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公正11

 会えないと知れば、会いたさがつのる。

 しかし、公正が影山家に翡翠を迎えに行けるわけがない。



 全く乗り気じゃない瑠璃を、公正は何日もかけて根気強く説得した。

 わたしは育児しないから、覚悟してね、と瑠璃に念押しされて、やっと翡翠との対面がかなった。



 よちよち歩きの翡翠は、実にかわいかった。

 公正に抱っこされた途端、盛大に泣き始めたが、保育園への送迎をしたり、添い寝したりすると、二日ほどで慣れた。


 おむつ替えも入浴も着替えも、翡翠がいやがって逃げ回るのを追いかけながら、必死でこなした。

 約束した手前、公正は意地でもがんばった。



 瑠璃にはあまり似ていない。

 繊細で整った顔立ちや、色の白さ、黒目勝ちの大きな目は、誰に似たのだろう?


 抱き上げると、しっとりと吸い付いてくるような、柔らかく温かい重み。


 赤ん坊が苦手だったはずの公正だが、次々におもちゃを買ってきては瑠璃を(あき)れさせた。

 新しいおもちゃで嬉しそうに遊ぶ翡翠が見たくなるのだった。




 こっそり連絡を取り合っていた幸子が、無事男の子を出産した。

 公正は瑠璃に内緒で産院に行った。



 元気な泣き声の男の子だった。

 その場で、義雄、と名付けた。


 影山家の父母はもちろんのこと、公正の父や、祖母も見に来た。

 公正の祖父は、認知症になって入院中だった。


 男子をもうけたことを皆に祝福されて、公正はホッとした。

 



 幸子はすでに、充実した母親の顔をしていた。

 その顔をまぶしく見やって、幸子なら一人で育てられるだろう、と公正は思った。



 そして、また瑠璃と翡翠の元に戻った。





 翡翠はどんどん成長した。


 瑠璃は、子どもなどいないような暮らしぶりだった。

 毎日ゆっくり起きて、自分の身支度に時間をかけ、友人と会ったり、気ままに買い物やレジャーを楽しんだりした。


 翡翠は、早くから自分の身支度などできるようになった。

 小さいころ夜泣きで困らせたのが嘘のように、無口で、手のかからない子になった。


 

「たまには保育園の送迎を代わってくれないか?

明日、どうしても時間がとれないんだ」

「翡翠に夕ご飯を食べさせておいてくれないか?

今、分刻みで忙しいんだ」


 公正が頼んでも、瑠璃は動じなかった。


「約束を忘れたの?

そうやって、なし崩しにするのが、ほんとうに上手よね」



 しかたなく公正は、仕事の途中で翡翠の世話をしに自宅に帰り、また事務所に戻ったりした。

 へとへとになって帰宅しても瑠璃の姿はなく、翡翠は指を吸いながら丸まって寝ている。



 瑠璃と幸子と、足して二で割ったら、理想的な女になるのに。


 このごろ、なにもかもが思うようにいかない。

 公正はため息をついた。




 幸子のところにも、時々はこっそり顔を出した。

 ここでは、おいしい食事にありつけた。

 

 幸子は、大切に、慎重に、義雄を育てていた。

 もうちょっと大らかでもいいのにと思わなくもなかったが、公正は黙っていた。

 

 

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