26話 夢の牛爆誕! ゾンビーフ!
前回のあらすじ。
牛も不健康だった。
牛がいると聞いて町はずれの牧場に来た私たち。
そこにいたのは、牛は牛でもゾンビだった。
「もうだめだぁ……おしまいだぁ……」
「ぷぷっ。残念だったわねクリア様」
クインがおかしそうに笑っている。
いや、本気で笑い事じゃないからね?
「そんなに気を落とすな。これくらいのオチは想像できただろう?」
「……アンナちゃんはわかってたの?」
「まあ、お前が想像しているような牛がいないことくらいはな」
「だったら早く教えてよ!」
「お前が期待しまくってるから言いにくかったんだ!」
「う……!?」
それを言われたら何にも言えない。
とりあえずゆっくり立ち上がり、深呼吸して自分を落ち着かせる。
「すぅー、はぁー。よし、もう大丈夫」
「それで、お前が期待してる牛じゃなかったがどうするんだ?」
「うーん……どうしよう」
ゾンビの牛じゃ牛乳なんて採れるわけがない。
もうそこはあきらめるしかない。
「それにしても……」
改めて牧場を見渡してみる。
古びた柵で覆われているけれど、それだけ。
牛が入る畜舎もなければ、豊富な草が生えてるわけでもない。
ゾンビの牛は数少ない枯草を細々と食べている。
「……よくあれで生きていられるね」
『元々死んでるからね~』
「……じゃあ、なんで草を食べてるの?」
『習性じゃないかしら~?』
「あ、そう……」
そもそもゾンビって、死んでるのになんで意志を持って動けるんだろう?
体は死んでるけど、魂は生きているとか?
……まあそれはどうでもいいか。
「仕方ないね、帰ろうか」
『クリア様、せっかくここまで来たんだから牛肉をちょっともらっていかない〜?』
「いや、ゾンビのはちょっと……」
『好き嫌いはダメよ〜』
「だからそういう問題じゃないんだって!」
でも、肉を食べないと貴重なタンパク源が〜……。
「まあ……我慢するしかないよね」
ヘルシークッキングで調理すれば新鮮な牛肉に変わるし……。
「……あれ?」
「どうしたクリア?」
「ゾンビって……死んでるんだよね?」
私はそう言って、ゾンビ牛の一頭を見る。
「それがどうかしたのか?」
「この子をヘルシークッキングで調理したらどうなるのかなって」
「はぁ?」
アンナちゃんが「何言ってんだこいつ?」みたいな目で見てくる。
いや、我ながら結構ナイスアイデアだと思うよ?
「早速試してみよう!」
「本気でやるのか?」
「もちろん! 出でよフライパーン!」
手の中にフライパンを出現させる。
「よし、じゃあこれでゾンビ牛を――」
「……そのサイズでどうやって焼くんだ?」
「あ……」
確かに普通のサイズじゃ牛一頭を焼くなんて無理だ。
「だったら大きなフライパンを出せばいいんだよ! えーい!」
今度はなるべく大きいのをイメージ。
湖を浄化したときみたいに気合を入れてスキルを発動する。
すると――。
ドォーーーーン!!
「でか!?」
「でっかいわねぇ」
目の前に現れたのは、数メートルはありそうな、とんでもなく巨大なフライパンだった。
「これなら焼けるね!」
「……どうやって牛を中に入れるんだ?」
「……あ」
そこまで考えてなかった。
どうしようか困っていると、クインが私の前に出てくる。
「それなら任せて頂戴♪ えいっ」
クインが軽く指を振ると、ゾンビ牛が水でできた泡に包まれる。
そのままふわりと空中へ浮かび、クインが指を動かすと、フライパンの中へゆっくりと運ばれていった。
「すごい! さすがクインだね!」
「ふふっ、おほめにあずかり光栄よ♪」
「よし、早速調理開始――」
「ところで、どうやって火を通すの?」
「……どうしよっか?」
巨大なコンロを用意する?
いやいや、無理だから。
悩んでいると、今度はアンナちゃんがやれやれといった感じで前に出る。
「あたしに任せろ」
「アンナちゃん、何か方法があるの?」
「焼けばいいんだろう? ならアタシの雷で代用すればいい」
アンナちゃんがフライパンに触れると、手の平から紫色の雷が走る。
バチバチッ! と音を立てながら、雷がフライパン全体へ広がっていく。
『モゥーー!』
「やった!」
フライパンを経由して、ゾンビ牛に紫色の雷が駆け巡る。
その熱で腐った肉が焼かれていくと――。
「あ、みんな見て!」
ゾンビ牛の体がみるみるうちに変わっていく。
黒ずんでいた体は綺麗な茶色の毛並みになり、腐り落ちていた肉も元通り。
裂けて骨が見えていた腹部も完全に塞がっている。
そして、取れていたはずの目玉までちゃんと元の位置に収まっていた。
「……まさか、本当に?」
「これは……驚いたわねぇ」
『見た目はもう普通の牛ね~』
みんなが目を丸くして驚く。
「やったー! 大成功ー!!」
嬉しさのあまり、思わずフライパンの上に飛び乗り、牛に駆け寄る。
触ると、もふもふの毛並みと温かな体温が伝わってくる。
「すごい! ちゃんと生きてる!」
『モォー』
牛はこっちを見ると、のんびり鳴いて私を舐めてくる。
「わわ、くすぐったいよー」
どうやらご機嫌みたい。
「本当にお前のスキルはどうなってるんだ? ゾンビを生き返らせるなんてありえないぞ」
「細かいことはいいじゃん!」
「……まあそうだな。とにかく、これで新鮮な牛肉が手に入るな」
「そうだね……え?」
それってつまり……。
「じゃあ、私が解体してあげるわねぇ」
そう言いながらクインが近づいてくる。
「いやいや、ちょっと待って! 折角生き返ったのにかわいそ――」
「アクアカッター♪」
クインが手をかざすと、鋭い水の刃が飛び出し、牛を綺麗に切り分けていく。
「わーーー!?!!?」
牛があっという間に解体されていくー!?
「何を叫んでるんだ? 牛肉を手に入れるためには仕方ないだろう?」
「だからって心の準備くらいさせてよ!」
こっちは牛の解体見るの初めてなんだから!
「まあまあ。ほら、もう終わったわよぉ」
後には無残な牛のバラバラ死体が残っていた。
「ごめんね牛さん。ちゃんと全部食べるから……」
そうやって祈りを捧げていたその時。
『モォー』
「……え?」
よく見ると、頭だけが動いている。
次の瞬間――。
「ぎゃー!?」
頭の切断面から、赤黒い肉がグチャグチャと盛り上がり始める。
そして肉はどんどん元の体を形成していき、さらにその上から毛皮まで生えてくる。
そんな滅茶苦茶グロい光景が広がった後、牛は元通りに再生していた。
「あ、アンナちゃん、どうなってるの……?」
「まさか……ゾンビの再生力は失ってないのか? つまり……ゾンビのまま新鮮な体に生まれ変わったのか」
「つまりいいとこどりってこと?」
「そんな簡単な言葉で表現するな! だが、大体その通りだな」
「それってすごくない!?」
つまり解体しても無限に再生するってことじゃん!
牛肉取り放題だよ!
まさに夢の牛!
「……後は、解体した肉がちゃんと食べられるかどうかだね」
一見綺麗で赤々とした、美味しそうな牛肉だ。
とりあえず薄く切って、スキルじゃない普通のフライパンを用意して焼いてみる。
すると、ジューシーな油と香ばしい香りがフライパンから立ち上ってきた。
「……いい匂い」
ジュウジュウと音を立てながら、肉の表面をこんがりと焼いていく。
「焼きあがったよ」
出来上がった肉を皿に盛る。
「……見た目は美味しそうだな」
「さっきまでゾンビだったとは思えないわねぇ」
「……どれどれ、いただきます」
フォークで肉を一切れ取って、恐る恐る食べてみる。
「…………!」
柔らかい。
それに、噛むほどに肉の旨味が口いっぱいに広がる。
「お、おいしい……!」
「本当か?」
アンナちゃんも私に続いて食べる。
「う……美味い!」
思わずアンナちゃんもほっこりとした笑顔になる。
「やったー!」
天高くガッツポーズをとる。
新鮮な牛肉ゲット!
これでもう、住民が腐ったゾンビ肉を食べる必要もない!
健康な生活に一歩近づいた!
「ありがとう、牛さん!」
『モォー』
嬉しさのあまり牛に抱き着く。
その時――。
「あ、この子って……」
ふと牛のお腹の下を見ると、大きな乳房があることに気づいた。
どうやらメスみたいだね。
「……あれ?」
まさかと思うけど、牛乳もとれたりする?
「……試しに」
牛のおっぱいを掴んで絞ってみる。
すると――。
ピュー!
「うわ!?」
おっぱいの先から、勢いよく牛乳が噴き出す。
「あ、アンナちゃん! この子、牛乳も搾れるよ!」
「なんだって!?」
早速コップを用意して、絞った牛乳を注いでみる。
見た目はいつも飲んでいる牛乳と変わらない。
ゴクゴクと飲み干すと、牛乳特有の甘い香りと味わいが広がる。
しかも搾りたてだからか、コクがあってすごくおいしい!
「この牛最高だよ!」
『クリア様すごいわね~』
「さすがクリア様ねぇ」
「……う、上手くいきすぎだろう……どうなってるんだ?」
みんなで喜ぶ中、アンナちゃんが一人頭を抱えている。
「だから細かいことを気にしてもしょうがないってアンナちゃん」
「お前はよくそれで済ませられるな……!」
「だって考えてもわからないし」
「……それはそうだが」
やれやれ、まじめだなぁアンナちゃんは。
「ところで、この生まれ変わった牛はなんで呼べばいいのかしら?」
クインがそう聞いてくる。
たしかに、普通の牛でもないし、ゾンビでもないし……。
「うーん……ゾンビだった牛だから……」
牛と目の前にある牛肉を見る。
「よし決めた! ゾンビーフにしよう!」
「……おいクリア……」
「相変わらず安直ねぇ」
「良いじゃん! わかりやすいし!」
こうして、私の町に新しい牛、ゾンビーフが誕生したのだった。
そして――。
「よーし、ほかの牛たちもゾンビーフに変えてあげないとね! クイン、フライパンの上にみんなを運んで! アンナちゃんはまた電撃よろしく!」
「フフ、まかせなさぁい♪」
「やれやれ、面倒だが仕方ないか」
『ところで、一ついいかしら~?』
おばさんが急に話しかけてくる。
「どうかしたの?」
『クリア様のスキルって包丁も出せたわよねぇ?』
「うん、出せるけど?」
『以前、パンをその包丁で刺して変化させてなかったかしら~?』
「…………あ」
試しにヘルシークッキングの包丁でゾンビ牛を刺したら、それだけでゾンビーフに生まれ変わった。
……巨大フライパン必要なかった。
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