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第百九十六話

 

 あれから、約2ヶ月の月日が流れた。

 佐々木ダンジョンは、現在閉鎖されている。

 第42階層以降にいた探索者は、俺たち以外全員死亡していた。

 前代未聞の事態に、探索者協会は討伐隊を結成し、ヴァンパイアのユニークモンスターと思われる存在と交戦、討伐に成功したとニュースになっている。


 何か情報を知っていそうな東雲は、あのモンスターについて、一切話してくれなかった。

 正確には、俺が聞こうとした時、焦燥に駆られた彼女の表情が思い出され、聞くに聞けなかったのである。


 そして、あの事件以降、俺たちは活動拠点を東京から札幌に移していた。

 理由は、佐々木ダンジョンが使えなくなったこともあるが、わざわざ北海道にまで拠点を移したのは、篠森さんが札幌に住まないかと提案してきたことが大きい。

 元々は「明星に所属はできない」と断っていたのだが、同席していた明星の東京支部長の山崎さんが「補助要員としてなら、所属せずとも大丈夫ですよ」と言ったことにより、流れが完全に持っていかれた。


 佐々木ダンジョンの一件は、かなり大きく取り扱われており、探索者協会が俺たちを守る形で問題を回避していたのだが、その守りも万全ではなかった。

 そうした状況になっていたこともあって、俺は北海道に移住することを決めたのである。


「さっむいな」


 現在時刻は午前8時、札幌の気温はゼロ度を優に下回っており、非常に寒い。

 東京にも寒い時期はあったが、辺りは雪が降り積もっており、ここまでの積雪を常時見ることはなかった。

 こんな環境下でも関係なく、次々と車が走っていくのは、人の勇ましさを感じさせる。


(さぁて、今日も探索しますか)


 東京にいた頃と変わらない、いや、ある意味では大きく変わった日常が、今日も始まろうとしていた。


 ♦♦♦


「おはようございます、伊藤さん」


 慇懃な態度で挨拶をしてきたのは、淵田(ふちだ)(つばさ)、明星の副クランマスターだ。

 俺は今、明星の本部へと足を運んでいる。

 明星の本部は、札幌では有数の巨大な建造物であり、観光目当てに人々が建物の周囲に来るほどであった。


「おはようございます」


 たかが、探索者のクランの拠点だと思うかもしれないが、明星は世界トップクラスのクランである。

 ここまで行くと、その存在価値は計り知れないものがある。


 かつて、大企業が大きな影響力を持ったように、今の世界ではクランこそがその影響力を持つ存在となった。

 明星に入ることは、スターへの道であり、所属すれば、誰もが羨望の眼差しで見てくる。


(それはクランの誘いを何度も断ったんだから、目の敵にするよな)


 そのため、俺と淵田翼の関係は、あまりよいものを築けていない。

 会うたびに、スッと目を細めて睨みつけてくるし、会うたびに明らかに当たりがキツイのだ。

 容姿はかなり美人だが、冷たい態度を一貫されれば、いい印象を抱くことはできない。

 彼女と毎度顔を合わせるわけではないのだが、今日はついていない日らしかった。


「折角なので、お茶をしましょう」


 明星のクラン本部内には、和・洋・中が楽しめるレストランに加え、カフェが2軒ある。

 エントランス近くにあるカフェは、コーヒーが美味しいことで有名であった。


「そうですね。……寒かったので、ちょうど、ホットコーヒーが飲みたかったところです」


 淵田翼からお茶の誘いが来るとは思っていなかったが、ナンバー2からの誘いを断るわけにはいかない。

 了承の意を伝えると、俺は彼女と間隔を開けながら、歩いてカフェへと向かう。

 同じペースで歩く彼女も、その距離を縮めてこようとはしなかった。




読者の皆様、いつもありがとうございます。

第二部、開幕いたしました。

今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。

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