3.電車で席を譲れた
翌日、昨日と同じ時間に目を覚ました。
違う、目を覚ますようにアラームをかけた。
あの電車に乗れば、また彼女に会えると思った。
我ながら気持ち悪い。
昨日の自分の不甲斐なさがどうしても許せなくて、いつもなら動けなかったことを後悔して終わるんけど、なぜか終わららせたくなかった。
自分でもなぜだかわからない。
決して下心とかでは無い。
うん、ないない。
そして、昨日と同じ電車に乗り込んだ俺は、素早くドア近くの席を確保した。
そして、彼女が乗車してきた時のために頭の中でシミュレーションを繰り返す。
いきなり話しかけたら驚かれるだろうか。
肩を叩く?いや、その方が驚くか。
そもそも、昨日と同じドアから乗車してくるとは限らない。
などと考えているうちに、彼女が昨日乗車してきた駅に到着した。
ドキドキしながらドアの方を見つめていると、白い杖をつきながら昨日の彼女が乗車してきた。
俺は勇気を振り絞って声をかけた。
「あの、ここ空いてますよ」
緊張しすぎて声が裏返った。
彼女は乗車直後の声掛けに少し驚いたようだが、すぐに笑顔になった。
「ここってどこですか?」
しまった
そりゃそうなるわ。
「あ、すみません。案内します」
と言ったものの、女性の手を掴むのも気が引けオドオドしていると
「じゃあ右肩いいですか?」
と彼女が左手を小さく挙げた。
「はい」と彼女の手のあたりに右肩を寄せると、彼女の手が優しく俺の肩に下ろされた。
俺はゆっくり歩き出し、俺が座っていた席の前に彼女を連れて行った。
「席の前まで来ました」
と彼女の方を見ると、俺の肩から左手を離し座席を触った。
席を確かめた彼女は「ありがとうございます。譲ってくださったんですね」
とニコニコしながら俺の方を見た。
「え、なんでわかったんですか?」
「席が温かいから」
なんてこった
なんかめっちゃ恥ずかしい。
「本当にありがとうございます」と重ねてお礼を言い、彼女は席に座った。
「いえ」と照れを隠すように、俺は奥の空席に移動した。




