瑠璃9
意外なことに、狩りには、ひどく手こずった。
瑠璃にとって男なんてのは、熟しきった果物で、触れるか触れないかのうちに、たちまち落ちてくるものだった。
身もふたもない言い方をするならば、産道を遡上する精子さながら、我先にと瑠璃の身体に手を伸ばして来る、本能に支配された哀しい生き物だった。
日向は違った。
あらゆる機会をとらえては、あの手この手で誘惑してみるのだが、いつも軽くかわされた。
「ほらほら、お義姉さん、冗談もほどほどに」
廊下の、人目につかない隅に日向を引っ張り込んで、爪先立って首に抱きついたときも。
柔らかく腕をほどかれて、よろめいたところを、紳士的に支えられた。
瑠璃は、口をとがらせて抗議した。
「おねえさん、なんて言わないで。まだ結婚してないくせに。
それに、あなたの方が年上でしょ?」
「でも、すぐにそういうことになりますよ、お義姉さん」
「幸子のこと、愛してるの?」
「そうですね、結婚するくらいには」
「わたしのことは?」
「家族愛ですよ、お義姉さん」
大人の男なのだ。
瑠璃が今まで、知らなかった種類の。
何を考えているのか、全くわからない。
いつも余裕しゃくしゃくに、瑠璃をかわす。
女に興味ないのか、あるいは飽き飽きしているのか。
瑠璃のことが嫌いではないとは思うが、しかしそれは今後のつき合いも考えてのことかもしれない。
幸子のような、男に免疫がなくて、良妻賢母まっしぐらの女にしか興味がない?
そんな男、いるはずがない!
瑠璃は寝ても覚めても、日向のことばかり考えるようになった。
これで最後にしよう。
幸子と日向の結婚式を一週間後に控えた、夏の日。
瑠璃は、日向の勤め先の近くで、日向をつかまえた。
ホテルに引っ張り込むと、プライドも、汗で張り付いた衣服も、なにもかもかなぐり捨てて、男の手を取った。
その時、瑠璃は初めて、激しい羞恥に襲われた。
わたし、何をしているんだろう?
自分から、男に抱いてくれとせがむなんて?




