表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/49

第49話 瞳子さん、初対面の人と待ち合わせ


先月入会したばかりの生徒様は、緊張感や威圧感が全くなくて自然体で話せる。


今日は平日最終の時間に来てくれて、他に生徒様はおられず、マンツーマン指導をしている。


「田中先生は、彼氏居るんですか?」


何気なく聞いてきた。


「いえ?居ませんが」


竹本さんは仏の様に微笑み、


「そうですか」


と少し考えるような表情をした。


「良かったら、俺の親友に会ってみませんか?」


「はい?」


唐突の発言に驚いた。


「大きなお世話かな?」


ハハハと笑い、電動ろくろでの成形に向き直る。


「いえ、そんな事は…」


「俺と同い年なんですけど、いいヤツですよ。田中先生と合うんじゃないかな」


「えぇ…」


どのへんが?


「妻も、田中先生を見た瞬間にタケシ…あっ、俺の親友を紹介したいと思ったって言ってて」


竹本さんは、無料体験に御夫婦で来られた。

奥様は土日どちらかに教室へ来てくれる。


そんな事を急に言われても、正直困る。


「あの、私バツイチで」


「まぁ、田中先生お綺麗だから。男は放っとかないですよね」


そんなカラッと言われると、何でもない様な事に思えてくる。


「背も高くて、男前だと思うんですけどね。ただ、自分から女性に声をかけられないタチで」


「へぇ…」


「男前で言い寄られる事はあっても、タイプじゃない女性でいつも断ってばかりらしくてね。」


「はぁ…」


「一度、会ってやってくれません?」






「はぁ…大丈夫かな、私」


つい独り言を言ってしまう。

竹本さんの紹介してくれた人を待つ。



離婚してから初めて、男性とこんな風に待ち合わせをする。


お互いに顔も知らない。

竹本さんが仲介しセッティングしてくれた。

久田さん、という長身爽やかイケメンという情報しかない。


須賀町のレトロな喫茶店の前で待っていた。


約束の5分前。

待つのは苦手だ。


…車に戻って、待っていようかな?


そう思った時。

駐車場に鮮やかなブルーの普通乗用車が入って来た。


車の中から、背の高い男性が降りてきた。

私が居る喫茶店の入口に向かって歩き出す。

目が合い、会釈をする。

相手も会釈をした。


「あ…田中さん、ですか?」


男性は微笑む。


「はい。初めまして」


黒い髪は短く整えられていて、小さな二重はパチクリと開いている。

グレーのTシャツの上には紺色のジャケットを羽織り、黒いパンツを履いている。


『清潔感』という言葉を擬人化すると、こうなるんだろう。


「お待たせして、すみません。久田武志です。」


清潔感の塊のような久田さんは、スッと長い身体を綺麗に折った。


「いえいえ、私も先程来たばかりです」


「…じゃあ、中入りましょうか」


喫茶店に入ると、薄暗いオレンジ色の照明の中、JAZZが流れていた。

外観はレンガづくりだけど、中に入ると渋い色の木製床にテーブル、椅子。

中もレトロで素敵な雰囲気だ。


「田中さん…は、なんで竹本と知り合ったんですか?」


席に着くなり、不思議そうに尋ねてきた。


「竹本さんはうちの陶芸教室に来てくださって。奥様と、通ってくださっています」


「へぇ~あいつが陶芸ね…」


久田さんはメニューを広げて、こちらへ向けた。


「何食べます?」


メニューにはナポリタンや、ハンバーグセット、グラタン等が載っていた。


うう~ん…今は、ナポリタンの気分だけど、このレトロな喫茶店のグラタンも食べてみたい…


「久田さんは、何にしますか?」


目を上げると、久田さんが手を組み、じっとこちらを見ていた。

口角は上がっているから、私がメニューを選ぶのに時間がかかってるのをうざったくは思われていない…んだろう。


「すみません、決めるのにもう少し時間がかかりそうで…久田さんからどうぞ」


「えっ、あぁ…ごめんなさい、はい」


そう言うと少し慌てて、メニューを両手で掴んで見ていた。


…なんか、ついてたかな?


頭になんかついてて、笑われたとか?

髪の毛を手櫛で梳かすふりをして、何かついてないか探る。


久田さんが店員さんを呼ぶ。

白いワイシャツに、黒いベストを着たアルバイトっぽい女の子が来て、注文を聞いてくれた。


久田さんはハンバーグセット、私はナポリタンを注文した。


「ここのナポリタン、美味しいですよ」


そう言うと久田さんは目を閉じて、二カッと笑った。


「楽しみです」


お腹空いてきた…!


待っている間、お互いの事を話した。

久田さんは大学時代、サッカーに明け暮れていたとな。


絶対、モテモテだったろうな…。

清潔感のある爽やかな久田さん。


「田中さんは、どんな男性がタイプとか…ありますか?」


「う~ん…特にないですが…。」


聞かれると、本当にないから困る。


「優しくて、細かい事にこだわらない様な人がいいです」


適当。


「…そうなんですか。見た目とかは、どんな感じがいいですか?」


「う~ん…」


困る。


「よっぽど、清潔感がないとかでない限りは…」


「そうですか。」


ごめんなさい、適当に返事して。


「久田さんは、どんな女性がタイプなんですか?」


ごめんなさい、全然興味ないのに、興味あるふりをして…

久田さんも、そうかも知れないけど。


「俺は、利岡璃子ちゃんみたいな人がタイプで…」


利岡璃子ちゃん、かわいいよね。分かる。


「お待たせ致しました~!」


ナポリタンが来て、先に食べ始める。


なんか、緊張するなぁ。


こんな気分で食事をするのは、めちゃくちゃ久しぶりだ。


飛ばさないように…お上品に…口の周りにソースがつかないように食べないと…


久田さんのハンバーグセットもきて、久田さんは元気よく食べ始めた。


ナポリタンは美味しかったけど、緊張して食べたから何だか真っ当に味わえなかった。

グラタンも食べたいし、また1人で来ようかな…。


「…じゃあ、良かったらRain交換をしませんか?」


久田さんは笑顔で爽やかに言った。


「あ、はい」


久田さんのアイコンは、どこかの海辺で撮影された、自身の後ろ姿だった。


ナポリタンをおごってもらい、お店を出た。


さて、帰ってゆっくりスマホで動画見て、うたた寝しよっかな…!


そう思っていた。


「田中さん、もう少し、お時間大丈夫ですか?」


「はい?」


特に用事はないんだけど…。


「良かったら、今から阿見山町のケーキ屋さんに行きませんか?」


「…はい」


目を逸らして照れ気味な久田さんの誘いは、とっさに断る事ができなかった。


「じゃ、マーメイドってお店なんですけど…俺の車に乗ります?それとも、それぞれで行きますか?」


「あ、自分の車で行きます。マーメイドなら、私も分かります」


「そうですか。じゃ、駐車場で」


そう言うと、久田さんは自分の車に乗った。


私も車に乗り、出発するのを待ってくれていた久田さんの車の後ろについて行った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ