瑠璃8
あんな陰気な女、気に入られるわけがない。
瑠璃は応接室の方に耳を澄ませたが、離れているので、なにもわからない。
だからといって、様子をうかがいに行くなんて、絶対にしたくはなかった。
いつもは間違いなく瑠璃だけをかわいがっている父母が、突然幸子を愛娘扱いするなんて。
瑠璃には、裏切りでしかなかった。
今まで盤石と思っていた大地が、こんなにも脆く崩れやすいものだったとは。
自分の男性遍歴やバツイチだということを、瑠璃は今の今まで、自分の汚点だと思ったことはなかった。
むしろ、堂々と吹聴し、女の勲章とも思ってきた。
ママだって、堂々としていればいいのよ、と賛成してくれていたじゃない。
それなのに、いざという時に手のひらを返して、傷物扱いするなんて。
それとも本当は、前からずっと、「傷物」と思っていた?
瑠璃は、血のにじむほど、唇をかんだ。
ひなたー日向公正と幸子は婚約した。
足しげく影山家に来るようになった日向。
見かけるたびに、瑠璃はどうしても、この男が欲しくて仕方がなくなった。
あれはわたしの獲物。
横取りは、許さない。
仕事が早く終わった日や休日、日向は必ず訪ねてくる。
父母が歓待し、多少強引に夕食に誘うものだから、来たら家族と夕食を共にするのが習慣になった。
日向は幸子と並んで座り、食事を楽しみながら、結婚式や、結婚後の生活について父母と相談したりする。
瑠璃は、二人の向かい側で黙って食事をする。
あの無表情な幸子が、ほほを染めて恥ずかしそうに微笑んだりするのを見ると、テーブルの上のものをひっくり返して、叫びだしたくなる。
瑠璃はじっと耐えた。
おとなしく座り、マナーよく振る舞い、時々は祝福するように微笑んでみせたりもした。
今に見てろ。
その顔を、怒りと苦しみにゆがめさせてやる。




