3-7
地上に出たのは、午前三時半を過ぎた頃だった。
出口は港湾第三ゲートの外側、旧資材置き場の奥にあった。錆びたフェンスと壊れた料金所の陰に、地下搬送路の口が隠れている。近くの高架道路では、何事もなかったように朝前の車列が走っていた。
御堂はバンを停めた。一号が上空から戻り、二号がアンテナを畳み、三号が低く唸りながら後部へ入る。四号は走行中に傷ついたセンサー部を最後まで確認し、五号は照明を落として固定具に収まった。
最後に六号が戻る。御堂は六号の銃身を布で拭いた。撃ったばかりの機体を、まるで眠らせるように扱っている。名前はつけない。褒めもしない。ただ、雑にはしない。
布を動かす手が、時々、止まった。止まってから、また動く。長く五機に神経を分けていた反動なのか、自分の指の感覚が、まだ半分戻りきっていないようだった。彼は一度、右手をぐっと握って開き、それから、確かめるように銃身の冷たさに触れた。指先に感覚が戻ると、また布を動かし始める。
「また使うんですか」
俺が訊くと、御堂は銃身から目を離さずに答えた。
「使わない方がいい」
「じゃあ捨てれば」
「古い道具はな」
御堂は布を畳み、六号の固定具を締めた。
「捨てる相手を選ぶ」
それは、六号の話だけではないのだろう。
保険会社には、コンテナ発見の報告を入れた。地図外地下搬送路への誤進入、怪異性交通障害、資材の一部損耗、コンテナ本体は回収可能。企業警備ドローンとの交戦については書かなかった。書けば面倒が増える。書かなくても、向こうは知っている。
担当者は画面越しに青い顔をしていた。
『道路がコンテナを飲んだ場合の約款はありません』
「作ればいい」
『簡単に言いますね』
「保険屋でしょう」
『盗難ではないんですか』
「未払い道路保守費の怪異性自動回収です」
担当者はしばらく黙った。
『今、即興で言いましたね』
「はい」
『最悪です』
「でも、盗難よりは揉めにくい」
『そこが最悪なんです』
担当者は疲れたように笑った。
『追加調査はお願いできますか』
俺は端末を御堂へ向けた。御堂は画面を見なかった。
「道路なら受ける」
『道路以外は』
「専門外だ」
それで話は終わった。担当者は何か言いかけて、やめた。この道路屋には、値切りも、追加注文も、通用しない。受けるのは道路。それ以外は専門外。境界線が、料金表より先に引かれている。
御堂は運転席へ向かった。夜明け前の港湾区に、潮の匂いと排気の匂いが混じっている。高架道路の上では、白い無人トラックが列を作り、都市のどこかへ荷を運んでいた。
「助かりました」
俺が言うと、御堂はドアに手をかけたまま答えた。
「仕事だ」
「また頼んでも?」
「道路なら」
「道路以外は」
「専門外」
同じ言葉を、彼は少しも飾らずに言った。
飾らないのは、それが看板だからだ。道路屋。それ以上でも以下でもない。この街では、看板をひとつに絞れる者は強い。何でも屋は、何でも押しつけられる。御堂は、押しつけられないために、自分の持ち場を一本の道に絞っていた。その潔さは、俺には少し眩しかった。俺の看板は、いまだに帳外屋という、輪郭の曖昧なものだった。
御堂は一度だけ高架道路を見上げた。街灯の下を車列が流れていく。無人トラック。配送ドローン。夜勤明けを運ぶ小型バス。誰かの生活を載せた道。
その視線は、車を追ってはいなかった。車が通る、その下の路面を見ていた。継ぎ目。ひび。補修の跡。
「道路はな」
御堂が言った。
「人より長生きする」
俺は黙っていた。
「だが、放っておくと曲がる。塞がる。忘れられる」
「だから道路屋ですか」
「ああ」
彼は運転席に乗り込んだ。古いバンのエンジンが低く鳴る。窓が少しだけ下がり、御堂がこちらを見た。
「道路は嘘をつかない」
「地図は?」
「嘘を書く」
「企業は?」
「地図を売る」
俺は少し笑った。
「いい街ですね」
「そうでもない」
御堂は無表情で言った。
「だが、走れる道はまだある」
バンは静かに動き出した。番号だけのドローンたちと、違法な六号と、五十八歳のエルフの道路屋を乗せて、古い配送バンは夜明け前の港湾道路へ消えていった。




