たまねぎ1
街にはクリスマスソングが流れている。
夜には幻想的な光をまとう街路樹は、むき出しの幹に無機質な電線と電球を這わせて沈黙している。
クリスマスや年末の買い物客でにぎわう、休日の昼下がりの街で、ひときわ混み合う場所があった。
何の予告もなく急に通行を妨げられた人々は、仕方なく足を止めて前方を透かし見た。
歩道でせき止められた人々は押し合いへし合い、不快な表情や声があっという間に伝播していく。
何が起こっているのか。
やがていくつもの手が人差し指を立てて、一点を指さした。
知らない者同士だが、言葉は通じる。
声高に教える声がさざ波のように広がり、衆目はそろって同じ方向を見つめた。
若者向きの洒落たショップがたくさん入っている商業ビルのてっぺん近く。
窓掃除のちっぽけなゴンドラが、頼りなくぶらさがっている。
そこにすっぽり入り込み、拡声器片手に身を乗り出して、怒鳴っている男がいた。
何を言っているのか、時折拡声器がキーンと鳴ったり、声が割れたり途切れたりで、全くわからない。
寒風に揺れるゴンドラの上で、肉色の細い腕をやたらに振り回している。
遠目にも、どうやら、上半身が裸らしいのが見て取れた。
「狂人か?」
「警察を呼んだ?」
「いや、消防車だろう」
「いやいや、なにかのパフォーマンスかもしれないよ」
「映画の撮影とか?」
「どっきり?」
これだけ人がいるのだから、だれかが通報しているだろう。
だれもがそう思った。
しかし警察も消防車も来ないのを見ると、実際、攻めすぎた宣伝方法か、ドッキリ番組の収録なのかもしれない。
人々は、飽き始めた。
それでなくても、忙しいのだ。
「寒いから、もう行こうよ。なんか小腹が空かない?」
若い男の袖を引いて、若い女が言った。
「何を言ってるのか、さっぱりだな。
もうちょっとマシな企画を考えろよ。バカバカしい」
そうつぶやいて、背広姿の男は強引に人混みをかき分けて去った。
「行こ行こ」
「次は、わたしがおすすめのショップね」
女子高生たちは、来た時と同じように連れ立って行ってしまった。
そうして、いつの間にか、渋滞は解消された。
みなさん!
人間の、真理を、お聞きなさい!
気のない一瞥を投げ、足早に通り過ぎる人々に向かって、しかし男は、声を張り上げた。




