10.彼女の隣
それから数週間、夏休みも後半にさしかかり、そろそろ夏休みの宿題の大物を片付けなければと、俺はレポート用紙を取り出した。
自分の興味関心のある分野をレポートにまとめるという課題だ。
今、俺が関心がある分野、と考えた時、花森さんの顔が頭に浮かんだ。
いやいや、何考えてんだ俺は。
それから数時間悩みに悩んで、テーマが決まった。
「視覚障害者と白杖」
花森さんに色々教えてもらったこともあるし、もっと深く知りたいと思った。
俺みたいな素人が興味本位で踏み込んでいいのかとは思ったが、もっと知って知識を広めたいと思った。
花森さんに直接話を聞きたいところだが、それはさすがに失礼かと、図書館に行ってみることにした。
図書館なんて数年ぶりにきたけど、俺と同じように夏休みの宿題をしているのであろう若者がたくさん来ていた。
参考になりそうな本を数冊手に取り、俺は空席に腰を下ろした。
資料を読みながらメモをしていく。
1時間ほど作業をし、ふと視線を上げると、少し離れた席に見覚えのある横顔を見つけた。
指で本をなぞり点字を読んでいるように見える。
試しにメッセージを送ってみる。
「花森さん、今図書館にいる?」
送信ボタンを押して数秒、窓際の彼女がスマホを取り出す。
イヤホンを耳に当てスマホの音声を聴いているように見える。
メッセージを聞いた彼女は顔を上げる。
「そっちじゃないよ。左の方」
と送ると彼女はこちらを見た。
目が合ったような気がした。
「大空くんいるの?」
彼女からの返信を読んだ俺は彼女の席まで行き「いるよ」と声をかけた。
彼女は満面の笑みで俺を見上げた。
不覚にもドキッとした。
「夏休みの宿題で調べ物してて」
「何調べてたの?」
俺はどういう反応が返ってくるか少し怖かったが、恐る恐るレポートの内容について話した。
「え、すごい!」
「こういうの嫌じゃない?」
「なんで?いやなんかじゃないよ。むしろ興味持ってくれてすごく嬉しい」
と言ってもらえ俺は心からほっとした。
「ぜひ手伝わせて」と言う彼女のお言葉に甘えて、それから毎日図書館でレポート作成に付き合ってもらった。
彼女の協力もあり、5日ほどでレポートは完成した。
「花森さんのおかげですごくいいものが書けたよ。本当にありがとう」
「いえいえ、少しは恩返しできたかな」
「恩なんて売った覚えないけど」
「大空くんさー、そんな優しいといつか悪い女につけ込まれるぞ?」
とニヤニヤしながら俺の腕を突いてくる花森さん。
「大きなお世話だ」
この人の隣にいると落ち着く。
優しい時間が流れる。
いつからかそんな風に感じるようになっていた。




