

手厳しい意見だがごもっとも。俺は素直に返事をするしかなかった。

「雅も良い?あんたが一番不安なんだからね。」

智香は雅にも釘を刺した。

「ふぁ〜い。」

やる気の無い返事だ。レッスンの時も真面目な熱血指導の智香に対し、ひたすら人を小馬鹿にしてきた雅だ。頼むから智香を失望させるような事はしないでくれよ。


 しかし、そんな智香の不安に雅は答える。

「でもね、ともちゃん。私はね、ユーキが言ったように、怒鳴り散らされる指導が嫌で、スキー部辞めてこの部活を作ったんだ。だから、今友基が言った事は、私にとっても、スノ部にとっても大事な意見なんだよ。沢山怒られたり、嫌な事言われなくても成長出来る楽しい部活にするっていうね。私も、ともちゃんが納得出来るような部活になるよう頑張るから、ともちゃんも、どうすれば『楽しい部活』になるか一緒に考えてくれたら嬉しいな〜。」


 雅が優しく語りかける。冷えていた空気はほんの少し、暖かみを増した。

「ま、あんたが作った部活だし好きにすれば。私が必要以上に出しゃばるのも変な話だし。」

智香もひとまず納得はしてくれた。本人からすれば、この部活は色々と違和感も沢山あるかもしれない。いや、智香だけでなく誰しもが何らかの違和感とぶつかる事になるだろう。


 楽しい事があると言う事は、時に辛い事もあるという裏返しでもある。それをどう乗り越えるか。いつか立ちはだかるであろうこの課題を俺は覚悟しながら、楽しいボードライフを贈ろうと思う。


「ところで、さっきからたくさん雪降ってるね?下まで滑れそうだね?」

滑り始めてから2時間以上、雪は留まる事を知らない。人が踏み入れていない場所は見た目でもわかるくらいふわふわだ。

多分麓までの積雪もそれなりにある。

「雅、まさか滑走禁止エリアに入って滑ろうとか思ってないよね?」


 智香が変に心配している。俺もその不安が無い訳じゃないけど。

だがそういう馬鹿もまたいるのも事実。


「おい、下まで滑ろうぜ!この雪ならすげーパウダーだ!」

「マジか?滑走禁止て書いてあったけど、大丈夫だよな?!」

どこぞのDQN男2人組が調子に乗って滑りに行こうとしているのを見てしまった。

わきまえていない馬鹿がいたっぽい。


 智香は完全に呆れている。

「少なくとも、あんな事するのは嫌よ。雅?」

それを見ていた雅は反論する。

「さすがに、それは無いよ〜。いくら私でもルール違反と危険行為は絶対しないし、させないよ。さっちゃんとも約束したし。」

雅は手を立てて横に振るジェスチャーをしながら言った。フリーダムそうな雅だが、まぁここは部長だ。それなりに節度もわきまえているようだ。

スノ部にだって、わきまえていない馬鹿がいるとは思いたく無いし。


 雅のスマホから着信した時に起こった。


「お、ラナラナ〜。そういえば、ラナラナと麻美どうしているかな?2人でユーキをいじめてばっかりだったから、そっちにも顔出してあげなきゃ。」

着信は良菜からだ。にしても、のんきな事を言っている雅。やっぱレッスン中は俺をいじめていたのか。


「今どこ?楽しんでる?」

「みやびん、大変!麻美が、麻美が…!」

「え?どうしたの?」

電話の向こうの良菜は尋常じゃない様子だった。何がなんだか分からない様子の雅。

「今何処?怪我したの?そっち行くよ!」

「いや怪我とかじゃ無いんだけど。コースの終わりの所!麻美がヤバいことしようとしてて!」

「とにかく、すぐにそっちに行くから。ちゃんと待っててね?良い?」

雅はスマホを閉まった。表情が強張っているように見える。

「今からラナラナとアサミンの所に行くけど、ユーキとともちゃんも来てくれる?」

雅がいつになく真面目な口調で俺達に問う。


 嫌な予感がした。わきまえていない馬鹿がいたっぽい。

 

 良菜の電話かわ聞こえて来た「麻美がヤバい事」…。

おそらく、あいつならこのコンディションのパウダーバーンを滑りたがるはずだ。入部した時から、パウダー好きを公言している麻美だ。今のこの雪で滑りたがらない方が不自然だ。そして、コースの終点と言う事は……。


 雅と智香と俺はコースの終点にたどり着いた。コースに向かって左がリフト乗り場だが、良菜と麻美は右側にいた。仮柵の端。人が1人は通れそうな隙間がある。そこには、無法者が滑ったと思われるスキー板やボードのシュプールが刻まれている。


 いつの間にかゲレンデを覆っていたガスは徐々に引き、麓まで見渡せる。コースの向こう側も一面真っ白だ。ハンの木コースの滑走禁止エリアも複数の人間が滑った跡がある。確かにパウダー好きなら滑りたくなるような絶好のコンディションかもしれない。本当に安全が確認されていればの話だが。


 麻美は板を横にスリップさせて止まっている。良菜はその麻美の袖を掴んで静止させようとしている。板は後ろ足を外した状態だ。麻美は禁止区域を滑ろうとしている。絶対に止めなければならない。


友基がドMなら、それはそれで書きがいのありそうな奴だったなぁと今になって…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ