1話:とうとう皇帝、問う今日どうして?
「諦めるんじゃそりまち。 アフロンティアの命運はお前にたくす」
タルをテーブルにたたきつけたのは、ドラゴン族が族長・“からみ酒のマデリン”だ。そしてその横で、
「諦めろそりまち。 アフロンティアの命運はお前にまかす」
泣きじょうごの獣王が鼻水すすりながら言葉をパクるが、その濡れた瞳は置物のツボをとらえていた。
「じゃからの、そりまち。 そろそろ腹を決めて、この世界のトップになれといっとるんじゃよ」
「見返りは?」
「わらわの乳房に触れてよし」
「天秤ぐらつく提案だがお断りだマデリンちゃん」
着崩れた着物をさらにはだけるマデリンに、そりまちさんはぴしゃりいう。
「ワシにはこれから故郷の若者招待して、そのロクデナシたちのアホっぷりを楽しむ老後の計画があるんだ。
アーチタウン帝国の皇帝、それでせいいっぱいだ。
これいじょう仕事増やさせれるなんざお断りだね!」
「そうはゆってももう民に
「⋯⋯【片隅に広がる漆黒】」
「「「「あっはっはっ! 帰り支度サンキューさんきゅー もー神にはゆっといたから! お前が世界の皇帝なそりまち!
いやだからって宇宙破滅規模の魔法はよせって」
「んーーーーーー! だってワシ、明日から異世界温泉めぐり行くつもりだったんだもん!」
「「「「きもいわ」」」」
「お前らマジで消すぞ?」
「「「「やってみろや⋯や⋯あっ、ワープのうずぅ――」
「なんちゅータイミングで発動しとんや魔法」
はあ。
「えっ、わし、ほんまにこの世界の頂点に立ったの⋯⋯?」
まじで?
えっ?
まじで??
「異世界に繋がる水たまりに落ちて一万年と二千年と3日、まじかあ」
なんかワシ、世界を表と裏から牛耳る悪の親玉みたいな立場にならされたんだってぇ――! 日本じゃガキ大将にもなれなかったのぃーーーー!
「ま、分不相応というかダルいし、なんとゆーかダルいし、めんどうなことはどう見繕ってもめんどうだから結局ストレスなんだし」
オイチ、ハトリちゃん! 宴はしめてラーメンいこう!
「はいマスター」「――はとりはチャーシュ大盛りのメンマもりもりのネギぬきニンニク歯ブラシ付きで850円の“ラーメン ・ケアコウシュウ”がいいと思うっ!」
「あそこのおやっさん⋯⋯今日はインプラントで休業なんだよ」
「お金持ちィィィーーーーッ」
「そりまちさん、この世界で1番のセレブになったんだけどね」
税金がポケットマネー⭐︎、だからこそガム一個買いづれぇ。ってドープなラッパーなら歌うだろう。わしのリアル⭐︎
「ぎゃくにマスターはやりたいことないの? なんでもできるよ皇帝?」
「ガーディアンズも手足となりますでしょうし」
「やりたいことかあ」
いやあるけど。15.6歳の女の子におっさんの欲望丸出しにしたら色々まずいでしょ。たとえば、世界中の整体師あつめて肩こりと腰痛のケアして欲しいとか。サウナがぬるいとか。水風呂に汗かいたおっさんが団体規模で集まるのは潔癖症が発症しそうだからやめて欲しいとか。
いやいやまじで。長方形の面積を求めなさい、“おっさんが15人”は算数じゃなくて物理の問題だから。
サウナのわりに水風呂はせまいんだから。
だから、わしはこう答えよう。
「やりたいことかあ。 そうだな、わしの故郷の日本からどーしようもないヤツらでも招待して、この世界の発展をうながしてでももらっちゃうか」
「マスターの故郷とは⋯⋯日本のあの⋯⋯!? ごくり。 もしや、れいの“うどん”の名産地ですか⋯⋯?」「讃岐にきたなら讃岐うどん! 食わんならあんたら何食いよん! ってマスターがよく歌を口ずさんでる、あの故郷だっ!?」
「いえあー! 飲む食事ランキングではカレーとならぶ(と地元民は無意識に認識している)あのソウルフードが根付く町からロクデナシを召喚しちゃおうよ!
わし、ストレス解消したいし!」
サンドバッグではなく、⭐︎5評価間違いなしのワシの世界を堪能する顔が見たいし。
「ってことで召喚魔法――世渡り上手――。 神域の黒よ、繋げてくれ」
そのとき、アーチタウン帝国にある皇帝の城の中部で、黒き闇がうごめく。
その漆黒の輝きは、三人の男を連れ帰ると、鳴りをひそめる。
そのひとりは、山中 虎だった。
「⋯⋯マリファナ⋯⋯? いやええかわるいかは知らんけど、大学の論文のテーマはやりすぎちゃうか?」
もうひとりは、天上 龍だった。
「あーーなんやねんあのセダンのオッサン! 暴走族と間違えてちょっかいかけてくんなやこっち自転車やで!? せやけど今日のオレはご機嫌やけん許してやるけどや。
あーーー、おっす駄菓子屋のおばちゃん、じつはオレ棒アイスの当たりがでて⋯⋯ってなんやってえ。
ポタージュ味しかないってどーゆうこっちゃぁぁぁぁあ!?」
最後のひとりは、コーヒー片手に、パソコンのキーボードをカタカタするミートだった。
「陰謀論、詐欺アカウント、下ネタ、思想のこりかたまった先人たち⋯ふむ。
今日もご機嫌に荒れるネットの海、それを監視するライフセーバーがこのわたしミート⋯⋯。
うふふっ。
そろそろ働きたいでござるぅぅぅぅぅぅ」
故郷の後輩、むかしのワシを混ぜたみたいッ――そりまちさん、危機感をおぼえた。
「⋯⋯暗黒皇帝の名において命ずる⋯⋯」
だからそりまちさん、賭けにでる。
「わしは待っておった、そなたらのような わこうどが来ることを⋯⋯。 いいか、月給の半分をくれてやる⋯⋯!
そのかわり明日から、この城でまじめに働けぇぇぇぇぇえ!」
「「「バイト代でるの!? 異世界で? ⋯⋯よろしくおねがいしますぅぅぅーーーー!」
「おっしゃあああああああああ!」
ハトちゃんあのですね、内緒にしときましょうね? えっなにが? あっ、マスターが“ほぼ無給 ほぼ無休”だから暗黒皇帝って呼ばれてるってこと?
――しぃッ!
「⋯⋯月給の半分をくれてやろう」
一段上の台座にヒジをつく暗黒皇帝の貫禄を前に、「50万?」「500万?」「皇帝ですし、5億はかたいでしょう」⋯⋯指折り数えるロクデナシたちの「「「うはっはっはっ!」
高笑いが、帝城 謁見の間にこだました。




