公正1
日向公正にとって、生きていくことは、息をするように簡単なことだった。
公正がまだ幼いころ、公正の母親は病死した。
葬式を終えてまもなく、父親は彼を連れて、生家に戻った。
海外出張なども多く、男手一つで小さい子どもを育てるのが大変だったからだ。
祖父母は、公正を大変かわいがった。
公正の父親は、彼らにとって自慢の息子であった。
公正は、その息子の一人息子、たった一人の内孫だった。
他の孫は、外孫で、しかも女の子ばかりだった。
祖父母は公正を別格として扱い、ことあるごとに自慢した。
いわく、この子は体格がいい。よその子よりも背が高いし、丈夫だ。
おむつがとれるのも、話し始めるのも早かった。
一歳前から歩き始めて、運動神経もいい。
おじいちゃん、おばあちゃんと慕ってくれるし、言いつけをよく聞く賢い子だ。
学校に通うようになると、成績がいいと自慢した。
いつも百点ばっかり。
べつに、勉強ばかりしているわけじゃない。
いつ勉強しているのかと不思議なくらい、遊んでいるけどねえ。
それに、かけっこも速い。
ほんとうに、息子に似たんだねえ。息子の小さいころと、そっくりだよ。
背が高いのを生かして、四年生からバスケットボールも始めることにした。
試合の時には、必ず祖母が豪華な弁当を作った。
コート脇の、二人の年配者の熱烈な応援は、名物だった。
監督やコーチへの差し入れも抜かりなかったので、公正はすぐにレギュラーになった。
しかし、五年生の時に腰椎をいためて、やめてしまった。
激しいスポーツはできなくなったが、公正は成績優秀だった。
塾などに通わずとも、たいてい学年一位だった。
たまに二位になると、祖母が悔しがった。
高校も大学も、志望校に難なく合格した。
大学に入学する時、祖父母の家を出た。
法学部に入ったのなら、絶対司法試験に合格しなさいね。
祖父母には、口酸っぱく発破をかけられた。
大学では、勉強なんてしなかった。
やっと、祖父母から解放されたのだ。
今まで祖父母のために頑張ったのだから、ちょっとくらい休んでもいいはずだと、公正は思った。
コンパ。アルバイト。旅行。
そして女の子。




