37話 契約完了! D・E商会!
前回のあらすじ
ろりばば……ロリーバさんが健康的料理に屈した。
「ま、満足じゃ~……」
「こんなおいしい食事は初めてでした」
「今日、ここに来られた幸運に感謝します」
ゾヴィ夫人が作った料理に舌鼓を打ったD・E商会の三人。
ダークエルフ特有の整った顔立ちがすっかり緩んでへにゃっとなっていた。
「いや~、美味しく食べてくれて感謝だわ~」
「ゾヴィ夫人と言ったな。お主、うちの商会に来る気はないか?」
「ちょっと、勝手に勧誘しないでよ!」
町に必要な人材を勝手に連れて行かれたらたまったものじゃない。
とりあえずゾヴィ夫人を部屋の外に出す。
「コホンッ! さて、先程は少し取り乱したが……」
さっきまでの醜態を無かったことにしてロリーバさんが話を進める。
「ワシらが食べたあの料理はなんじゃ?」
「何って、ゾヴィ夫人が豪勢にしたけど、普通の料理だよ」
「あれのどこが普通なのじゃ!」
ロリーバさんが机をバンッ! と叩きながら叫ぶ。
「あのステーキはなんじゃ!? あんな濃厚でとろけるような味わいの肉、食べたことないぞ!」
まあ、ゾンビ肉はとろけるというよりドロドロしてそうだしね。
「あのサラダもなんじゃ!? 野菜といえば青臭くて硬いものだと相場が決まっておるだろう! なぜこんなに瑞々しくて、噛むたびに爽やかな風味が広がるのじゃ!?」
まあ、萎びた野菜と比べたらそうなるだろうね。
「あのコーンスープとやらもなんじゃ!? 濃厚でトロトロしておる上に、甘みがあって全くしつこくない! どうやったらあんなスープが作れるのじゃ!」
まあ、コーンと新鮮な水、あと牛乳のおかげかな。
「あの……ロリーバさん」
「ハァ……ハァ……なんじゃ?」
「そんな律儀にツッコまなくていいよ」
「ツッコまざるを得ないんじゃーー!!」
ロリーバさんが息切れしながら机に突っ伏す。
(アンナちゃん。『健康第一』の事、話していいかな?)
私だって、自分のスキルが異常だってことくらいはわかってる。
だから、外から来たロリーバさんたちへ気軽に伝えていいのかわからない。
(構わない。これから取引する間柄になる以上、遅かれ早かれだ。それに、お前は一応魔王軍最高幹部の四天王だからな。迂闊に手は出せないだろう)
(な、なるほど)
権力って素晴らしいね。
というわけでロリーバさん、護衛のダンさんとエルさんに私のスキルと、この町でやってきたことをかいつまんで話す。
「……というわけなんだけど」
「……ふむ、なるほどのう。よく分かった。って信じられるかーー!!」
「えー!?」
真剣な顔で真面目に説明したのに!?
「百歩譲って水や空気、土を浄化するのは分かる! 強力な光魔法を操るものなら可能じゃからな! じゃが、食材を新鮮にするのはまだしも、ゾンビを新鮮に生まれ変わらせるとはなんじゃ!? そんなのあり得んぞ!」
「まあ、気持ちはよーく分かる」
アンナちゃんまで首を大きく縦に振る。
「だが本当だ。試しに、外のオークゾンビを生まれ変わらせてみよう」
「なんじゃと?」
「え?」
勝手に話が進んでる!?
「お前ならできるだろう? どのみち、ゾンビのままじゃ扱いに困るだろう」
「まあ、そうだけどね」
というわけで一旦屋敷の外に出て、檻にいるオークゾンビにヘルシークッキングの包丁をぷすっと刺す。
すると、淡い光がオークゾンビを包み、灰色の肌は緑色へと変わり、ところどころ腐り落ちていた肉も戻っていく。
『ブモォォォォォ!!』
最終的に、ゾンビとは思えないほど生き生きとしたオークの姿へと戻った。
「どう?」
「どう? じゃないわ! ま、まさか本当に……。単純に生き返ったわけではないんじゃな?」
「多分。再生能力は失ってないと思うし」
「ゾンビの特性を残したまま生まれ変わったというのか……。あ、ありえん。一体どんな魔法じゃ……」
頭を抱えてうなり始めるロリーバさんを連れて、ひとまず食堂に戻る。
「つまり、お主がいればいくらでも新鮮な食料を取り放題、育て放題という事か?」
「いやー、すごいよね」
「すごいの一言で済ますな!」
ロリーバさんは呆れながらも、突如笑みを浮かべ始める。
「クックック。やはりワシのカンは正しかったようじゃな。おい、小娘!」
「な、なに?」
ロリーバさんはギラギラとした目を私に向けてくる。
「お主……いや、この町の食料と水を、D・E商会で独占販売させてくれんか!?」
「ど、独占販売?」
「そうじゃ。この町で作った食料と水をワシらが買い取り、各地へ売りさばく。どうじゃ、悪い条件ではないじゃろう?」
ロリーバさんが大袈裟に両手を広げて交渉してくる。
もう完全に商人の眼だ。
「販売や流通もワシらD・E商会がすべて担当しよう。おぬしらは難しいことを考えず、ただ食料と湧き出る水を売ってくれればいい。簡単じゃろう?」
「うーん……」
確かに、商売に関係することは全然わからない。
こういうのは専門家に任せたほうがいいかもしれない。
(アンナちゃん、どうしよう?)
(独占というところが気になるな。だが、辺境にあるこの町が魔王領一の商会と繋がれるのはメリットが大きい。クリア、この町の領主はお前だ。お前が決めろ)
(わ、わかった)
少し考えた末、私は結論を出す。
「ロリーバさん、分かった。D・E商会と独占契約するよ!」
「おお! そうかそうか!」
「ただし、条件があるよ」
「条件じゃと? なんじゃ、言ってみよ」
「それは……ロリーバさんが健康的な生活を送ること!」
「……け、健康的な生活?」
ロリーバさんがキョトンとした顔をする。
「それを約束してくれるなら契約するよ」
「ふむ……そんなことでいいなら、まあいいじゃろう。ダン! 契約書を用意せよ!」
「かしこまりました」
ダンさんがどこから出したのか、契約書を私たちの前に出す。
「ここに先ほどの内容を記してくれ」
「うん、わかった」
契約書に、「この町の資源や商品は、すべてD・E商会に独占販売する」と書いて、サインする。
「ふむふむ。問題ない。では、ワシもサインしようかのう」
「ちゃんと健康的に生活するって内容を書いてね」
「わかっておる」
「提供する品物は、すべて相場の半額という内容も書くんだぞ」
「うぐ……!?」
アンナちゃんにそう言われ、ロリーバさんがうなる。
忘れててほしかったんだろうなー。
渋々と言った様子で、ロリーバさんは契約書にサインする。
「これで契約は完了じゃ。これからよろしく頼むぞ」
「よろしくねロリーバさん」
契約完了を祝して、お互いに握手する。
「では、早速取引と行こうかのう」
「えっと、何が必要なんだっけ?」
「町を建て直すための石材や木材だな。あとはそうだな……」
ロリーバさんと取引の内容を、アンナちゃんと一緒に詳しく話し合っていく。
「ふむふむ、なるほどのう。以上でよいか?」
「いや、もう一つある。人材が欲しい」
「人材じゃと?」
「ああ。今この町にいる領民は皆、食料生産で精一杯だ。町を立て直すための人材が欲しい」
アンナちゃんの言うとおりだ。
資材があっても人手がないと町を立て直せない。
「ふむ……なるほどのう。わかった。それならワシらで用意しよう」
「ありがとうロリーバさん」
「礼はいらぬ。この町が発展し、より食料が生産できるようになれば商会の利益にもなるからのう」
こうして商談は無事終わった。
その後、ロリーバさんたちは資材をこの町へ運ぶ手配をするため、一旦商会の本部へ戻ることになる。
「では、また来るからのう」
「あ、そうだ。これ持って帰って」
屋敷に備蓄していた新鮮な野菜と肉を木箱詰め、水を樽に入れてロリーバさんたちに渡す。
健康的な生活を送るのに必要だもんね。
「おお、すまないのう!」
「ちゃんとバランスよく食べてね」
「わかっておるわ。よし、帰るぞ!」
ロリーバさんたちはそのまま、オークを連れて帰ろうとする。
「まて、そいつは置いてけ」
「チッ……バレたか」
結局オークを置いて、ロリーバさんたちは今度こそ帰っていった。
「全く、油断も隙もない奴だ」
「次に来るのはいつって言ってたっけ?」
「一、二週間後と言ってたな。それまでに食料の備蓄をさらに進めないとな。これから忙しくなるぞ」
「うん、よーし、頑張るぞー!」
気合を入れたところで、まず初めの仕事はロリーバさんが置いていったオークの実食だった。
「ほ、本当に食べなきゃダメ?」
「自分のスキルを信じろ」
焼いたオークの肉を恐る恐るかじる。
「モグモグ…………あ、これって」
完全に豚肉の味だった。
会話だけで進むシーンが一番苦手な気がする私。




