第百七十一話
「すみません」
「気にしないでください」
山崎さんの愚痴をひとしきり聞いた後、彼は深々とお辞儀をしてきた。
関係が深くないこともあって、話しやすかったのだろう。
普段の彼とは全く違う一面が見れたのは、多少面白いとも思ったので、俺は別に構わなかった。
「本当にすみません。お恥ずかしい」
素面でここまで愚痴を言うのも相当珍しいことではあるが、それほど不満が溜まっていたということなのだろう。
それなりの立場の勤め人として、仕方のない部分もある。
その後はなんとか、山崎さんを落ち着かせて、別れた後、俺は東雲とヴァルと合流すべく、料理が置かれているテーブルの下に向かった。
「どうですか、雰囲気には慣れましたか」
ドレス姿の東雲がこちらに気づいたのか、近づいてくる。
東雲は青、ヴァルは赤のドレスを着ており、二人とも思わず視線が固定されそうになるほど似合っていた。
(見慣れていなかったら、ヤバかったな)
参加者の中には、二人の方をじっと見ているものもいる。
ここはVIPしかいない場で、相応の立場の人間しかいないため、声を掛けるのを躊躇しているのだろうが、もっと開かれた場所であれば、砂糖に群がる蟻のように、ヴァルと東雲は男性たちに囲まれていただろう。
(ああ、でも、あしらったりもしてたっぽいな)
中には、俺のことを恨めしそうに見る若い男性もいるので、もしかしたら、既に袖にされた後なのかもしれない。
ただ、俺には関係ないことなので、特に誇示するでもなく、スルーして二人と一緒に食事を楽しむ。
(流石……美味しいな)
高級食材は多少雑に調理しても美味しいことが多いが、一流の料理人が調理することで、食材の良さがより引き立つ。
「ヴァル、そろそろ行くぞ」
ヴァルは、ここでもいつもの大食いを発揮していた。
ウェイターが怪物を見るような目でヴァルを見ていたので、相当な量の料理を食べていたのだろう。
先程とは別の意味で嫌な視線を受けて、思わず苦笑いしそうになった。
「これで、さいご」
皿に盛られた料理の数々が、ヴァルの口に吸い込まれるようにして消えていく。
ヴァルはオークション会場でも平常運転であった。
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