瑠璃5
亭主関白の見本みたいな、わがままでいつもいばっている父親だけど、その実、妻子がいなければ、ただのさみしいおっさんなのだった。
「パパが、瑠璃に会えなくてさみしがってるわよ」
母親の電話が来る頃には、瑠璃も新婚生活に飽きていた。
自分で家事をするなんて、瑠璃には信じられなかった。
「家事なんて、手が荒れるし、爪が割れちゃうじゃない」
「服なんて、全部クリーニングに出せばいいでしょ?」
「今日は、どこに食べに行く? 仕出しでもとる?」
だんだん不満をつのらせていく夫の顔は、見るのもいやだった。
なぜこんな、貧乏でつまらない男と一緒になったのだろう。
そういえばあの時は、生理前でイライラしていたっけ。
母親の提案に、瑠璃はしぶしぶ従うふりをして、とびついた。
新婚ほやほやの若い夫をつれて、瑠璃は実家に戻って来た。
なりゆきで夫になった若者は、最初は三食昼寝付きの暮らしを楽しんでいた。
しかし何が気に食わなかったのか、半年もたたないうちに、離婚届を置いて出て行った。
瑠璃の母親は、水商売の経験があったせいか、昭和の男の扱いに長けていた。
家の中ではぞんざいな態度でも、一歩外に出たら、かいがいしく夫を立てた。
いつも夫の斜め後ろに立って、それとなく夫をサポートした。
沸点の低い夫が爆発して、怒鳴り散らした時は。
それとなくその場から夫を連れ出して、クールダウンさせた。
時と共にだんだん元気がなくなってきたころを見計らって、元のさやに誘導した。
先妻は、育ちのいい、楚々とした美人だったそうだ。
父親はその妻を、新婚早々から煙たがって、つきあいの長い瑠璃の母親のところに入り浸った。
だから、瑠璃の母親の評判は、決してよくなかった。
よくなかったが、母親は冷たい視線の中で、奮闘していた。
仕事の顔つなぎのために、いろんな場所に顔を出していた。
しかし、子育てまでは気が回らなかった。
瑠璃は、物質的には、何不自由なく育った。
しかし、親身になってくれる大人がいなかった。
自分が強くなるしかなかった。




