36話 ロリーバさん、料理の前に屈する!
前回のあらすじ
ロリババァが不健康なゾンビを押し付けてきた
馬車の檻の中に入っているのは、身長三メートルはある巨大なオークゾンビ。
二本足で立つ、灰色の肌をした豚の化物。
メタゴブ部隊にも負けないほど肥え太ったお腹からは、腸のようなものがだらりとはみ出している。
「クックック。どうだ、驚いたじゃろう! 我がD・E商会が十年かけて作り出した、一トンの体重を持つ極上熟成オークゾンビじゃ!」
ロリーバさんがドヤ顔しながら紹介する。
「本来、オークは筋肉質で肉が硬く、とても食べられたものではない。じゃが、十年の歳月をかけ丁寧に肥育すれば肉も柔らかくなり、脂も乗る」
なるほど、凄い手間をかけて育てたんだね。
「そして最後にゾンビ化することにより、切り取った肉が再生する、いくら食べても無くならない最高のオーク肉を作ることに成功したのじゃ!」
ふむふむ、そうやってこのオークゾンビが作られたんだね。
「ロリーバさん、一ついいかな?」
「いや、じゃからワシの名前は……ああ、もういい。なんじゃ?」
「なんでそこまで育てて最後ゾンビにしちゃうの?」
家畜を肥育で太らせるのは問題ないんだよ。
でも、ゾンビにしたら意味ないじゃん!
不健康的だし、何より腐っちゃったら美味しく育てた肉が台無しじゃん!
「何を言っとるのじゃ。再生しなかったら手間暇かけて育てた肉があっという間に無くなるじゃろうが」
「だからって色々犠牲にしすぎだよ!」
ロリーバさんは言ってる意味がわからないという顔で私を見ている。
(アンナちゃん……。魔王領ってこれが普通なの?)
(なにせ大半の土地が荒廃してるからな。まともな食材が手に入らない中で、ゾンビの肉は何回食べても無くならない理想的な食料だ)
そう言われると便利な気もするけど……。
領民のみんなもゾンビ肉を食べて生活してたみたいだし……。
でも、やっぱり健康的には許容できないな。
(……因みに、あのオークゾンビって実際貴重なの?)
(……あれほど肥えて脂の乗ったものは見たことない。売れば町一つの値段になるだろうな)
(そこまで!?)
(魔王領の土地では、家畜を太らせるのも大変だからな)
(な、なるほど……。)
でも、こんなのもらったところでなー。
ていうかロリーバさん、すごくお金持ちっぽいのにゾンビ肉で満足してるなんて……。
なんだろう……ちょっと涙出てきた。
「そうかそうか、泣くほど嬉しいか」
「違うから!」
そんなやり取りをしていると、ゾヴィ夫人が屋敷からやってきた。
「クリア様~。お昼ご飯が出来ましたよ~」
「あ、もうそんな時間?」
そういえば、ロリーバさんたちは遠くからわざわざ来てくれたんだよね。
それなのにまだおもてなしもしていなかった。
「お客さんがいるから今日は豪勢にしたわよ~」
「ゾヴィ夫人ナイスだよ! じゃあみんな、お昼ご飯にしよう!」
「おい、どうせならオークゾンビの肉を使った料理を――」
「それはいいです」
ロリーバさんの勧めを蹴って、みんなで食堂に移動する。
「ふ、ワシはこう見えてグルメじゃ。魔王領のあらゆる料理を食べてきた。そのワシを料理でもてなすとは、なかなか自信があるようじゃのう?」
ロリーバさんが挑戦的な顔をする。
いや、そんなつもりじゃないんだけどな。
そう思っていると――。
「なら、ひとつ勝負をしないか?」
アンナちゃんが不敵な笑みを浮かべながら言う。
あれ、何か始まろうとしてる?
「ほう、勝負とはなんじゃ?」
「この町は今、立て直すための資材が圧倒的に不足している。もし、これから出される料理がお前の舌をうならせるほど美味かったら、好条件で取引してほしい」
「クックック、面白いではないか。いいじゃろう。ただし、不味かったらワシに有利な条件で取引させてもらうぞ」
「ああ、それで構わない」
なんか勝手に話をまとめられた。
(そんなこと言っていいのアンナちゃん?)
(ここが勝負所だろう。大丈夫だ。何も問題はない)
本当に大丈夫かなぁ?
「ふ、面白い。じゃが、こんな辺境の土地にワシの舌をうならせるほどの料理があるとは思え――」
数分後。
「な、なんじゃこれは―!?」
出されたサーロインステーキ、フルーツサラダ、コーンポタージュスープを見ただけで、ロリーバさんが叫び散らかす。
うん、本当に大丈夫だった。
よく考えたらグルメとはいえ、普段からゾンビ肉を食べてる人たちだもんね。
「なんじゃこの新鮮で彩り豊かな食材たちは……!?」
「肉からは腐臭がしませんね。まさか、ゾンビ肉ではないのですか……!?」
「スープからは湯気と共に濃厚な香りが漂ってきます。一体これは……!?」
ロリーバさんだけでなく、ダンさんとエルさんも目を丸くして驚いている。
「ほら、さっさと食べてみたらどうだ?」
「そ、そうじゃな。大事なのは味じゃ」
ロリーバさんがステーキを一切れ口に入れる。
すると――。
「~~~~!!??」
言葉にならない声を上げ、幸せいっぱいの表情になる。
「こ、こんな濃厚な肉汁と、柔らかくも程よい噛み応えのある肉は食べたことがない……!」
「このサラダも甘くてシャキシャキしていて、とても美味しいです!」
「このスープ、とても濃厚で甘い味わいが口いっぱいに広がっていきます……!」
三人とも、感動しながら料理を味わっている。
そこで、アンナちゃんの眼が怪しく光る。
「随分ご満悦だな。どうやら、勝負はあたしたちの勝ちみたいだな?」
「む……そ、それは……どうじゃろうなぁ?」
ロリーバさんが顔を背けながら答える。
どうやら認める気がないらしい。
「そうか、なら仕方ないな」
アンナちゃんがそう言いながら、ロリーバさんのステーキ皿を取り上げる。
「な、何をするのじゃ! まだ一口しか……!」
「口に合わなかったんだろう? なら、もういらないよな?」
「そ、それとこれとは話が別じゃ!」
ロリーバさんが慌てて立ち上がり、取り上げられたステーキ皿へ手を伸ばす。
「腹が減ってるんじゃ! もっと食わせてくれ!」
「外に置いてあるオークゾンビを食べればいいだろう?」
「た、頼む……あと一口だけでも……!」
「ダメだ」
アンナちゃんが、ステーキ皿を取り戻そうとするロリーバさんの顔を片手でむぎゅっと抑える。
「そんなにこれが食べたいのなら、負けを認めるんだな」
アンナちゃんが心底楽しそうな顔をしている。
いやぁ……性格悪いなぁ。
「ぐぬぬ……わ、分かった。ワシの負けじゃ! 資材を相場の二割引きで提供しよう!」
「肉がいらないようだな」
「……三割でどうじゃ?」
「少ない」
「…………四割……いや、半額でどうじゃーー!!」
「契約成立だな」
「ぐぬぬ……!!」
ロリーバさんは床に突っ伏し、とうとう屈したのだった。




