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3話:地下迷宮の闇バイト、血はでないけれども危ないぞ

「どうです? われてないです?」


「場末のレゲエダンサーかお前は」


「そりまちのオッサンもひでぇよな、いきなり落としやがって」


 地下迷宮の石壁に手をついたミートが、パンツをズラして尻をつきだし、それを虎と龍があきれた顔で見ていると。


「お待たせしました」


 うしろから、無機質な女性の声が届いて、ふたりはミートのパンツをあわてて持ち上げた。


「⋯⋯ご覧になられました⋯⋯?」


「いえまったく。 だいたいの推測はできますが。 場所は選びましょう」


「⋯⋯はい」


 神妙な顔つきでうなずいたところで、オイチがメガネを指先ですっと持ち上げた。


「それでは業務内容の説明に入りますので、質問があれば手をあげてください」


「はーい」「はいよ」「はい」


「まずこの地下迷宮ですが、ここには各世界から魔法や呪い、超常的な力によって封印された方々が飛ばされてきます」


 色んな異世界から、封印されたヤツらがくるってことかな――(虎の心の声)


「この世界は外界とは時間の流れがことなるように作り替えられています。

 ですので、さまざな世界の、さまざまな時間軸からの封印者がこの地下迷宮で暮らしています」


 現代のお天気キャスターのお姉さんと邪馬台国(やまたいこく)巫女(みこ)がこの迷宮には同時に暮らしている可能性があると。むほっ――。(ミートの心の鼻息)


「あなたがたには本日、その生活ゴミの回収、ならびに食料の配給をお任せします」


 食料の配給、このええニオイはカレーやな。あとで味見しちゃろ。ぐうう――。(龍のお腹の音)


「「ていやいや魔王相手になにやらせるつもりなん――ッ!?」」


 挙手するふたり。


「人外は好みではありますがねええ」


 メガネがあやしく光るミート。


「ご安心ください。 この迷宮内でなにかありましても、この入り口付近にて復活する仕組みになっておりますので」


 そうです、どの状況からでも入れる保険が、暗黒皇帝城勤務には用意されています――わーーーすごーーーーいパチパチパチ、


「「――じゃなくてやな! 精神がぶっ壊れるがな!」」


「質問をふたつほどよろしいでしょうか?」


「どうぞ」


 フルで無視されたで――!? といった驚きの声が反響するなかミートは指を一本、立てる。


「まず、食料の配給ですが、おそらくこの地下迷宮とやらはそうとう広いでしょう。ええ、わたくしたちでは手がまわりませんのでは?」


「これはマスターのご厚意によるものですので、見かけた方に配るだけでけっこうです」


 基本的にみなさん、自給自足してますから――オイチは続ける。


「それと、時間がくればマスターの魔法で強制的に呼び戻しますので帰還方法についてもご安心ください。 自発的に戻りたい場合は、ドラゴンやモンスターに戦いを挑むのがはやいと思われます」


 それってヤられちゃえばスタート地点で復活するよ〜〜ってことやんな? せやろな?――虎と龍はバイト先を間違えたことにいまさら気づいたが、逃げ道は迷宮入りしていた。


「闇バイトや」


「それではもうひとつのご質問をどうぞ」


「ええ、さきほどから『封印者が飛ばされてくる』やら『この世界は時間軸がことなるように作り替えられている』といった発言がありますが⋯⋯しょうしょう気になりまして」


「なぜでしょう?」


「それはズバリ、裏で糸をひく者⋯⋯フィクサーが存在するのではないでしょうか?」


 あなたの呼ぶマスターの仕業にしては、まるで他人行儀だ――ミートは突然、ミステリーな空気感をかもしだしたが。


「神様ですよ」オイチはあっけらかんと顔色ひとつ変えずこたえる。


「フィクサーというわけではなく、マスターのご友人なのですが⋯⋯そうですね。


 神域にふれる力を身につけたマスターが、神様として世界を見守ることを拒否した結果、おしつけられた救済措置のようなものとお考えくださればよいかと」


「⋯⋯なにいってんだ?虎、日本語にしてくれや」


「あれちゃう?チートを極めたそりまちのオッサンは、ほんまやったら神様になるんがスジやけど、

『わし、神様になんかなりたくなーーーいーーーーっ!』ってあのオッサンがダダこねはじめたから、


『じゃあもうコレだけでも手伝ってよぉーーー!』って神様が妥協してくれたんやない?」


 ほーーん、悪いオッサンやなあ――と、龍が耳をほじりながら理解できたふうにうなずくと。


「ざっくりとですが、知っておくべきはこのていどですかね。 それでは、こちらを各自お待ちください」


「はーーい」「はいよ」「くっくっく、このカレーをどの魔王様のお口にご馳走してやりましょうかねええ」


 中学を卒業して数ヶ月、はじめての正規のバイトに胸中でわくわくする虎と龍と、封印した厨二性(クロレキシ)がふつふつとこみあげてきたミートは、オイチがあらかじめ腕時計型の魔法アイテムからとりだしておいた、カレー弁当(10個)を収納した透明の袋をそれぞれ手にとって「ほんだら行こか!」


「お気をつけて」


「「うぃーーーー!!!」」「ふふっ、そちらこそ」


 意気揚々と歩き出す。


「そちらこそ、ですか」


 オイチがぽつりつぶやいたのは、ひとつ歳下の後輩たちの背中が迷宮の角に消えたときだ。


「⋯⋯ふふっ、新鮮ですね。 それでは、わたしもお気をつけて地上のドンパチ騒ぎをおさめにいきますかねっ」




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