38話 最初の取引と変な奴隷!
前回のあらすじ
D・E商会と健康的な契約をした
ロリーバさんと契約してから十日後。
私たちは健康に暮らすのはもちろん、取引に使う食料の備蓄を進めていた。
ほかにも干し肉とかの保存食を作ったりもしてる。
取引に使うんだからちゃんと保存が効くものにしないとね。
「クリア様~。町の広場に商隊の方々が来ましたよ~」
「わかった、すぐ行くね!」
ゾヴィ夫人に呼ばれ、スラちゃんとアンナちゃんを連れて広場へ向かう。
すると、石材などの資材を積んだ商隊の荷馬車がたくさん止まっていた。
すでに領民のみんなとクインも集まっている。
「ギギギ、あれナンダ?」
「……外から来たヤツら?」
「クリア様、先日契約したというD・E商会の人たちでしょうか?」
ゴブ郎、プー吉、ゾビ夫さんのリーダー三人組がそう聞いてくる。
「うん、多分そうだよ」
馬車に乗ってきた商隊の人たちは、皆ダークエルフだ。
十中八九間違いない。
「それにしても、あの馬はなんだろう?」
馬車に繋がれているのはただの馬じゃない。
普通の馬よりも二回りは大きい漆黒の体。
首から上がなく、首の付け根からは青白い炎と霧が立ち上っている。
うん、なんかすごくかっこいい。
「あれは『ファントム・コーサー』という幽霊馬だな」
アンナちゃんが教えてくれる。
「強いの?」
「ああ、かなり上位の魔物だ。あいつが馬車を引いていれば、魔王領に住む大半の魔物は近づいてこないだろうな」
「す、すごいね」
さすが魔王領一の商会。
そんなふうに驚いていると。
「クックック。久しぶりじゃな小娘ども」
そう言いながらロリーバさんが馬車から降りてくる。
「ロリーバさんいらっしゃい! こんなかっこいい馬を連れてるなんてすごいね!」
「どうじゃ、驚いたじゃろう? ワシの死霊魔法で使役しておるのじゃ」
「え、死霊魔法?」
それってアンデッドを操る魔法のことだよね?
ということは……。
「ロリーバさんって、実は強いの?」
「魔王領という過酷な土地で商売しておるのじゃぞ。弱いわけがなかろう」
「実際ファントム・コーサーを操るほどだ。かなり高等な死霊魔法の使い手だな」
「クックック。もっと褒めるがいい」
ロリーバさんがドヤ顔しているのは置いといて、早速商談に入る。
まずは商会が持ってきた資材のチェック。
石材やその他備品。
そして——。
「これが丈夫な木の苗木じゃ」
鉢植えに入った、家や家具によく使われる丈夫な木の苗木。
「しかし、本当にこれで良いのか?」
「大丈夫、一日あれば育つから」
実際りんごの種を植えたところ一日で木が生えたので大丈夫だと思う。
「本当にお主のスキルは規格外じゃのう。四天王でなければ鎖で縛ってでもうちの商会に拉致……ではなくて、スカウトしていたのじゃが……」
「遠慮しておきます」
不穏な言葉が聞こえたので即断っておく。
次は領民のみんなに取引に使う食料を持ってきてもらい、ダンさんが種類と個数をチェック。
ガリンプ部隊には氷魔法を使える子もいるので、肉を凍らせて腐らないようにしてから馬車へ乗せる。
クインとスライムたちには、樽に入れた澄んだ川の水を運んでもらい、エルさんが量をチェックしていく。
「実際どれくらいの値段になるかな?」
「ワシの計算では相当高く売れるぞ。かなりの儲けが出るじゃろうな。クックック」
「町に売る資材は相場の半額だぞ」
「わかっとるわ!」
アンナちゃんがしっかりクギを刺す。
実際半額の取引で儲けが出るのかなと思ったけど、それ以上に高く売るから大丈夫だと言っていた。
まあ、商売のことはよくわからないし、そこはロリーバさんの采配に任せよう。
その後チェックが終わり、みんなで食料と水を荷馬車に運び込んでいく。
「こちら差額じゃ。受け取れ」
ロリーバさんがそう言って、金貨の入った袋を私に渡す。
「これって……お金?」
「……何で疑問形なんじゃ?」
「見たことなかったから」
「……お主、本当にこの町の領主か?」
いや、仕方ないじゃん。
私この世界の住人じゃないし。
そもそも領地を経営するのに、お金も渡さず送り出した魔王様が悪いって。
「これで今回の取引は完了じゃな」
「うん、ありがとう」
「いや待て、町を立て直すための人材はどうした?」
「あ」
すっかり忘れてた。
人手がないと町を立て直せない。
「おお、そうじゃったな。あそこじゃ」
そう言って、ロリーバさんが荷台を大きな布で覆った馬車を指差す。
「あの馬車の荷台は檻になっておる。中におるぞ」
「え、なんで檻に入れてあるの?」
「奴隷じゃからな」
「奴隷!?」
異世界だし奴隷制度があっても不思議じゃないけど……。
まさかこの目で奴隷を見る日が来るなんて。
「一応聞くけど、合法的な奴隷なんだよね?」
「いや、戦争中に捕まえた、人間の国の兵士じゃ」
「完全に非合法じゃん!」
そういえば私も、アンナちゃんに捕まった時奴隷にされそうだったっけ……。
「なにが不服なんじゃ? 元兵士じゃから体力はあるぞ」
「いや、倫理的に抵抗感があるというか……」
「まあ、扱いに困る売れ残った問題児たちなんじゃがな」
「そんなの絶対従わせられないよ!」
私そういうのは無理だから!
「確かに、お前には向かないな。だが安心しろ。奴隷ならアタシが従えてやる」
アンナちゃんはそう言って、魔法の鞭を構える。
「反抗的な奴隷どもを魔王軍のため、馬車馬のように働きたくなるよう痛めつけ……いや、調教してやろう」
「アンナちゃん、サキュバスだからって無理に女王様っぽく言わなくていいから」
「うるさい」
アンナちゃんが荷馬車の中に入っていく。
そして数分後――。
「だから何度言ったらわかるんだー!! 早く俺たちを魔王軍のため馬車馬のように働かせろっつってるだろがー!!」
「抵抗しろーー!!」
あれ、なんかおかしなことになってる。
「お前ら敵だろう!? なんでそんな協力的なんだ! 胡散臭いにもほどがあるぞ!」
「わかった! そこまで言うなら俺たちの専門技術を惜しみなく使ってやる! それで文句ないだろう!?」
「抵抗しろー!」
よくわからないけど、完全に予想してた流れと逆になっている。
「ロリーバさん、全然反抗的じゃないよ。むしろめちゃくちゃ協力的だよ」
「……だからこそ、逆に気味が悪くて買い手がつかんのじゃ」
「……なるほど」
そうこうしてるうちに、アンナちゃんが疲れた様子で戻ってくる。
「何なんだあいつらは……」
「せっかく格好つけたのに玉砕だったね」
「うるさい!」
でも理由はどうであれ、働いてくれるならなにも問題ないんじゃないかな?
「今度は私が話してみてもいい?」
「良いぞ。ただ危険じゃから、あまり檻には近付かんようにな」
「何かあったらスラちゃんが守ってくれるから大丈夫だよ。ね、スラちゃん?」
『……!』
スラちゃんが「任せて!」と言いたげに頭の上でポヨンと跳ねる。
「よし、じゃあ行ってくるね」
檻のある荷馬車へと歩いていく。
「えっと、こんにちはー」
恐る恐る声をかけながら荷馬車に入る。
「今度は誰だ? ようやく働かせてくれるのか?」
「……え?」
中にいたのは、背の小さな男の人たちだった。
大きな鼻に、立派なひげ。
そして筋肉質な体。
「……もしかしてドワーフ?」
「そうだ、俺たちはドワーフの職人だ」
「やっぱり!」
ファンタジーでよく見るドワーフそのものだった。
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