第55話 瞳子さん、久々に酔う
18時半頃、久田さんが家の近くのコンビニまで迎えに来てくれた。
仕事の帰りみたいで、ネクタイを締めたワイシャツにスラックス姿だった。
丁度19時に、居酒屋へ到着した。
初夏の夕暮れは日が長く、まだ太陽は沈んでいない。
淡いブルーの霧が漂っている様な空。
家や車や人も、淡いブルーに少し染まって見える。
中に入ると、お店の人が奥のテーブル席に案内してくれた。
「俺、ここに来るの初めてなんです」
久田さんは店内を見渡しながら言う。
「そうなんですね」
メニューを広げ、久田さんに向けた。
「田中さんは、来た事あります?」
多恵子さんと忍君の顔が浮かんだ。
「はい、この前の連休の時に」
「へぇ~。じゃ、おすすめの頼んでください」
そう言うと久田さんはメニューをこちらに向けた。
「えーっと…」
焼き鳥も美味しかったし、多恵子さんはこのハーブ地酒が美味しかったと話してたな…
久田さん今日は運転してくれてるから、ノンアルで…この前飲んだライチのソフトドリンクが美味しかったな。
「料理は、焼き鳥とこれと…」
久田さんと目が合う。
「あー…焼き鳥大好きです俺」
何故かバツが悪そうに笑っている。
「なら、よかったです。」
店員さんを呼んで、とりあえず第一弾を注文した。
「田中さんは、前来た時は誰と来たんですか?」
「多恵子さん…陶芸教室の、お世話になっている先生と、甥っ子さんと来ました」
「へぇ~。甥っ子…。家族ぐるみで」
「はい。忍君も陶芸の専門学校に通うまで、よく一緒に作業していたので」
「ふ~ん」
ぱっちりと目を見開いて何度もうなずく久田さん。
「ところで、俺今日から田中さんの事名前で呼んでもいい?」
「え?」
「瞳子さん」
そう言うと、久田さんは目を逸らした。
「別に、苗字でも名前でもどちらでも呼びやすい方で大丈夫です」
「本当?じゃ、これからは名前で呼びます」
久田さんは椅子に座り直して笑った。
久しぶりに酔っぱらった。
久田さんはノンアルコールビールを飲んでいるから、私だけが酔っ払い。
恥ずかしい。
「瞳子さんって、利岡璃子ちゃんに似てますよね」
久田さんはとろんとした目で言ってきた。
ん?久田さんは酔っていない筈。
「ありがとうございます。そんなの初めて言われました」
久田さんは真剣な顔になり、頭を掻いた。
「…初めてお会いした時から、ずっとそう思ってました」
「はぁ…?」
この感じは…。
「そろそろ出ましょうか」
「ご馳走さまでした」
自分の分を払おうとしたら、久田さんはスマートに断りお会計を済ませた。
「いえ。こちらこそ、夕飯付き合ってもらってありがとうございました。」
車に乗り、10分程して家の近くに着いた。
「今日はありがとうございました」
「はい。また、次もいきましょうね」
車から降りて、会釈する。
久田さんは手を振り、帰って行った。




