18話 領民たちが不健康すぎる!
前回のあらすじ
不健康な夜を過ごしてしまった……。
自分の屋敷を徹底的に掃除した翌朝。
スライムたちに留守番を任せ、私はアンナちゃんと一緒に町の広場に来ていた。
「ふぁ~……眠い……」
「どうしたクリア、寝不足か?」
「うん……ちょっとスライムたちが寝かせてくれなくて……」
よく考えればフローラルスプレー使えばよかったな……今更だけど。
「ほう、スライムたちと熱い夜を過ごしていたのか。よかったじゃないか」
「どっちかというと重い夜かな……」
アンナちゃんがサキュバス的にいじってくるけど、まあそれは置いとこう。
私はこれから、この廃墟みたいな町に住む住民たちへ挨拶をしなきゃならない。
おあつらえ向きに木で出来た壇上も用意されてるし……。
「はぁ、緊張するなぁ。何を話せばいいんだろう、アンナちゃん?」
「まだ考えついてないのか? そうだな……お前がこの領地でやりたい事でも話せばいいだろう」
「やりたい事って言われてもなー」
『クリア様~、アンナ様~。おはようございます~』
挨拶の内容について悩んでいると、おばさんゾンビがやってくる。
「おはようおばさん」
「ゾンビ、ここに住む住民たちはどこだ?」
『もうすぐ来るんじゃないかしら〜?』
「ところでおばさん、この町ってどんな人たちが住んでるの?」
『前の四天王の部下だった人たちよ〜。ゴブリン、インプ、ゾンビの三部隊に分かれているの〜』
「部隊?」
「なるほど、魔王軍の兵士というわけか」
『ええ〜。でもここを治める四天王様がいなくなっちゃって、今はゴブリン、インプ、ゾンビそれぞれ百人ずつ、この町で暮らしてるのよ〜』
「さ、三百人も相手に挨拶するの〜……?」
おばさんが説明してくれた後、町の奥から二足歩行で緑色の姿をした何かが広場に向かってぞろぞろと集まってくる。
「あれはゴブリンだな」
「ゴ、ゴブリンか……」
ファンタジーの定番ともいえる、緑色の小人の姿をした魔物だ。
集団で村を襲ったり結構怖い印象があるけど……。
「大丈夫アンナちゃん? ゴブリンって女の子を襲うイメージがあるんだけど?」
「安心しろ。お前みたいな小さいやつ、誰も好んで襲ったりしないだろう」
あ、そういえばこの世界ロリコンがいないんだったね。
ゴブリンも同じなんだ。
「ていうかめちゃくちゃブーメランだけど大丈夫アンナちゃん?」
「……うるさい」
そんな話をしているうちに、ゴブリンたちが広場に入ってくる。
その姿をよく見ると……。
「……え?」
一瞬目を疑った。
確かにゴブリンなんだけど、一匹一匹がめちゃくちゃ太っていた。
それもお腹が出てるなんてレベルじゃなくて、まるで緑色の巨大なボールが二本足で歩いているみたいな姿だ。
……なんで?
「ケケケ、ゴブリン部隊、参上シタゾ」
先頭の兜と赤いスカーフを巻いたゴブリンが挨拶する。
部隊のリーダーなのかな?
まあそれはともかくとして。
「アンナちゃん、この世界のゴブリンってこんな姿なの?」
「……そんなわけないだろう。おい、なんでお前らはそんなに太っているんだ?」
「ケケケ、オレたち何もすることがナイ。ゾンビ肉食べて寝る。ソレだけ」
「要するにみんな食っちゃ寝してたってこと!?」
そんな生活してたら太って当たり前だよ!
「……お前ら兵士だろう? それで戦えるのか?」
「問題ナイ、オレたちツヨイ」
リーダーゴブリンが腰の剣を抜いて大きく振りかぶる。
「フンッ!」
……だけど、勢い余って前のめりになり、そのまま倒れてボールのように転がっていった。
「ダメじゃん」
「はぁ……」
アンナちゃんもため息をついてるし。
そうしているうちに、次の領民(兵士)たちが町の奥からやってくる。
紫色の体に、蝙蝠のような翼と角を持つ魔物だ。
「あれはインプだな」
「インプって翼と角を持つ小柄な悪魔だよね?」
「そうだな、魔法が得意な奴らでもある」
インプたちは地面の近くを飛びながら広場にやってきて、私たちの前に着地する。
「キキキ、インプ部隊到着……もうダメだ……」
「え?」
先頭にいた二本角のインプが喋ったとたん、インプたちが全員地面に倒れる。
「お前たち! どうした!?」
「ハァ……ハァ……飛んでクルだけで……力、使い果たシタ……」
「はぁ?」
よく見ると、インプたちは全員骨格が見えるくらいガリガリに痩せ細っていた。
え、もしかして体力切れ?
「なんでそんなに痩せてるんだ!?」
「……だってオイラ達ヤル事ない。しなびた野菜だけ食べて、ずっと地下にイタ」
「碌に食事もとらないで引きこもってたってこと!?」
そりゃ痩せるよ!
体力もなくなるよ!
「……お前たち、戦えるのか?」
「……問題ナイ、オイラたち使うの魔法。体力イラナイ」
二本角のインプが立ち上がり、指先を前に向ける。
そして小さな火花がパチッと散った。
「あ、やっぱ無理ダ……」
そのまま再び倒れた。
うん、やっぱりダメだった。
「アンナちゃん、魔族ってこんな堕落した生活送ってる人たちしかいないの?」
「そんなわけないだろう! ここの連中が特別だらしないだけだ!」
「アンナちゃんも大概だけどね」
「うるさい!」
『あ、ゾンビ部隊も来たわよ~』
今度は広場に向かって大量のゾンビたちがやってくる。
うーん、大丈夫かな?
心配しながら目を凝らしてゾンビたちを見ると、太ってもいないし痩せ細ってもいない。
「アンナちゃん見て! 普通だよ! 普通のゾンビたちだよ!」
「ああ、そうみたいだな。安心した」
まさかゾンビの大群が集まってくる光景に感動するとは思わなかったなー。
……あれ、これフラグじゃないよね?
大丈夫だよね?
なんて思っていると。
『ウアアアッ!』
「え?」
歩いてくるゾンビたちの足が突然グチャっと取れ、次々と倒れていく。
「え、何が起こってるの!?」
『大丈夫、いつもの事よ~。この町のゾンビたちってちょっと腐敗が進み過ぎてて、よく手足が勝手に取れるのよ~』
「大丈夫じゃないよそれ!?」
しかも足だけじゃなくて下半身全部取れちゃったのまでいるし!
一応ゾンビの再生能力のおかげですぐ生えるみたいだけど、生えた途端また千切れちゃうのもいるし!
まあそれでもゾンビたちは這って進み、なんとか皆広場に到着する。
『ゾンビ部隊、到着しましたアア……』
先頭に立っている軍服を着たゾンビが挨拶すると顎から下が取れる。
え、しゃべるだけでその有様なの?
「……お前たち、なんでそんなに腐敗が進んでるんだ?」
『……さあ?』
「せめて理由くらい把握しろ!」
ダメだった。
結局全員不健康だった。
太り過ぎのゴブリン、痩せ過ぎのインプ、腐り過ぎのゾンビ。
なんなのこの町!?
健康って言葉知らないの!?
「もう……もう……」
「……クリア?」
「もう我慢できない!」
気付けば拳をぎゅっと握りしめ、私は壇上へ駆け上がっていた。
「みんな聞いてーー!!」
広場中に声を響かせると、ゴブリンもインプもゾンビも、一斉にこちらを見る。
そして私は叫んだ。
「今日からみんな、健康的な生活を送ってもらいます!!」
『「「……は?」」』




