第50話 忍くんの日常
「昨日も忙しかったね」
「うん。火曜日だったのに、多かった。」
同じバイト先の白石さんは、最近よく話掛けてくる。
今日は座学の講義が1限目からあり、来るなり隣に座って来た。
「眠…」
白石さんは眠そうな目でアクビをした。
講義中、俺も睡魔に襲われて意識が飛びそうになる。
「横峯くん、おーい」
気付いたら、白石さんが肩をたたいていた。
「は」
少し寝てしまっていた。
「目が覚めた?」
小声で言う白石さんも、瞼が重そうだ。
「あたしが寝てたら、起こしてね」
そう言って笑顔でタブレットに目を落とした。
何とか1限目を持ちこたえ、2限目からは実技の授業。
実技では睡魔と戦わなくても良い。
「忍~!」
「あっ、達也。」
講義室から移動中、達也が来た。
「いつから居たの?」
「5分くらい遅刻した!」
達也は今時珍しい角刈りだ。
今日も屈託のない笑顔で遅刻を悪びれる様子もない。
俺の学籍番号は達也の前で、入学当初の講義や実技では隣の席だった。
達也から話かけてきて、何となく一緒に行動するようになった。
「忍、寝てたから俺が後ろに居たの気付かんかっただろ」
「うん、全然気付かんかった」
「ところで忍、お前白石さんと仲良さそうだったな」
「別に。バイト先が一緒なだけ」
「いいな~!!白石さん、可愛いじゃん」
あ、そう。
前の方で、同じように移動している白石さんと友達が歩いている。
ぼんやりと見ていたら、白石さんが振り返った。
達也が肘で俺の腕を小突く。
白石さんは満面の笑みをこっちに向け、また前に向き直った。
「おいおい、白石さん…天使」
「…」
確かに可愛いけど。
「このぉ!俺のおらん所で!!」
「…別に何も。達也は白石さん好きなの?」
「え!?」
達也は目をまん丸にし、見開いた。
「…お前、白石さんからあんなにキューティーな笑顔を向けられて、何の感情も湧かないのか?」
「…湧かない」
信じられない、という風に達也は立ち止った。
「わかったぞ!他に好きな人がいるんだな!?」
俺に指をさして言う。
「…さぁ?」
当たり。
「言えよ~!!バイト先か?」
はずれ。
「…言わない。」
「何でだよッ!!?友達だろ!?」
両手を大袈裟に振ってる。
「めんどくさい。色々と。」
「はあ!?酷くない!!?」
「…達也が、って意味じゃない」
「え~!!じゃあ教えてくれよ~!!」
「…いや、教えない」
誰にも言うもんか。
口に出して言う時は、本人に、直接と決めている。
「もしかして、人には言えないような人なのか?」
達也は小声で恐る恐る言う。
「彼氏が居るとか、人妻とか?」
「ちがう」
多分…居ない。
「何だよ、じゃあめっちゃ年上とか?」
「…」
「お!そうなの!?いいじゃん、年上!」
「…もう何も言わない」
速足で、達也を置いて歩く。
「怒るなよ~!!待ってくれよ」
すぐに追いかけて来た。
「怒ってないよ。」
「良かった!忍って絶対"草属性"だよな!怒る事なさそう!」
「…何だよ、草って」
弱そう。
「穏やかって意味!人畜無害!」
達也は慌てて言い足す。
「じゃあ、達也は石か岩属性だな。」
角刈りで、ちょっとマッチョ。
「おっ、分かってるやん!!」
達也はガハハと歯を見せて笑った。
「何がだよ」
意味わかんなくて俺も笑った。




