15話 不健康な魔族の館! その2
前回のあらすじ
魔族の屋敷は不健康だった。
「『健康第一』発動! きて! レインボースイーパー!」
手をかざしてスキル発動!
光と共に魔女が使うような箒を出現させる。
『アンナ様、クリア様は何をする気なのかしら〜?』
「見てれば驚くぞ」
「そーれ!」
二人が見守る中、箒を大きく振る。
すると、その軌跡をなぞるようにキラキラと虹色の光が走り、部屋全体を包み込んだ。
次の瞬間、大量に積もっていた埃やゴミが、まるで最初から存在しなかったかのように消えていく。
「よし、完璧だね!」
たった一振りで掃き掃除完了!
これがレインボースイーパーの力!
『あら~、すごいわね~』
「これがこいつの力だ」
ふっふっふ、おばさんゾンビも目を丸くしているね。
でもまだ終わらない!
「この調子で次! 『キュアシャイン!』」
魔法のランタンを出現させ、太陽のような温かい光で部屋中を照らす。
すると、カビ臭い淀んだ空気が浄化され、部屋はさわやかな空間となる。
「すぅーはぁー。よし、空気もばっちり!」
「おいゾンビ、体は大丈夫か?」
『特に問題はないわよ~』
「そうか。光を浴びても浄化されない所を見ると、やはり光魔法とは違うようだな」
そっか、ゾンビだから聖なる力に弱いんだね。
「当たり前だよ! これは健康の光だからね!」
「意味が分からん」
「最後に『バブルウォッシュバレル』!」
どんな頑固な汚れも簡単に落とす、魔法の洗剤水が入った洗濯桶を目の前に出現させる。
そして備え付けの雑巾を洗剤水に浸けて絞り、床の水拭きを開始。
「キュッキュッキュっと!」
「ここからは手作業なんだな」
「頑張ってクリア様~」
「広いんだから二人も手伝ってよ!」
その後三人で手分けして部屋の汚れを拭いていく。
魔法の洗剤水のおかげで掃除はとてもスムーズに進み、十分後には汚れ一つない清潔空間になった。
「まるで廃墟から新居にビフォーアフターしたみたいだね!」
「そこまでじゃないだろう」
「よーしこの調子で屋敷全部を掃除するぞー!」
っと意気込んだところで、お腹がグーっとなる。
うん、お腹減ったね。
「その前にご飯どうにかしよっか」
『あら~? ご飯ならおばさんが作ってきたものが……』
「それは人が食べられるものじゃないから」
「仕方ない、アタシが食べて処理しよう」
「アンナちゃんも食べないで!」
食べ物を粗末にするなって言われるかもしれないけど、無理なものは無理!
という訳で途中、廊下をスキルで綺麗にしながら厨房へ向かう。
『ここが厨房よ〜』
「へぇー……」
調理台には食べ残しや、洗われていない皿や鍋が小さな山を作っているね。
おまけに床には骨や野菜くずが転がって、壁には油汚れがべっとり。
棚には食器がグチャグチャに押し込まれていて、カビだらけのパンやしなびた野菜がそのまま放置されている。
「わかってたけどアンナちゃんの拠点よりずっとやばい!!」
「アタシを引き合いに出すな!」
まあこうなったら仕方ないね。
この惨状は後で何とかするとして、まずは何か食べないと。
「おばさん、さっきの料理ってどこで作ってたの?」
『あそこよ~』
おばさんに案内されさっきの淀んだ野菜スープの鍋を見つける。
中身を見ると、まだまだ鍋一杯にある。
「なんでこんなに作ったの?」
『つい張り切っちゃって~』
「まあいいや、スキル発動! 『ヘルシークッキング』!」
どんな食材でも安心で健康的に食べられる物へと変える調理器具を召喚する『ヘルシークッキング』を使って出した魔法の鍋に、淀んだスープを移し替える。
「完成した料理にも使えるのか?」
「多分なんとかなるんじゃないかな?」
鍋を火にかけると、腐臭を放つ淀んだスープがぐつぐつと煮えるたび、澄んだ黄金色へと変わっていく。
やがて厨房一杯に野菜と香草の食欲をそそる香りが広がった。
「やった、うまくいった!」
お玉で掬って飲んでみると、香辛料で味付けされたスープと野菜の風味が口いっぱいに広がっていく。
「うん、美味しい!」
「どれどれ……これは確かに美味いな。クリアの料理も美味かったがこっちもなかなか……」
「あれ? ってことはおばさんってすごい料理上手?」
スキルじゃ味までは変わらないはずだしそういうことになる。
「料理長だって言ったでしょ~。料理は得意なのよ~」
おばさんは誇らしげに言うけど、食材を見る目が機能してなさそうだし安心はできないかな。
この調子で次はカビだらけのパン。
「これは焼き直すのか?」
「違うよ、見てて」
スキルで出した包丁でパンの表面に切れ目を入れる。
すると、カビが消えて焼き立てのようにふっくらとしたパンに変身。
「え、切れ目を入れるだけでいいのか?」
「私もそう思ったけど、何かしら調理すれば効果はあるみたいなんだよね」
「……便利だな」
アンナちゃんが腑に落ちない顔をしているけど、そういうものだからしょうがない。
「よし、最後にお肉だね! おばさん、お肉ってどこにあるの?」
厨房を見渡しても肉が見当たらない。
『お肉が欲しいの~? じゃあちょっと待っててね~』
見えにくいところに収納スペースがあるのかな?
そう思っていると。
『よいしょっと』
「え?」
おばさんが自分の腕をグチャッと引きちぎって差し出してくる。
『はいどうぞ~』
「いやいやいやいやいや!?!?!?」
なにやってるのこのおばさん!?
『腕は再生するから心配しなくても平気よ~』
「あ、ゾンビだから再生するんだね。ってそういう問題じゃないから!」
ていうか肉を探しているのになんで自分の腕を……ってもしかして……。
「まさか、さっきの焼いた肉って……」
『あれもおばさんの腕よ~』
「げぇ!?」
「クリア、ゾンビ肉は魔族の間では一般的だぞ」
「ええええええ!?」
食のストライクゾーンが広すぎるよ!
ゾンビが料理するの一般的だってさっき聞いたけど、それも自分の肉を差し出せるから!?
「どうしたクリア? スキルで調理しないのか?」
「いや、さすがにゾンビの肉は……」
『おばさんのが嫌なら、牛の肉がそこの棚にあるけどね~』
「それを早く言ってよ!」
当然牛肉は腐っていたけど、スキルのフライパンで新鮮なお肉に早変わり!
豪快に焼いて、食欲をそそる牛肉のステーキの出来上がり!
よし、これでお昼ご飯の完成!
「じゃあ、いただきまーす!」
「モグモグ……やはりお前のスキルで作った料理は美味いな」
「そういえばおばさんは食べられるの?」
『ゾンビはなんでも食べられるわよ~。味はわからないけど~』
「……わからないんだ」
そんなこんなで無事三人で昼食を終えると、ちょうどトイレに行きたくなってくる。
「おばさん、トイレはどこ?」
『厨房から出て右よ~』
「ありがとう、じゃあちょっと行ってくるね」
「おいクリア、トイレに行くなら気をつけろよ」
「大丈夫だよ、アンナちゃんの所で慣れてるから」
「待て、そういう問題じゃーー」
やれやれ、アンナちゃんは心配性だなー。
匂いはキュアシャインで、汚れはバブルウォッシュバレルで解決できるし問題なし。
水洗式かな? それとも汲み取り式かな?
そう思いながら廊下に出て、トイレの扉を開けると……。
「え? うわぁぁぁ!?」
中から緑色のガスが溢れ出し、それを吸った私は途端に苦しくなって床に倒れる。
「あ……が……」
「クリア!」
『クリア様~!』
異変を聞きつけた二人が慌てて駆け寄ってくる。
「く、苦しい……」
「これを飲め!」
アンナちゃんが青い液体が入った小瓶を取り出し、私に飲ませる。
「こ、これは……?」
「解毒ポーションだ。すぐに外へ運ぶぞ」
アンナちゃんはトイレのドアを閉め、すぐに私を抱いて屋敷の外へ運び出す。
「大丈夫か?」
「げほ! げほ! う、うん。なんとか」
咳き込みながらもなんとか立ち上がる。
「全く……だから気をつけろって言っただろう!」
「ごめん……っていやいや! さっきのガスはなに!?」
「毒ガスだな」
「なんでトイレから毒ガスが溢れ出すの!?」
「当り前だ、毒溶式トイレだからな」
「……なにそれ?」
「毒の沼に直結していて、排泄物を毒で溶かすことのできるトイレだ」
「……な、なんじゃそりゃーーーー!?」
私の叫びが街中に響いた。




