2話:モモタ老師とロクな上司
「おはようございま、おや? 私はなぜ胸ぐらをつかまれているのでしょう?」
帝城の城門前、ハット帽にステッキをついた老紳士に「ああん?なんでやと? 誰の許可得てここ通っとんねん、許可証見せんかい」
鼻先がくっつく距離で「ああん? はああん? はあああん?」メンチをきりながら、龍がいうと。
「ちゃうちゃう、それじゃこわいほうのセキュリティやて」
横にいた虎が「なんでやねん」の要領で手のひらをぽんっとあて、手揉みをはじめた。
「ええか、こーやるんよ? うゔんッ、『いらっしゃいませお客様、アポは⋯⋯えっ、とってない? それでは通すわけにはいきませんねえ、こっちも仕事なもんで。
まあ、ソデのしたをすこしばかりいただけますと、そのかぎりではないんですがねグエッヘッヘ⋯⋯!」
こーやるんよ! すげえ、完璧やんけ!――満足げにヒタイをぬぐう虎と感動する龍の背後から、
「ええ、完璧なアホですね。 これだから不良は」
飛ぶ罵倒。
「あ? なんやとオタク野郎」
「いいからおどきなさい、ええ、わたくしがお手本をみせましょう」
オールバックの長身スカジャン龍、サングラスに白Tシャツに金ネックレスをたらす小柄な虎、そのふたりの肩を「ふんっ」と小生意気に鼻を鳴らしておしのけたミートは、メガネをスチャしていうのだ。
「⋯⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯⋯?」
「忘れていましたよええ」
⋯⋯くるり、きびすを返しながら。
「わたくし、初対面で舌がまうような陽キャとは正反対のキャラじゃないですか」
「「知らんがな」」
「あの、私、通ってもよろしいかな?」
「「ちょい待ってえや!」」
帝城の天守閣から「――待つんはお前らやバカタレ小僧どもぉぉぉぉ!」セッタをはいたそりまちさんが怒鳴りちらしながら飛び降りてきたのは、すずしい顔した老紳士の肩を虎と龍がつかんだときだった。
「おまっ、よりによってモモタ老師になんちゅーご無礼を働いて!」
「あいたっ!」「いたいてオッサン!」「なんでわたくしまで」
「だまらっしゃい!」
頭をさするロクデナシどもにそりまちさん、もういちど鉄拳を落とすと。
「タロウさんごめん! こいつら研修中のペーペーだから! おおめに見てやってよお!」
「おお、そりまちさんご無沙汰しております。 このたびは正式に皇帝の座につかれたようで、おめでとうございます」
「ああこれはこれは」
こちらたいしたものではありませんが、手土産のハムです――タキシードの胸ポケットから丁寧に包装された大きなハコをだしたタロウさんと、ぺこり、ぺこぺこそりまちさんっ。
⋯⋯⋯て待て待てなんやのいまの――!
「マジシャンか!?」「魔法やろ!」「タネも仕掛けもない、これぞ異世界ハンドパワーですかねええ」
「ほほっ、にぎやかな若人が増えてうらやましいですな」
「手土産のお礼にひとりもってく⋯⋯?」
それはけっこう――、ぴしゃり断るタロウさんにロクデナシたちから大爆笑があがる。
「いやはやほんとうに、これは荒姫さんがお喜びになられそうですな」
「⋯⋯⋯荒姫ちゃん? えっ?」
そんななか、そりまちさんの顔がくもった。
「来てるの?」
「ええ。 途中までご一緒していましたのでそろそろ」
はい撤収てっしゅう、お前ら地下迷宮の掃除行ってこい――口早にそりまちさんが三人の首に腕をまわした。
「「「地下迷宮? あらひめちゃん?」」」
「くわしいことはオイチに習え!」
お前らがここにいるとめんどうなことになるんだよ――ほほう。 そういわれると、頬がニヤつくロクデナシのサガ。
「えーーーっ、めちゃめちゃ見たいわあ〜〜アラヒメさん!」
虎が無邪気な子供のように声をあげた。
「美女やろか? 美少女か? どっちゃでもええけど挨拶せんとやなあ!」
龍はわざとらしく語尾をはずませた。
「ぐふふふ、異世界の女性はほぼ二次元⋯⋯なによりわたくしは三次元の女性も好き!」
ミートはぶれない。
「ぬぐぐぐっ」城の入り口に押す力と拮抗する、「「「んぐぐぐっ」」」踏ん張りとどまろうとする反発力。
「わるいことはいわねえから、なっ? 楽しいぞ地下迷宮? 他の世界の勇者とか魔王とかゴロゴロ転がってるぜ? ⋯⋯ぶっちゃけニート三匹と鬼の女王はワシの手にはあまるんだよ」
「「「鬼の女王やて! 絶対見んと!!!」」」
「あーもうこいつら、クビにしたいけど我慢だワシ」
歯がむそりまちさんは「“黒の片隅”」魔法の名を唱えた。
「「「オッサンの影が伸びた!?」」」その影が、スマホをかまえた三人をのみこんで地面をしずみこむ。
「知っとるか? 雇い主に行けといわれたときは『さようなら』とこたえて行くんだぜ?
んじゃ、さようなら」
「「「ブ、ブラック皇帝がァァァァア――!」」」
にくたらしい笑みを浮かべた暗黒皇帝に三人が断末魔を残すように叫び声をあびせたとき、
ズリリリリ――
なにかを引きずるような轟音が、アーチタウン帝国のおだやかな空気をふるわした。




