表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/55

公正9

 久しぶりに見る我が家。

 温かそうな門灯が、寒かったでしょう、さあどうぞお入りなさい、と言っているようだった。


 ここはおれの家だ。

 金は出してもらったが、少なくとも所有者はおれだ。

   

 さすがに少し緊張したが、努めて何くわぬ顔で、公正は自宅のブザーを押した。



 はい、と返事があって間もなく、幸子がドアを開けて出迎えた。

 驚きも見せず、以前と変わらぬ貼りついた笑顔で。



 連絡も入れず急に帰ったのに、公正の着替えも洗面用具も、部屋も、すぐに使えるように清潔に整えられていた。

 どの部屋にも、趣味のいい絵や花がさりげなく飾ってある。



 たまに業者が掃除に来るまでは、散らかし放題で、綿埃(わたぼこり)が小動物のように動き回る家。

 昨日までそこで暮らしていたのが嘘みたいだ。



 温かい風呂にゆっくり浸かって出てくると、食卓にはすでに、冷たいのも熱いのも、何品もの料理が並んでいた。

 ぜいたくではないが手の込んだ家庭料理だ。

 

 いい匂いがする。


 公正は、家長の席にどかりと座った。

 タンブラーを取り上げると、幸子がすかさずビールを注ぐ。

 真冬でも公正がビールを好むことを覚えていたのだ。


 味付けが薄めでも、出汁(だし)をしっかりとった煮物や汁物。

 外食やコンビニ弁当に慣れた身体に、じんわりと温かくしみていく。



 今までずっと、こうして幸子とここで暮らしていた?


 公正が錯覚するほどに、なにもかも完璧で、居心地がよかった。



 幸子は相変わらず口数が少ないが、公正の不実を責めることもしない。



 この女は、こうだったのだ。

 いつまでも誠実に待っている女だったのだ。

 わかりにくいだけで。


 なかなかいじらしいじゃないか。

 



 それからずるずると、公正は自宅に居ついた。

 


 

 携帯電話には、瑠璃からしつこく着信があった。

 前から、仕事用の携帯電話が必要だとは思っていたので、これを機に、もう一つ買った。

 古い方は、電源を切って、机の引き出しにしまい込んだ。


 瑠璃がここまで来ることはないと、公正は確信していた。

 瑠璃のプライドが許すはずがない。




 仕事から帰ると、食べて入浴して、だらだらとテレビを見てから寝る。

 気が向けば、女房を抱く。


 体調は良く、仕事もはかどった。

 ぜいたくさえ言わなければ、十分恵まれた暮らしだった。


 なぜ、この気楽な暮らしを遠ざけていたのだろう?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ