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瑠璃10

 動きが止まった瑠璃の顔に、影が差した。

 照明をさえぎって、日向がのぞきこんでいた。


 逆光で表情が読めない。

 瑠璃はぞっとした。


 熱した金属に触れていたかのように、瑠璃は急に日向の手を振り払った。

 足元に脱ぎ捨てた服を取ろうと、あわててしゃがみかけた時。



 日向が、瑠璃の腕を取って、乱暴に引き上げた。


 思わずきっとにらんだ瑠璃は、貪婪(どんらん)に光る目を見て、息をのんだ。

 


(おく)したの?」

 優し気な口調。

 無邪気におもしろがっているような。


 日向の片手が、瑠璃の顔をがっちりとはさんだ。

 馬鹿にしないでよ、と答えようとして、しかし瑠璃の口からは声が出なかった。


「らしくもない」


 もう片手でワイシャツの首元をゆるめながら、日向はにっと笑った。


「恥をかかせるつもりは、ありませんよ。お義姉さん」


 丸腰の華奢(きゃしゃ)狩人(かりうど)に、獣は襲いかかった。





 深い関係になってしまえば、日向は優しい恋人だった。

 初めての時の恐ろしい印象は、たぶん瑠璃の気のせいだったのだろう。


 背徳の関係は、どこまでも甘美だった。


 日向が幸子と結婚してからも、それは続いた。



 あいつは、夫を満足させていないのだろう。

 きっとベッドの中でも、死んだマグロのように、お高くとまっているのだろう。



 それが証拠に、日向は頻繁(ひんぱん)に、瑠璃と会っていた。

 休日には必ずといっていいほど、一緒に食事に行ったり、ショッピングをしたり、ドライブしたりした。

 ベッドの中では、幸子の悪口を言いながら、痴戯(ちぎ)の限りを尽くした。




 瑠璃は、妊娠した。

 避妊していなかったから、しかたなかった。


 こんな時、男は豹変(ひょうへん)するというけれど。


 さすがの瑠璃も、告げるとなると、緊張した。

 だが日向は、意外なほど喜んでくれた。


「身体を大切にして、いい子を生んでくれ。…女の子が、いいな。

…しかし、さすがに、ぼくの子だと言うのは、まずいな」


 瑠璃は、うなずいた。

「わたし、家を出る。

あなたに負担はかけない。

あなたは、そばにいてくれるだけでいいの。

大丈夫。これでもいろいろ考えているんだから。

任せて」




 瑠璃はなんのかのと理由をつけて、父親にマンションを買ってもらい、実家を出た。

 父親の会社の役員手当てがあるから、生活も心配なかった。


 すぐに日向も、そこに入り浸るようになった。



 日向のパジャマ、日向のひげそり、日向の歯ブラシ。

 日向のスーツ、日向の普段着、日向のパソコン。


 日向のものがどんどん増えていく。



 愛の巣で、突き出てきたお腹を日向にさすらせながら、これが幸せなのねと、瑠璃はうっとりした。



 瑠璃が、勝ったのだ。

 

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