44話 決め手はやっぱり健康です!
前回のあらすじ
植物の健康に悪い戦法でクインが勝った。
突如町に現れた大樹の魔物、エルダートレント。
私たちを侵略者と呼び排除しようとしてきたが、クインの活躍によって制圧。
こうしておとなしくなった彼から、私たちは事情を聞こうとしていた。
「まず、あなたはどうやってここに現れたの?」
エルダートレントはいつの間にかこの林にそびえ立っていた。
木の魔物だし、根が足になって歩いても特に不思議じゃない。
だけど、こんな大きな魔物が歩いてきたらいくら何でもその時点で気づかないはずがない。
『……それを説明するには、ワシの昔話を聞かせねばならんな……』
エルダートレントは、弱ったおじいちゃんのような声で語り始める。
『昔……この一帯は……ワシが支配する大森林だった』
「だ、大森林?」
びっくりして思わずアンナちゃんを見る。
「本当なの?」
「いや、聞いたことがないな」
うん、そうだよね。
そもそもグリーンソイルを使うまでは雑草すら全然生えない土地だったし。
エルダートレントの話は続く。
『ワシは眷属であるトレントたちとともに平和に暮らしておった。だがある日……瘴気がこの土地を襲ったのだ』
「瘴気?」
たしか数千年前、魔王領で発生した毒のことだ。
そのせいで、今の荒れ果てた土地になったんだっけ。
『……多少ならワシの力で浄化できる。しかし、発生した瘴気は恐ろしく濃く、どうしようもなかった。森は枯れ果て、眷属であるトレントも次々と朽ちていった』
「そのどうしようもない気持ち……わかるわねぇ」
「クイン……」
クインの表情が曇る。
そうだよね。
クインも瘴気に汚染されて、長い間ヘドロスライムになってたから……。
『そして追い詰められたワシは……最後の手段として、体を捨てることを決めたのだ』
「体を……捨てる?」
『そうだ。大樹としての体を捨て、自らを種子に変えたのだ。そして、地中深くで眠りについた。いつか瘴気の汚染が消え、大地が蘇ったとき復活するためにな』
「じゃあ、あなたは数千年も地下で眠ってたの?」
『時間の感覚は分からなかったが……数千年か。まさか、そんなに時が経っていようとはな』
エルダートレントが遠い目をする。
数千年も眠ってたってわかればそうもなるよね。
「そうなると……ここは本当にお前が支配していた土地だったんだな。トレントは縄張り意識が強い。アタシたちを侵略者と呼んでいた理由もわかるな」
アンナちゃんが納得した表情で言う。
「しかし……体を捨て種子になっていたということは、相当な力を失っていたはずだ。その状態でどうやって大樹として復活できたんだ?」
『……それは、ワシにもわからぬ』
「は?」
エルダートレントの曖昧な答えに、アンナちゃんは首をかしげる。
『少し前からだ。地中にいたワシに膨大な栄養が送られてきたのだ。しかも定期的にな。その栄養を取り込み……ワシは大樹として復活することが出来たのだ』
「膨大な……栄養……」
それを聞き、その場にいたみんなが一斉に私を見た。
うん、これって完全にグリーンソイルのスキルの効果だよね。
「あはは……もしかして、私のせい?」
『……お主のせいだと? そういえば気になっておったが、なぜ魔王領に人間がいる? しかもそこのスライムはお主を主と呼んでいたな。どういう事だ?』
「えっと……実は……」
私はこれまでの経緯をざっくりと説明する。
すると、エルダートレントは心底驚いた表情をする。
『人間が四天王……だと? この時代の魔王は何を考えておるのだ?』
「私に聞かれても……」
『……だが、土地を浄化し、ワシを復活させるだけの栄養を送る力を持っておるのだ。嘘ではなさそうだな。いや、それよりも……ワシは恩を仇で返すところだったのか……。一生の不覚だ……』
エルダートレントがしょんぼりした顔をする。
もしかしてさっきは頭に血が上ってただけで、本当はいい魔物なのかな?
『お主……クリアと言ったな』
「う、うん」
『そのグリーンソイルとやらをワシの根元に撒いてくれんか?』
「え?」
『先ほどそこのスライムが指摘したとおりだ。復活こそしたが、今のワシは栄養が足りず、本来の力を発揮できん……』
そっか、グリーンソイルを撒いたのは昨日だから、もう効果が切れてるんだね。
『……ワシは大地を癒し、自然を取り戻す力を持っておる。その力で、この土地を昔のように自然豊かな場所へと戻したいのだ。そのためには、本来の力を取り戻す必要がある……。無礼を承知で頼む。どうかワシを完全に復活させてくれ。もし願いを聞き届けてくれるのなら、ワシはお主に仕えると約束しよう』
「わ、私に仕える!?」
大地を癒すなんて、そんなすごい魔物が私に仕えるなんていいのかな?
いや、でも本当に自然を取り戻す力があるなら願ってもない話だ。
私のグリーンソイルが無くても作物を育てられるようになるかもしれない。
そうすれば、もし私がいなくなってもみんなは健康的に生活できる。
「わかった! じゃあ……」
「まてクリア、アタシは反対だ」
「え?」
承諾しようとした私を、アンナちゃんが引き留める。
「こいつが信用できるかわからない。万が一裏切られたら、今度こそアタシたちが全滅するかもしれないぞ」
「そうねぇ。本来エルダートレントは枝や根を伸ばすだけじゃなくて、土魔法を自在に操る力も持っているから……。もし本気でこられたら、私ちょっとまずいかもねぇ」
アンナちゃんの言葉を聞き、クインも反対寄りの意見を出す。
「たしかに、ウラぎられたらコワいな」
「……でも、見捨てるのもどうかとオモウ」
「まあ、嬢ちゃんに任せるぜ」
ゴブ郎、プー吉、バルガスさんは私に任せる判断のようだ。
「うーん……」
確かに、裏切られたら取り返しがつかないかもしれない。
でも――。
「決めた! 私はエルダートレントを助けようと思う!」
「……それは何故だ?」
アンナちゃんの問いに、私ははっきりと答える。
「だって、栄養不足なんて不健康な状態を見過ごすなんてできないからね!」
「「「「「…………ぷっ」」」」」
私の出した答えを聞き、みんなが噴き出す。
「……随分とお前らしい決断だな」
「さすがクリア様、ブレないわね~」
「決め手が健康、クリア様ラシイ」
「……オイラ、賛成」
「ガハハ! そういう事なら俺は文句ねぇぜ!」
「あはははは……」
褒められてるのかな?
まあいいや。
みんなの意見がまとまったところで、エルダートレントに歩み寄る。
「よし、行くよ! グリーンソイル発動!」
手元にグリーンソイルの袋を出現させる。
『どうか頼むぞ……』
「うん! それ、枯れ木に花を~……じゃなくて、大樹に力を戻しましょう~! そーれ!」
エルダートレントの根元にグリーンソイルの粉を一気に振りまく。
その瞬間――。
『ウォォォォォォォ!!』
エルダートレントが唸りを上げ、淡い光に包まれていく。
すると、その根元から周囲の土へと光が広がり、大地に小さな芽が次々と顔を出し始めた。
「わぁ……!」
小さな芽はみるみると成長し、綺麗な花が次々と咲いていく。
そして、林の中は色とりどりの花で埋め尽くされた。
「これは……すごいな」
「お花なんて、久々に見たわねぇ」
アンナちゃんとクインもその光景に感動する。
『礼を言うぞ……。今はまだこの程度だが、少しずつ大地に自然を取り戻していくと約束しよう』
「うん、ありがとう!」
『そして……』
花々が咲き誇る林の中で、エルダートレントの根元が再び淡く輝き始める。
すると、太い根の一部がゆっくりと盛り上がり、徐々に人の形を作り始める。
「これって……?」
そして形作られたのは、茶色い髪と、茶色いひげを蓄えたきりっとしたお爺さんの姿だった。
けれど、全部が人間じゃない。
顔や首、胴体は白い肌で覆われている。
だけど、腕や足へ伸びていくにつれて、肌が木で覆われていく。
手足の先は、完全に木そのものになっていた。
お爺さんは足元を確かめるように一歩踏み出すと、私たちの前までゆっくりと歩いてくる。
「えっと……あなたって……」
すると、私のまえでひざまずいた。
「エルダートレントです、我が主よ。この生涯をかけて、あなたに仕えることをこの場で誓います」
「ええーー!?!?!?」
こうして私はまた、心強い仲間を手に入れたのだった。
ちなみに……。
「……これで四天王クラス、二人目か……」
「面白くなってきたわねぇ♪」
というアンナちゃんとクインの呟きは、私に聞こえてないのであった。




