↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帳の外 ―まだ、ここにいる―  作者: 佐和井 泥
第六話 猫又は荷を落とさない

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
44/62

6-4

 計画は、単純だった。単純なほうが、速い。


室井(むろい)の裏帳簿を、抜く」


 俺は板の間に、狐の書いた地図を広げた。猫又(ねこまた)たちが、覗き込む。


「抜いて、どうすんだ」


 銀次(ぎんじ)が訊いた。


「あんたらを突き出した当局の窓口に、届ける。同じ窓口だ。室井(むろい)が、あんたらを未登録運送だと通報したのと、まったく同じ経路で、室井(むろい)の横領を、届ける」


 板の間が、少し静かになった。それから、銀次(ぎんじ)が、低く笑った。


「……あいつが、うちを潰すのに使った道具で、あいつを潰すのか」


「運び屋の仕事だ。荷を、届け先へ運ぶ。今回の荷は、室井(むろい)の裏帳簿。届け先は、当局の監査窓口。……あんたらが、いちばん得意なやつだ」


 板の間の猫又(ねこまた)たちが、顔を見合わせた。それから、誰からともなく、笑い出した。


「面白えじゃねえか」


「あの野郎の帳簿を、あの野郎の窓口に届けるのか」


「そりゃあ、運び甲斐がある」


 久しぶりに、まともな荷が来た、という顔だった。室井(むろい)に道を塞がれ、通報に怯え、荷を止められて、この一家はずっと守勢だった。今夜、初めて、攻めに回れる。


 サエが、俺の隣で、腕を組んだ。


「で、私は?」


「屋根の上で、道を空ける。ドローンが来る。あんたにしか、切れない」


「久しぶりに、まともな仕事ね」


 彼女も笑っていた。書式でも制度でもない、ただの機械と、ただの悪党。断ち切れる相手。彼女がこんな顔をするのは、本当に久しぶりだった。


 サエが、壁にもたれた。


「で、その帳簿は、どこにあるの」


室井(むろい)の集配倉庫。表は、大手の看板と、企業の警備がついてる。正面からは入れない」


「屋根は」


 俺が訊くと、銀次(ぎんじ)が、にやりとした。


「屋根に、正面なんてもんはねえよ」


 その言い方が、俺は少し好きだった。


 表の道には正面がある。門があり、ゲートがあり、番号を照らす目がある。だが、屋根の上には、そのどれもない。あるのは道と、道を知る者だけだ。企業がどれだけ地上を固めても屋根の上までは、手が回らない。忘れられた高さに自由が残っている。


     *


 その夜、俺たちは、倉庫の屋根の上にいた。


 湾岸の外れ、〈環状ロジ〉の集配倉庫。地上は企業の警備と、監視カメラと、認証ゲートで固められている。だが、屋根の上は、がら空きだった。企業は、地面ばかり見張る。上から来る者のことを、忘れている。


 猫又(ねこまた)たちが、屋根の縁に、影のように並んでいた。銀次(ぎんじ)が、天窓の一つを、爪で示す。


「ここが、換気口だ。中の梁を伝えば、事務区画の真上に出る。裏帳簿は、室井(むろい)の机の、下の金庫。……だが、金庫は、俺たちの手にゃ負えねえ。錠前は専門外だ」


「そこは、俺の仕事だ」


 俺は、灰桜(はいざくら)をくわえた。火はつけない。企業の錠前を開ける手順なら、体が覚えている。嫌になるほどに。


 だが、問題は、そこまで、どうやって荷を運ぶか、だった。


 倉庫の中は、無人搬送機と、監視ドローンが動いている。地上の警備も、時々、事務区画を見回る。梁の上を、荷を持って歩けば、いずれ見つかる。


「リレーで運ぶ」


 銀次(ぎんじ)が言った。


「梁の要所に、うちの若いのを配る。荷は、手渡しだ。一人が長く持てば、見つかる。だが、次から次へ手渡しすりゃ、荷はいつも動いてる。動いてる荷は、止まってる荷より、見つかりにくい」


「猫の道だな」


「屋根の上だけじゃねえ。倉庫の梁の上にも道はある」


 俺は、換気口から、中へ滑り込んだ。梁の上に降りる。埃と、機械油の匂いが、鼻をついた。


 倉庫の中は、巨大だった。天井まで届く棚が何列も並び、そのあいだを、無人搬送機が決められた軌道で行き来している。企業の荷が、番号をつけられ、整然と積まれている。表の物流の、内臓だった。


 その内臓の、いちばん奥に、室井(むろい)の事務区画があった。ガラスで仕切られた、小さな箱。そこだけ灯りがついている。今夜、室井(むろい)本人はいないらしい。運がよかった。


 俺は、梁の上を、音もなく進んだ。猫又(ねこまた)たちが、梁の要所要所に、影のように散って待っている。屋根の上だけでなく、この鉄の梁の上にも、彼らは道を通していた。


 サエが、俺の後ろに続いた。狭い梁の上でも、彼女の足取りは、風のように軽い。


 眼下の通路を、警備員が一人、歩いてきた。懐中電灯の光が、床を舐める。俺は梁の陰で、動きを止めた。サエも、止まる。息さえ殺す。


 光が、真下を通り過ぎていく。


 警備員は、上を見なかった。人は、めったに上を見ない。頭上に道があるなんて、考えもしないからだ。足音が遠ざかるのを待って、俺たちは、また進んだ。


「あんた、こういうの、得意ね」


「昔とった杵柄だ」


「犬の頃の?」


「言うな」


 俺は、事務区画の真上まで、梁を伝った。下に、室井(むろい)の机が見える。今は、無人だ。俺は、梁から細いワイヤーで、静かに降りた。


 降りるあいだに、机の上が、目の高さを過ぎた。室井(むろい)の顔が、そこに並んでいた。本人はいないのに、いる以上に、いた。大手の重役と肩を組んで笑う写真が、何枚も、額に入れて飾ってある。その隣に、封も切っていない高級酒の瓶。まっとうな下請けの給料では、買えない値だ。潰した運び屋の稼業を、こうして写真と酒に換えて、机に並べている。金の匂いのする男の机は、たいてい、こういう顔をしていた。蹴落とした数を、飾りたがる。


 机の下の金庫。旧式の、企業製。俺の指が、迷わず、ダイヤルの癖を探る。


 旧式の金庫は、指で読める。ダイヤルを回すたびに、内側の輪が、かすかに引っかかる。その引っかかりを、指の腹で数える。右へ、左へ、また右へ。


 こういう手仕事は、頭で考えない。指が勝手に覚えている。厄介なことに、忘れたい手つきほど、いつまでも指に残る。俺はそれを、今は道具として使った。


 眼下の倉庫では、無人搬送機が、荷を右へ左へ運んでいた。誰も、上を見ない。だが、いつ地上の警備が見回りに来るか、わからない。指先に、汗が滲む。


 サエが、梁の上で、見張っていた。彼女は何も言わない。ただ、時々、下の通路へ視線を投げる。警備の足音を、俺より先に、風で拾っている。


 一分。二分。


 かちり、と、金庫が開いた。


 中に、革の帳簿があった。抜いた荷の、行き先リスト。日付と、品名と、"事故処理済み"の判。狐の言った通りだ。泥棒は、几帳面だった。


 俺は、それを、胸元に収めた。今夜の、いちばん大事な荷だ。


 だが、その帳簿を抜いた瞬間、金庫の奥で、小さな赤い光が点いた。


 抜き取りセンサー。中身が動くと、警報が鳴る仕掛けだ。


 次の瞬間、けたたましい警報が、倉庫じゅうに響き渡った。赤い回転灯が、天井を舐める。停まっていた無人搬送機が、いっせいに向きを変え、侵入者を探しはじめた。眠っていた鉄の箱が、目を覚ましたようだった。


「……気づかれた」


 倉庫の照明が、一斉に、白く変わった。


 俺は、ワイヤーで梁の上へ駆け戻った。帳簿を、革帯で胸に固定する。落とせない荷は、体に括る。運び屋のやり方を、盗ませてもらった。


『侵入者を検知。事務区画。荷の持ち出しを確認』


 倉庫の合成音声が、天井から降ってくる。監視ドローンが、一斉に浮き上がった。地上の警備が、事務区画へ走る。


「サエ」


「わかってる」


 サエの袖の下で、赤い駆動線が灯った。腕の骨格に沿って走る、血管のような光。彼女がいちばん嫌う、企業に刻まれた戦闘用の赤。だが今夜は、それが、屋根へ向かう風を呼ぶ。


 俺たちは、換気口から、屋根へ飛び出した。


 夜気が、顔に当たる。眼下に、湾岸の灯り。屋根の上には、待っていた猫又(ねこまた)たちが、影のように散っていた。


 銀次(ぎんじ)が、屋根の縁で、二本の尾をゆらりと立てた。号令の代わりらしかった。散っていた猫又(ねこまた)たちが、いっせいに持ち場についた。誰も、慌てていない。何度もやってきたことなのだろう。追われて、道を繋いで、荷を逃がす。それが、この一家の日々の仕事だった。


銀次(ぎんじ)! 道を!」


「開いてらあ!」


 老猫又(ねこまた)が、屋根の縁を、爪で示した。そこから隣のビルへ、隣のビルへと、細い道が続いている。地図にない、猫の道。俺には途切れて見えるその道が、猫又(ねこまた)たちには、光って見えている。


 俺は、胸の帳簿をいちばん近い若い猫又(ねこまた)に放った。


「運べ!」


 猫又(ねこまた)が、それを空中で受け止め、走り出した。屋根を蹴り、谷間を跳ぶ。その背を追って、監視ドローンが浮き上がる。だが、次の角で、荷はもう別の手に渡っていた。ドローンは、空の背中を追いかけて、行き場を失う。


 俺とサエは、その後を追って、屋根を走った。帳外屋(ちょうがいや)の俺の足は、猫又(ねこまた)ほど速くない。だが、荷を運ぶのは俺の仕事じゃない。俺の仕事は、この道が閉じないように見張ることだった。


 受け手の猫又(ねこまた)が、跳びざまにそれを攫って、そのまま走り出す。次の要所で、また別の猫又(ねこまた)が待っている。手渡し。走る。跳ぶ。手渡し。荷は、一箇所に、一秒も留まらない。


 リレーだ。動いてる荷は、止まってる荷より、捕まえにくい。


 俺は、屋根の縁から、それを見ていた。


 一匹が、帳簿を抱えて、看板の裏を駆け抜ける。次の角で、別の一匹が手を伸ばす。すれ違いざま、荷が渡る。渡した者は、囮になって別の方向へ走る。受け取った者は、非常階段の手すりを滑り降り、下の屋根へ跳ぶ。そこで、また次へ。


 まるで、荷が屋根の上を、生き物のように流れていく。どこにいるのか、追う側にはわからない。一秒ごとに、持ち主が変わる。監視ドローンの照準が右へ左へ迷い、その迷いのぶんだけ、荷は先へ進む。


 何百年ぶんの、運び屋の知恵だった。一人では、遅い。だが、繋げば、速い。


 一度だけ危ない場面があった。


 若い猫又(ねこまた)の一匹が、荷を渡そうとした相手が、封鎖ドローンに道を塞がれ、間に合わなかった。荷を抱えたまま、その子は屋根の上で立ち往生しかけた。ドローンの照準がそこへ集まる。


 だが次の瞬間、別の一匹が屋根の反対側から跳んできた。すれ違いざま、荷を掠め取る。囮になった最初の子がわざとドローンの前に飛び出し、注意を引きつけた。荷はもう別の道を走っている。


 誰も、指示していなかった。ただ、体が動いた。何百年ぶんの、繋ぐ体だった。


 だが、室井(むろい)も、馬鹿ではなかった。


 倉庫の屋上から、封鎖ドローンが次々と上がってきた。昨夜、ナズナを撃ったのと同じ、新型だ。それが、猫の道の要所要所へ、先回りして陣取っていく。


 道が、塞がれていく。


「サエ!」


「一番腹立つ色のやつね」


 サエが、跳んだ。


 屋根から屋根へ。彼女の周りで、夜気が裂けた。海から吹き上げる潮の風、ビルの谷間を抜ける風、ドローンの起こす下降気流。湾岸の屋根の上は、風の巣だ。鎌鼬(かまいたち)にとって、刃の在庫が、無尽蔵にある。


 封鎖ドローンの一機が、粘着弾を撃った。サエはそれを風で薙ぎ払い、返す腕で、ドローンのローターを断ち切った。羽根を失った機体が、屋根から、暗い谷間へ落ちていく。壊してはいない。ただ、飛べなくしただけだ。企業は、それを壊したと言うだろう。だが、今夜は、それでいい。


 サエは、着地して、また跳んだ。


 彼女の足が屋根に触れるたび、周りの空気が薄く震え、袖口へ集まった風が、細い刃の束になった。


 封鎖ドローンが次々と粘着弾を撃つ。サエは、そのすべてを風で逸らした。逸れた弾が隣のドローンに貼りつき、二機がもつれて落ちる。彼女は振り向きもしない。もう次の道を風で切り開いている。


 サエが、屋根の上を、風になって走る。塞がれかけた道を、一つ、また一つと、切り開いていく。彼女が通ったあとには、道が戻る。猫又(ねこまた)たちが、その道を、荷を抱えて駆け抜ける。


 二機目の封鎖ドローンが、粘着弾を連射した。サエは、屋根の上を横に跳び、弾幕を風で押し返す。押し返された弾が、ドローン自身の羽根に貼りつき、機体が傾いた。バランスを崩して、屋根から滑り落ちる。


 三機目が、背後から来た。サエは振り向きもせず、腕を後ろへ振った。夜気が裂ける音。ローターが、根元から断たれる。


 連続で風を呼ぶたびに、袖口の赤い駆動線が明滅した。無限に切れるわけではない。鎌鼬(かまいたち)の刃にも、在庫がある。彼女の息が、少しずつ上がっていく。それでも、彼女は止まらない。止まれば、その隙間から、荷が撃たれる。


 俺は、屋根の縁で、その光景を見ていた。


 黒いコートの影が、屋根から屋根へ飛び、赤い駆動線が夜に閃く。その下を、琥珀色の目をした運び屋たちが、荷を繋いで走る。地図にない道の上を、地図にない者たちが、地図にない荷を運んでいく。


 絵になるな、と思った。柄にもなく。


 だが、最後の一区間で、道が途切れた。


 そこまでは、順調すぎたのかもしれない。猫又(ねこまた)たちのリレーは速く、サエの刃は鋭く、荷は、あと一歩のところまで来ていた。あと一区間、越えれば、届く。


 だが、室井(むろい)は、いちばん最後の、いちばん広い谷間を、最初から見越していた。


 届け先――当局の監査窓口がある、旧庁舎別館。その手前に、いちばん長い谷間がある。水路をまたぐ、二十メートルの空白。そこに、室井(むろい)が、封鎖ドローンを三機、横並びに置いていた。


 サエの息が、上がっていた。連続で風を呼べば、彼女の身体も、削れる。赤い駆動線が、不安定に明滅している。


 三機の封鎖ドローンが、谷間の向こうに、横一列に並んでいた。羽根を広げ、粘着弾の口を、こちらへ向けている。あの谷間を跳べば、三方向から撃たれる。荷は、また貼りつく。昨夜と、同じだ。


 俺は、屋根の縁で、歯を噛んだ。ここまで来て、あと二十メートルが越えられない。サエの刃は、もう長くは保たない。猫又(ねこまた)たちも、息が上がっている。


 あと一手、足りなかった。


「あと、三機」


「わかってる。だが、一度に三機は」


「一度でいい」


 声がした。


 ナズナだった。いつのまにか、俺の隣に来ていた。手の甲の、粘着弾の跡が、まだ赤い。


「あたしが、運ぶ」


 ナズナはリレーの最後の一人が握っていた帳簿を、受け取った。胸に、ぎゅっと抱える。


「二十メートルは、跳べねえぞ」


 銀次(ぎんじ)が、どこからか言った。


「跳ばない。落ちる」


 ナズナが言った。


「あの谷間に、水路がある。ドローンは、水の上は、警戒が薄い。落ちて、水路のパイプを伝って、向こう岸へ上がる。……あたし、それが、いちばん速い」


「荷が濡れる」


「濡らさない」


 ナズナは、帳簿を、着物の内側の、いちばん奥へ収めた。それから、俺を見た。琥珀色の目に、昨夜の涙は、もうなかった。


「落とさない。今度こそ」


 サエが、封鎖ドローンの注意を、風で引きつけた。三機の照準が、一斉にサエへ向く。その一瞬、谷間の真ん中が、がら空きになった。


 ナズナが、跳んだ。


 いや、落ちた。谷間の底へ、まっすぐ。ドローンが気づいて、粘着弾を撃つ。だが、遅い。ナズナの小さな影は、もう、水路の暗がりへ吸い込まれていた。


 跳べば、格好はついたはずだ。屋根から屋根へ、ひと息に。この街でいちばん速いと言い張ってきた子の、それが誇りだった。その誇りを、ナズナは今夜、暗い水へ捨てた。膝を折り、身を丸めて、格好悪く落ちる。速く見せるより、荷を濡らさず届けるほうを、選んだのだ。


 谷間の底、水路の水面が、月明かりに鈍く光っている。粘着弾が、水面を叩き、白い泡を上げた。だが、その泡の下に、もう影はいなかった。


 水路の中を、ナズナが泳いでいるはずだった。息を止め、荷を胸に抱え、暗い水の中を、向こう岸へ。運び屋は、荷を落とさない。落とすくらいなら――だが、水の中では、抱えたまま、溺れることもできる。


 昨夜、この子は、荷を抱えたまま貼りつかれた。今夜も、抱えている。同じ癖だ。だが今夜は、その癖が、二十メートルの谷間を越える、たった一つの方法だった。


 俺は、屋根の縁で、息を止めた。


 数秒。


 向こう岸の旧庁舎別館の壁を、小さな影が這い上がってきた。濡れた尾を振り、窓の庇に飛び移り、そして――監査窓口の、夜間投函口の前に、立った。


 ナズナは、着物の奥から、帳簿を出した。濡れていなかった。


 投函口に、それを、滑り込ませる。


 届いた。


 向こう岸でナズナが、こちらを振り返った。屋根の上の俺たちに、濡れた腕を、小さく振ってみせる。届けた、という合図だった。


 サエが屋根の縁で、ふっと息を吐いた。張りつめていた赤い駆動線がゆっくりと消えていく。


「届いたね」


「ああ」


「あの子、落とさなかった」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。