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第二百話

 

 冷めたホットコーヒーを飲み切った後、俺は明星本部の二階にある、トレーニングルームに向かっていた。


 明星の本部というだけあって、設備は文句なしというか、日本最高峰のものとなっており、トレーニング器具だけでなく、測定装置、補助の人員など、あらゆる面でトップレベルである。


(最初は面喰ったもんな)


 元々、探索者協会の支部であったり、ホテルに併設されているような設備しか知らなかった俺からしてみれば、この設備は研究所のような感覚を覚えた。


 全てが揃っており、鍛えるということにあまりにも特化し過ぎている。


 並の才能では扱いきれず、宝の持ち腐れになってしまうだろう。


(流石は明星のメンバーだけあって、全くそんな兆候はなさそうだけどな)


 明星の様々なメンバーと会話をしたが、この施設に対して、感謝と喜びしか感じておらず、ひたすらに強くなるための研鑽を積んでいるそうだ。


 本当の強さを求めている人材からすれば、設備が整っていることは成長を促進することにしか働かないので、何の問題もない。


 むしろ、設備が整っているからこそ、他のクランではなく、明星を選んだという人もいた。


 だが、今回はそんなハイテク設備のあるトレーニングルームではなく、シンプルな模擬戦用の部屋である。


 強度という面では他の施設以上かもしれないが、内装は至ってシンプルな普通のトレーニングルームであった。


(おお、白熱しているな)


 俺が向かった先では、ヴァルと一人の女性が模擬戦を行っており、一進一退の高度な戦いをしている。


 両者、技量は互角と言ったところであり、お互いに一切の無駄のない攻防だ。


「おはようございます、伊藤さん」


 音もなく近づいてきたのは、俺が脱サラしてから初めて探索を共にした、東雲(しののめ)一花(いちか)だ。


 見た目は可愛らしい少女のようであるが、その圧倒的な戦闘能力は、ここにいる全ての人間が知っている。


【魔術】というチートそのものなスキルを持っている俺であっても、東雲と本気で戦えば、完膚なきまでに叩きのめされるだろう。


(そんな彼女も、至って普通の女性なんだがな)


 近い距離で過ごしていれば、その強さ以外にも普通の人間性が垣間見えることもある。


 なにより、元は普通の人間代表みたいな俺が、チームを組んでも問題ないのだから、彼女も至って普通の感性を持っているということなのである。


 探索者である以上、歪みはあるのだろうが。


(なかなか、終わりそうにないな)


 ヴァルは、東京第二ダンジョンにて初めて倒したユニークモンスターが変異?した存在である。


 身体能力、戦闘センスは天賦のモノを持っており、普通の人間であれば、既に勝負がついていてもおかしくはない。


 だが、その相手は、普通の人間ではなかった。


日向(ひなた)真澄(ますみ)、流石は明星でも逸材と評されるだけはある)


 ヴァルと模擬戦をしているのは、明星所属のBランク探索者、日向真澄だ。


 身長は俺と同じくらい(170センチに届かないくらい)で、スラッとした体型からは考えられないほどに素早く力強い動きをする。


 天真爛漫と言った表現がここまで似合う人を見たことがない、そんなことが言えるほどに、彼女は真っすぐな感性を持っている。


(ゆえに、上手くいかなかったんだが)


 彼女の性格は兎に角、連携に不向きであった。


 自己中心の思考をしているわけではないのだが、思考よりも先に身体が動くタイプであり、実戦投入するまでに、その部分が直らなかったのである。


 強くなるための感性や思考は良いのだが、それ以外の部分、仲間との連携や共感が上手くできないタイプであった。


(日向さんの性格が悪ければ、問題はなかったんだが)


 性格に問題があれば、人材が豊富にいる明星であれば、切ることもできただろう。


 その上、ちょうど明星には彼女を制御できそうなチームがいなかったというのもある。


 人材の宝庫ではあるが、彼女と同程度の才能を持っている、明星内のメンバーは、連携や協調性にも問題がない。


 日向さんだけのために、チームが一時的に停滞するのを容認は難しく(将来の主戦力候補なので当然だが)、持て余すような状態になっていた。


 そこにちょうど、俺たちのような、微妙な立ち位置でありながら、才能だけは他の追随を許さないチームが来たのだから、彼女を俺たちのチームに組み込もうとするのは、半ば必然である。


(あ、終わった)


 ヴァルと日向さんの模擬戦の結果は、相打ち。


 ヴァルの槍が日向さんの心臓付近を捉えており、日向さんは薙刀をヴァルの首に添えている。


 どちらも致命傷になる一撃であった。





本作品もとうとう、二百話となりました。

読者の皆様、いつも本当にありがとうございます。

今後も執筆活動を続けてまいりますので、本作品をよろしくお願いいたします。

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