第百九十八話
淵田翼の歯に衣着せぬ物言いに、俺の堪忍袋の緒は……切れなかった。
(いやあ、年取ってるな)
事件から、2ヶ月が経過したわけであるが、その間、俺は40歳の誕生日を迎えていた。
誕生日が嬉しいイベントであったのは、昔の話、20歳を過ぎた辺りから、そこまで魅力的なイベントではなくなり、30歳を過ぎた頃には忌々しいイベントになっていた。
40歳にもなると、というか、生きた年数が伸びれば伸びるほど、言葉に込められた信念のようなモノが見えてくるようになる。
それこそ、会社を辞め、探索者になりたて、階段を駆け上っていた時は周りが見えていなかったかもしれないが、佐々木ダンジョンで探索者が大量に殺され、東京に住みづらくなった今、俺も冷静さを取り戻していた。
(淵田翼も勘がいいんだな)
佐々木ダンジョンにいたモンスターは明らかに、俺の存在を認識していた。
名前を把握していたことから、俺という存在、正確には【魔術】というスキルは何かしら、この世界における重要な役割を持っているのだろう。
地球がファンタジーな世界に変わり、個が持つ力に際限がなくなった。
スキルやレベルがない時代は、銃を装備した相手に勝つこと等、どれだけ鍛えても不可能であったが、今や兵器を圧倒する個が当たり前に存在する。
強力な力を持っている分、なにかしら厄介ごとが迫ってくるのは当然のことだ。
(でも、色々、分かるからこそ、篠森さんに流されたんだよな)
俺という存在のリスク、それが把握できてはいたものの、目の当たりにこそしていないが、凄惨な事件現場に俺はいた。
正体不明の事象に巻き込まれる恐怖というのは、ダンジョンに潜ることとは別種の、全く見えない恐怖だ。
その不安感に苛まれる中、純粋に心配する気持ちを向けられれば、巻き込むかもしれなくても、断れるほどには、俺は強くない。
強くなる経験など、あまりにも積んでいないのである。
「そうですか…でも、いいんですか。私はクランマスターから直々に勧誘されているんですよ」
淵田翼は、俺という異分子によって、明星が悪影響を受けないかを懸念している。
他の構成員の多くは、そんなことを思ってはいない。
なぜか?それはSランク探索者は、それほどまでに絶対的な存在だからだ。
篠森葵がいれば、問題ない。
このクランの象徴的な存在であり、クランの強さの根源が、篠森葵である。
その彼女が問題ないとしているのだから、クランのメンバーも当然、問題ないと判断する。
(だが、淵田翼は違う)
明星の副クランマスターであり、超えてきた修羅場は他のメンバーとは桁が異なる。
Sランク探索者を除き、日本の中でも強さで言えばトップクラスの存在である、淵田翼にとって、その視点は多くのクランメンバーのものとは違う位置にあるのだ。
「関係ありません。私は副クランマスターですから」
周りのほとんど人はいない。
カフェの店員も流石に並々ならぬ雰囲気に、多くが視線すら向けていなかった。
「貴方がこのクランの正式な所属ではないことは確かです。与える影響も大きなものとはなりにくいでしょう」
淵田翼の視線が俺の目を射貫く。
「ですが、どうにも、私は貴方が危険な存在に見えて仕方ないのです」
彼女の言葉は、強い確信に満ちていた。
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