19.伝える勇気
香ちゃん、なんでここに?」
「その声は太陽くん?私は風ちゃんにここで待っててって言われて」
その時、俺のスマホにメッセージが届いた。
和希からだ。
「舞台は整った。あとはお前次第だ太陽」
やっぱりあいつの仕業か。
「香ちゃん、隣座っていいかな?」
「あ、うん、どうぞ」
俺は、和希のベッドに座っている彼女の隣に腰を下ろした。
静かな時間が流れる。
俺が深呼吸をして、口を開こうとした時、一瞬早く彼女の口が開いた。
「体調は大丈夫?」
彼女らしい一言目だった。
「香ちゃんごめん。寝不足っていうの嘘なんだ」
「え?」
「あと、俺のせいで気を遣わせて、悲しませて、ほんとうにごめんなさい」
「なんで太陽くんが謝るの?悪いのは私の方だよ」
「違うんだ。こないだ渚さんと話して、もしかして香ちゃんと渚さんはそう言う関係なんじゃないかって勝手に勘違いして、俺香ちゃんのそばにいない方がいいんじゃないかって思って、、、それで」「太陽くん、、、」
「でもを、香ちゃんとのあの電車での時間は、俺にとって本当に大切で大好きな時間で、だから、もし香ちゃんがよかったらまたいつもの車両に戻ってきて欲しい。そばにいて欲しい」
彼女は潤んだ目で俺を見つめながら
「私にとってもあの時間は1日で一番楽しいくて、かけがえのない時間だよ」
「香ちゃん、、、」
「明日からまたよろしくお願いします」
「こちらこそよろしく」
とお互いに頭を下げながら笑った。
その後、彼女とともに1階に降りると、和希と田辺さんが仲良く恋愛映画を鑑賞中だった。
「おー太陽話終わったか。」
「うん。まぁそのーありがとな」
「いやーなかなか降りてこないから、俺のベットで楽しんでるのか、、、」
とか言い出したので思いっきり足を踏んで黙らせた。
そして翌朝、いつもの電車で香ちゃんと並んで座る。
やっぱり彼女の隣は落ち着くな。
「太陽くん、今日放課後会える?」
「え、うん大丈夫」
「よかった。じゃあ5時に太陽くんの最寄りの駅の改札で待ち合わせでいい?」
「いや、俺が香ちゃんの駅まで行くよ。普段行かない駅とか危ないでしょ」
「過保護だなぁ。でもお言葉に甘えちゃお」
夕方5時10分前。
待ち合わせの場所に着くともう香ちゃんが待っていた。
「ごめん、お待たせ」
「ううん、今来たところだから。で、ちょっと近くの公園まで付き合ってくれる?」
と言うことで、駅の近くの公園に向かった。
公園には犬の散歩をしているおばさんやウォーキングをしているお兄さんがいるぐらいで、ほとんど人はいない。
彼女と並んでベンチに座る。
すると香ちゃんはバックから綺麗にラッピングされた袋を取り出し、両手で俺に差し出した。
「ちょっと遅くなっちゃったけどバレンタインのチョコレートです。よかったら受け取ってください」
と照れたような笑顔の香ちゃん。
「え、マジ?めっちゃ嬉しいありがとう」
と俺は彼女からチョコを受け取った。
「ちゃんと用意してたんだけど、てっきり私、太陽くんに嫌われたと思ったから、渡せなかった」
「嫌うだなんて、そんなわけない」
あのね、また太陽くんが勝手に勘違いするといけないからちゃんと言っておくね。私、太陽くんといる時間が大好きだよ。太陽くんの思ってること、何でも知りたいと思ってる」」
彼女の真剣な眼差しに吸い込まれそうになる。
「香ちゃん、聞いて欲しいことがある」
彼女は静かに頷いた。
もう躊躇いはなかった。
勇気をかき集めている間に手遅れになるのはいやだ。
もう後悔したくない。
俺は彼女の目を見つめながら、深く息を吸った。
」俺、香ちゃんのことが好きです。電車の中以外でももっと会いたいし、そばにいて欲しい。よかったら俺とお付き合いしてください」
香ちゃんは泣きそうな声で答えた。
「はい、喜んで」
彼女は満面の笑顔で答えてくれた。
夕日が沈んでも、俺たちはしばらくベンチで寄り添って座っていた。
あの日、勇気を出して電車で席を譲ってよかった。




