23話 メタルなスライムのほうが珍しくない?
前回のあらすじ
健康的にバトルした
「スライムクイーンの……クイン?」
「ええ、あなたのおかげで元に戻れたわ。助けてくれてありがとう」
助けたってことは、あのヘドロスライムの正体?
まさかこんなきれいなスライムだったなんて。
まるで呪いが解けたお姫様みたい。
それはともかく。
「…………」
なんだろう?
じーっとこっちを見られているような。
「…………あなた、可愛いわねぇ」
「え?」
クインが妖艶な笑みを浮かべたと思うと、突然ギュッ! 抱きしめられ、豊かな双丘に顔を埋められる。
「うわ!?」
「本当に助かっちゃったわぁ。お礼にこのまま食べてあ・げ・る♪」
「もがががが!?」
ほ、捕食されるー!?
体の中に取り込まれて溶かされるー!?
じたばた暴れてなんとかクインの抱擁から抜け出す。
「はぁっ……はぁっ……」
「もぅ、そんなに嫌がらなくてもいいじゃない。気持ちよくしてあげるわよ?」
「そういう問題じゃないから! まだ私死にたくないよ!」
「あら、何か勘違いしているようね」
「え、勘違い?」
「食べるって……性的な意味でよ。フフ♪」
「そっちの意味でもアウトだよ!」
危うく貞操を奪われるところだったじゃん!
確かに大きな胸と、スライム特有のプルプルとした感触はすごく気持ちよかったけど……。
「ねえ、クインって……アンナちゃんよりずっとサキュバスっぽくない?」
「悪かったな! サキュバスっぽくなくて! それより、お前は……」
「お前じゃなくてクインよ」
「……クイン、お前は本当にスライムクイーンなのか?」
「もう、結局お前ってつくのね。ええ、本当よ」
「な……!?」
クインが拗ねながら肯定すると、アンナちゃんは驚いたように一歩下がる。
「……まさか、本当にスライムクイーンが……」
「スライムクイーンがどうかしたのアンナちゃん?」
「どうかしたのじゃないこのバカが!」
「いだぁ!?」
何故かゲンコツをもらう。
「なんでお前はそんなに冷静なんだ!? スライムクイーンだぞ!?」
「えー? だってスライムって言えば、メタルなスライムのほうが珍しくない?」
「そんなカチカチのスライムが存在してたまるか!!」
「あ、いないんだ」
いてもおかしくないなーとは思うんだけど。
「ところで、スライムクイーンってそんなにすごいの?」
「当たり前だ。スライムの最上位個体だぞ」
「え、それってつまり……スライムの中で一番強いってこと?」
「ああ、そうだ。長い間姿が確認されていない、伝説の魔族でもある」
「ええー!?」
クインがそんなすごいスライムだったなんて!
「でも、なんでこんなところでヘドロスライムになってたの?」
クインに聞くと、顔に手を当てて困ったような顔をする。
「うーん私はね、もともとここに住んでたのよ。だけどある時、瘴気が地下から発生したの」
「瘴気が?」
確か自然や生き物にとって有害な毒だったよね。
「ええ。そのせいで湖が急激に汚染されちゃって……どうにかしようと思ったんだけど……私も汚染に巻き込まれて正気を失っちゃったの」
「じゃあ、それからずっとヘドロスライムに?」
「ええ。さすがの私も困っちゃったわねぇ」
「アンナちゃん、確か瘴気が発生したのって数千年前だったよね?」
「ああ。ということは、数千年もの間正気を失ってたのか……」
なんか……普通に悲しい話だね。
「あら、いつの間にかそんな長い時間経ってたのねぇ」
……本人に全然悲壮感がないけど。
「そういえば、この子返すわね」
クインがそう言って、ランタンを取り込んだスライムを渡してくれる。
「君のおかげで凄い助かったよ。ありがとう」
ほめながら撫でてあげると、スライムはプルプルと震えてすり寄ってくる。
よかった、喜んでいるみたい。
……すっかり忘れててごめんね。
「ところで、人間とサキュバス、それにスライムたちだなんて珍しい組み合わせよねぇ。あなたたちは何者なのかしら?」
「えっと実は……」
クインに自己紹介して、ここに来た経緯を説明する。
「勇者召喚されたのに魔王軍四天王になっちゃったの? ふふっ、波乱万丈ねぇ」
クインがくすくすと笑いだす。
本人としては笑い事じゃないんだけどなー。
「実際それだけの力はあると思うわよ? この湖を全部浄化しちゃったんだもの」
そこまで言うと、クインは不思議そうに首をかしげる。
「……一つ不思議なことがあるのだけれど」
「何?」
「これだけ強力な浄化の力を浴びて、どうして私は消えなかったのかしら?」
「どういうこと?」
「魔族に対して聖なる力はとてもよく効くの。だから、普通なら私の存在ごと浄化されてもおかしくないのに、どうして私は平気なのかしら?」
あ、そういうことか。
なら答えは簡単だね。
「当たり前だよ! だって私のスキルは健康の力だからね!」
「け、健康の力?」
クインが首をかしげてキョトンとする。
「はぁ……説明するとだな、こいつのスキルは相手を攻撃する前提で使うことはできないらしい。さっきも湖の浄化はできたが、お前を直接浄化することはできなかったからな」
「アンナちゃん、補足ありがとう!」
「お前のスキルなんだから自分でちゃんと説明しろ!」
「ごめんなさい」
その通りなので素直に謝る。
「なるほどねぇ。つまり、命には触れずに悪いものだけを取り除く力なのね」
クインは興味深そうに私を見つめる。
「まあ、そんな感じかな?」
「ふーん、魔族にも優しい浄化の力なんて存在するのねぇ」
「信じられない?」
「ううん、信じるわ。この子たちもあなたを慕っているようだしね」
クインが、私の周りにいるスライムたちを見ながら言う。
「わかるの?」
「ええ、私の眷属みたいなものだもの。貴女のおかげで綺麗なスライムに生まれ変われたって、みんな感謝してるわ」
さすがスライムの女王だね。
「ところでクリア、水源を浄化するという目的は果たしたんだ。一旦町へ戻らないか?」
「そういえばそうだね」
もうすっかり日が暮れているだろうし、おばさんと残ったスライムたちが心配してるかも。
「じゃあいったん屋敷に……あれ?」
「どうした?」
「アンナちゃん、湖が……」
指をさした湖の中央。
そこだけ水面が妙に濁っている。
「これは……どういうことだ?」
よく見ると、湖の底から黒ずんだ水がぽこぽこと湧き出していた。
せっかく綺麗になった湖が、少しずつ汚れた水で汚染されていく。
「もしかして……地下水?」
「そうか、湖そのものは浄化できても、地下の水源までは浄化できなかったんだな」
確かに、地下までは光が届かないだろうしね。
「どうしよう……このままじゃまた湖が汚れちゃうよ!」
せっかく綺麗になったのに、これじゃあ意味がない。
「大丈夫、私に任せて頂戴」
「え?」
クインがそう言って前に出る。
「この程度の穢れなら、私の力でどうにでもなるわ。水よ、集まりなさい――」
クインが湖へ向けて手をかざす。
すると、クインの手の先に大きな水の泡が形成されていく。
「ふふっ。水魔法……『バブルフィルター』」
クインが指先を軽く振る。
ズドンッ!
巨大な泡が湖の中央へ向かって飛んでいき、そのまま水面を突き抜けて湖の中へ沈んでいく。
黒く濁っていた水は泡を通り抜けるたびに澄み渡り、やがて透明な水へと変化していく。
「わぁ……!」
数秒後、湖の水は完全に透き通った水へと変わっていた。
「これで大丈夫よ。汚れた地下水はこの泡が濾過してくれるわ」
「クインすごい!」
「スライムクイーンは水魔法の達人と聞いていたが……流石だな」
「ふふっ。おほめにあずかり光栄よ。これからもよろしくね♪」
「え……これからも?」
思わずアンナちゃんと目を合わせる。
「ええ、たまには外に出ないとね。それにあなたたち……特にクリアちゃん、あなたに興味が出てきちゃったわ」
クインはそう言うと、ほほ笑みながら私の顎に手をのせてクイッと上に向けてくる。
「く、クイン?」
「ぜひ私をあなたの傘下に加えさせて頂戴。ク・リ・ア・さ・ま?」
「う……!?」
思わずドキッとし、顔が赤くなる。
そういうイケメンみたいなしぐさもできるなんて反則じゃない!?
「……おい、あんまりクリアをいじるんじゃないぞ」
「あら、アンナちゃんなんか面白くなさそうな顔をしてるわねぇ。もしかして嫉妬?」
「な……!? そんなわけないだろう!」
「顔が赤いわよぉ?」
「気のせいだ!」
あれ?
なんだろうこの空気?
そんなことを思っていると、スライムがぽよんと私の足に跳んでくる。
「どうかしたの?」
足元を見ると、スライムたちが動いて三角の形を作った。
「どういうこと? …………あ、三角関係ってこと? ……違うから!」
こうして、私に頼もしい仲間ができたのだった。
ちなみに後で知った話だけど、クインは即四天王になれるほどの実力者らしい。
……私、クビにならなくてよかった。




