第百九十七話
「ホットコーヒー1つ、アイスコーヒー1つ、サンドイッチ2つでよろしかったでしょうか」
女性ウェイターの言葉に、2人揃って頷く。
カフェに入り、空いていた奥の方の席に座った俺たちは、コーヒーと軽食をそれぞれ注文していた。
「かしこまりました。少々お待ちください」
剣呑な雰囲気を纏った俺たちに気圧されることもなく、女性ウェイターはきびきびとした動きで去っていく。
明星の本部内にあるカフェだけあって、ウェイターも鍛えられているらしい。
肉体的な強さはそこまでであるが、上位クラスの探索者2人がいても、物怖じしない胆力は並みとは言えなかった。
「あのウェイターも明星所属なのか?」
「明星本部内の職員や店員には、最低限のレベル上げを行っているんです。施設の利用も可能なので、彼女も鍛えているんでしょう」
(これで最低限ってのは凄いな。……まあ、他の職員は俺以上のレベルなことも多いが)
ここの職員などとは会話を幾度もしているが、施設内の人間は、元は明星で探索者をやっていた者も多く、この施設の職員などは再就職先として機能している。
先程のウェイターのような者もいるが、どちらかと言えば、再就職先として、個々に勤めている者の方が多かった。
(心を折られる者も多いからな)
探索者をやっていると、時に重い怪我に見舞われることもある。
ダンジョンの技術、アイテム、モンスターの素材、そして、科学、これらが医療技術を飛躍的に進歩させた。
多くの病気や怪我は治る見込みがあり、手足を切断されたとしても、元の状態に限りなく近づけることができる。
それは身体の話であって、精神は別である。
身体の修復は容易になった反面、精神の方はそうもいかなかった。
ファンタジーが生み出した技術は、精神が傷ついた者への処方箋とはならなかったのである。
それに、仲間を失った探索者が能力の兼ね合いで、復帰できないケースもある。
クランに所属していれば、再編成することで新しいチームとして、再び役割を与えられるが、元のような活躍はできないことが多い。
自主退職する者も多くおり、俺はこのようなケースで職員になった人と話したことがあった。
「おまたせしました。ホットコーヒーとアイスコーヒー、サンドイッチになります」
会話が弾むこともなく、気づけば、注文していた品が届いていた。
温かいコーヒーの香りが鼻腔をくすぐり、綺麗に盛り付けられたサンドイッチが食欲をそそらせる。
「いただきましょうか」
お互いに手を合わせてから、朝食を取り始める。
俺はホットコーヒーを飲み、淵田翼はサンドイッチに手を付けた。
彼女の容姿はかなり整っており、知的なオーラを纏わせているので、上品な所作で食事を取る姿は様になっていた。そうしたことから、いい教育を受けてきたことが窺える。
(俺も食べますか)
ホットコーヒーで身体を温めた後、俺もサンドイッチを食べ始める。
このカフェのサンドイッチは1種類しかなく、ベーコン、レタス、トマトをパンで挟んだ、BLTサンドイッチのみであった。使われているベーコンの厚さは1センチと、かなり分厚く切られており、ボリューム満点だ。
一口食べると、ベーコンの旨味と野菜の食感がマッチしており、とても美味しい。
(下手すると、1つでお腹いっぱいになりそうだな)
ただ、ベーコンがあまりにも分厚いので、俺にとってはボリューム満点過ぎるのか、朝食にしては重い。
まだ、1つ目を食べきれていないにもかかわらず、既にお腹は膨れ始めていた。
(どうせ、後で探索前の調整もするから、大丈夫か)
明星に来てからは、探索者として求められる調整方法を勉強しており、適切な水準のトレーニングなど、色々教えてもらっていた。
ここの人間全員に嫌われているわけではなく、親切にしてくれる人もたくさんいる。だが、目の前にいる人物は、俺に対して明らかに敵対心を向けている。
「伊藤さん、私がただ貴方と食事を取るために誘ったとは、思っていませんよね」
俺のサンドイッチが1つ無くなった頃、淵田翼は冷たい声で切り出してきた。
「勿論、分かっていますよ」
俺はホットコーヒーを一口すすり、彼女に目を合わせる。
「私は貴方にいなくなって欲しい」
淵田翼が、一切表情を変えることなく、そう言い放った。
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