第百八十九話
それからも、近くにいた地中ダコを使った戦闘(実験)は続いた。
大体は【雷撃】と【アイス・ランス】の有効性を高めるために、どのような過程をへる必要があるのかを検証していったのだが、思いのほか楽しく進めることができた。
これが純粋な実験であれば、そんなことにはならなかっただろう。
だが、これは魔術を使った検証だ。
自分の強みをドンドン理解できる作業は、どんなことであれ、楽しいものである。
「伊藤君も大概だよね~」
途中で篠森さんのそんな言葉が聞こえたような気がしたが、スルーして検証を進めていった。
正直、【深淵】なんていう、空間属性の魔法を使って、容赦なくモンスターを蹂躙した篠森さんには言われたくはない。
強さの度合いで言えば、明らかに向こうの方が上であり、やれることも多い筈である。
そんなこんなで、【摩天楼】・第一階層の地中ダコに対して、最短で倒す方法は確立できたのだが、ダンジョンごとに同種のモンスターでも強さが異なるため、実のところ、そこまで意味はない。
ただ、ここでは効率的に討伐ができるのと、同系統のモンスターに対しての戦術をある程度学ぶことができたのは僥倖だと言える。
俺に足りないのは経験であり、戦い方のバリエーションを増やすことができているのは、プラスにしか作用しない。
地中ダコを狩りまくった影響で、稼ぎとしては十分であり、そろそろ帰還しても良い頃合いであった。
「折角だから、奥まで行ってみない」
篠森さんが折角なので、第一階層の奥まで行ってみないかと提案してきた。
(断る理由はないよな)
普通に考えれば、これは無謀な提案だ。
Bランクに上がりたての探索者に、摩天楼という未踏破ダンジョンの第一階層を最後まで探索させる。
ダンジョンは命のやり取りをする場であり、油断が生む隙によって、容赦なく探索者の命は失われるからだ。
しかし、それは普通のBランク探索者の場合である。
今のところ、キッチリと戦えば、命を危険に晒すことなく探索できているので、無理をしているような提案でもない。
ましてや、Sランク探索者である篠森葵に、推定Aランク探索者の東雲一花、Bランク探索者と比較しても上位クラスの実力はあると思われるヴァル、高い機動力を保持する幼体のドラゴンのソフィ、そして、様々なケースに対応が可能な魔術の使い手である俺がいるのだから、余程のことがない限り、命を脅かされることはないだろう。
(とうとう、目にすることになるのか)
第一階層、最強のモンスターがいる領域に足を踏み入れる。
【レッサードラゴン】
それがこの階層の覇者である存在の名であった。
♦♦♦
摩天楼・第一階層の空では、四体のレッサードラゴンが悠々と飛んでいた。
レッサードラゴンの体長は十メートルを超えており、強固な鱗の鎧を身に纏った身体は、探索者が放つ魔法や矢を容易く防ぐ。
中には強力なスキルを元に、攻撃を仕掛けてくる者もいるが、そんなのはごく少数であり、そもそも、空を飛んでいる限りは攻撃をまともに当てられることもない。
生存競争の頂点に立っているのは、単純な強さだけでなく、知能も影響している。
ワイバーンは探索者を見かけた際には直ぐに攻撃を仕掛けるが、レッサードラゴンは違う。
探索者たちの戦力を見極め、狩りが可能であるかを吟味する。
どちらが獲物になるのかを予測し、狩人側であることを認識して、初めて攻撃を仕掛けるのだ。
(?)
ここまで能力が高いからこそ、レッサードラゴンはある意味、油断していた。
吟味することができるのは、あくまでも実力が近い場合に限られる。
ただ、探索者は自身の実力に合ったダンジョン、階層を探索するため、見合っていない実力者に早々鉢合わせることはない。
そんな想定は知能が高くないとできないわけであり、本能的な判断よりも優先された経験的な判断によって、レッサードラゴンは自身を脅かす存在を認識できていなかったのである。
「ギャ」
たった一発、光の線が横を飛んでいた仲間の頭を貫通する。
魔法を防ぐはずのバリアは機能せず、硬い鱗は溶けていた。
残った三体のレッサードラゴンは光線が飛んできた方角を見る。
そこには三人の探索者と人間みたいなよく分からない存在、そして、幼くはあるが同族がいた。
読者の皆様、いつもありがとうございます。
今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。




