たまねぎ2
いいですか、人間は、一個のたまねぎ、一個のたまねぎに過ぎないのです!
皮だけでできている、あのたまねぎですよ!
みなさんはおぎゃーと生まれてきて、オムツをつけ、肌着をつけます!
そのうち、言葉やマナーを身に着け始める!
道徳、社会常識、学歴、スポーツ、職業、肩書、家族、親戚、友人、仲間、人脈、お金、不動産、服飾、趣味、情報!
それらは、人を形作る属性であります!
だれもがその属性をもとに人を判断します!
優れた人間、劣った人間、使える人間、使えない人間、一緒にいたい人間、遠ざけておきたい人間!
しかしそれらはみな、人を何層にも包んでいる皮でしかないのです!
みなさんは、人もたまねぎも、皮が立派な方が優れていると思っています!
でも、本当にそうですか?!
皮をむいてごらんなさい!
肩書を剥いて、仕事を剥いて、家族や友人を剥いて、学歴だの生まれだの、全部剥いて、すっかりはだかにしてごらんなさい!
何が残りますか?
たまねぎの中心にはなにがありますか?
たまねぎの中心を欲しがる人がいますか?
むしろ、皮の方が重要ではありませんか?
でもしかし!
わたしは気づいたのです!
みなさん!
はだかになるのは、すなわち、皮から自由になることです!
何も残らない、だから、これ以上なにも失わない!
わたしのように!
わたしは、今この瞬間、まったくの無垢であり、全くの自由の中にいる!
おおい、ひ、す、い!
見てるかい!
そこらへんから、パパを見ているんだろう?
おまえはなぜ出て行ったんだ?
パパが悪かったのなら、謝るよ!
ほら、こうして、生まれた時からやり直すから!
おまえの、理想の父親になるから!
母さん!
母さんのおなかから、たった今、おぎゃーと生まれたよ!
さすがに誰かが通報したのだろう。
ビルの上から複数の手がゴンドラに伸びてきた。
また、通行人が集まり始めた。
男は伸びてくる腕を振り払い、振り払いして、ゴンドラの縁に、やせた裸の足を掛けた。
勇敢な消防士がゴンドラに飛び移り、裸の男をがっちり押さえ込んだ。
はらはら見守っていた見物人たちは、思わず息を呑み、やがて拍手喝采した。
男は、ビルの屋上に引き上げられ、毛布を掛けられて姿を消した。
興奮した見物人たちは、続きを待ったが、時間ばかりが流れるので、やがて散っていった。
生まれ変わった彼が初めてまとう皮は、何だろう。




